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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第33話 魔闘会でショータイム!①

大変お待たせ致しました・・・
魔闘会編突入です!

 魔闘会一週間前。
 首都グレイフナーは早くもお祭りムードだった。

 世界中の国から観光客が来る魔闘会は莫大な経済効果を生み出し、大きな商機となるこのお祭り騒ぎは商会や商店を巻き込んで一大イベントとなる。


 駆け出し商人はのし上がろうと虎視眈々と商機を狙い——
 大店の店主は儲けようと場所取りに余念がなく——
 恋人のいない男女は運命の出逢いを求め——
 屈強な男はグレイフナードリームを目指す——


 そして貴族達は………水面下で情報戦を繰り広げていた。


 対戦相手が分かれば傾向と対策が練ることができるため、この時期は各家々の密偵が暗躍している。
 我がゴールデン家も多くの密偵を放ち、情報が漏れないよう邸宅の警備兵を厚くしていた。

 そんな浮き立つような緊張した空気が流れる日常の中、俺が談話室でのんびり紅茶を啜っていると、オバハンメイドが談話室に飛び込んできた。

「お嬢様! わたくし、応援用の横断幕を作りました!」

 目の下に大きな隈を作ったクラリスが喜々として横十メートルに及ぶ布を広げた。自分が右端を持ち、反対側を夫バリーに持たせている。

 横断幕には『ぶちのめせエリィお嬢様!!!』と書かれており、隅にエリィのウインクしたサービスショットが“複写コピー”されていた。

 うおおおい! どこでそんな写真入手した?!
 って絶対テンメイだな!
 あいつ、モデルの撮影で余った写真をクラリスに渡しているらしいな。あのエロ写真家め、プライバシーの侵害でお尻ピチィの刑に処す!

「これを最前列にぶら下げます!」

 ふんっ、ふんっと鼻息が荒いクラリス。
 魔闘会一週間前でこのテンションって……当日どうなるか恐い。ほんと恐い。

「わたくしはこれを作りました、お嬢様!」

 今度はバリーが強面を引き締め「おい!」と呼ばわると、部下のコックが談話室に入ってきた。
 二人一組になって縦横五メートルほどのボードを持っている。
 それが全部で三つ。

 ボードには『エリィお嬢様最強!』『孤高のプリティガール!』『おおっと、相手はフラフラだぁ!』と書かれており、その背景としてエリィの様々な笑顔が“複製コピー”されている。

 バカたれっ!
 めっちゃ恥ずかしいぞ!
 おおっと相手はフラフラだぁってどこで使うんだよ?!
 顔が熱いからエリィも恥ずかしがってるぞこれ!

「不肖バリー、応援ボードにさらなる細工を施しました……」

 泣く子も黙る強面のバリーが不敵に片頬を吊り上げた。
 パチン、と指を鳴らすと、コックが一斉にボードをひっくり返して三つを繋げた。
 三枚のボードが繋がり、一つの文章になった。


『グレイフナーに舞い降りし女神! その名もエリィ・ゴールデェェン!』


「お嬢様が勝利したらこれを掲げますッ!!」

 バリーがドヤ顔で言うと、クラリス、コック達がニヤリと笑った。

「恥ずかしいからやめてええぇぇっ!」

 エリィが本気で叫んだ。

 そらエリィも叫ぶわ!
 何が“その名もエリィ・ゴールデェェン”だよ?!
 デェェンってなんだよデェェンって!?

「あら、クラリスとバリーは今年も横断幕とボード? 私達は手旗にしたよ〜」

 ひょっこり顔を出したエイミーが談話室に入ってきた。
 姉妹三人で作っていたのか、エリザベスとエドウィーナも後から入ってくる。
 美人三姉妹は両手いっぱいに手旗を持っており、旗にはゴールデン家の家紋が描かれていた。よくマラソンの応援で観客が振っているアレだ。

「コバシガワ商会とミラーズの分もあるから多めに作ったわ」

 次女エリザベスが母アメリアと似た大きな吊り目を瞬かせる。

「勝つのよ。絶対に勝つのよ」

 長女エドウィーナが長い髪をかき上げ、ギラギラした視線を向けてきた。

「はい、お姉様。がんばりますわ」
「がんばりますわ、じゃなくって、勝つのよ。いいわね」
「わ、分かっております……」

 エドウィーナの眼力がやゔぁい。
 あとおっぱいがでかぁい。
 顔を思い切り近づけるからエリィとエドウィーナの胸がビートゥギャザーしてるぞ。

「エリィ、見て見て! 私、自分専用の手旗を作ったの!」

 エイミーがそんな姉など気にせず、テンションが上がりきっているのか、いそいそと談話室から出て、廊下から何かを引っ張ってきた。
 そして身体強化をすると、その手旗を持ち上げて広げた。

 旗は全長二十メートル。
 『エリィがんばれ! エリィがんばれ!』とド派手に書かれている。

 でかっ!
 完全に手旗の域を越えてるな?!

「エイミーはずるいわ。私も身体強化できれば大きな手旗にしたのに」
「本当ね。研究職の私達には必要ない技術だけど、こういうときだけは羨ましいわ」
「お姉様、私達も身体強化を覚えます?」
「そうね。大変そうだけどやりましょうか」

 エリザベス、エドウィーナが心底羨ましげにエイミーが掲げる旗を見上げている。天井の高い談話室でも、斜めにしないとエイミー特性応援旗は広げられない。どうやらグレイフナー国民はお嬢様であろうとも、でかくて目立つ物が好きな模様だ。

 クラリス、バリー、コック達、三姉妹はお互いの応援旗について褒めたり指摘したりし、大いに盛り上がった。そこにメイドと執事達も集合し、話し声がさらに大きくなる。

「おおっ、やっているな」
「ほどほどになさいよ」

 談話室に父ハワードと母アメリアが入ってきた。
 使用人は歓談をやめて一礼し、横断幕や応援旗を手早く片付けた。

 二人がソファに座ると、それを合図に姉妹が座ったので俺もそれに倣った。
 クラリスの娘でメイド長のハイジが全員分の紅茶を淹れると、ハワードが口を開いた。

「では、第403回魔闘会についての意見交換と確認を行う」



     ◯



「まずは領地表を」
「かしこまりました」

 当主ハワードに目を向けられたハイジが一礼し、準備してあった一覧表をテーブルに広げた。
 そこにはグレイフナー王国貴族の領地所有数が書かれていた。
 全貴族の所有数が書かれているため細かくびっしりと記載があり、羊皮紙が黒く塗りつぶされたように見える。

=====================
グレイフナー王国貴族所有領地数

 1.バルドバット家(1002)
 2.サウザンド家 (1001)
 3.テイラー家  (822)
 4.ヤナギハラ家 (746)
 5.ササイランサ家(600)
 6.ガブル家   (550)
――――――――――――――――――――
 7.ジャクソン家 (470)
 8.サークレット家(420)
 9.ピーチャン家 (402)
10.クラーク家  (367)
11.ウォーカー家 (340)
12.ヤングマン家 (322)
13.ジュウモンジ家(285)
14.エヴァンス家 (252)
15.シュタイガー家(238)
16.ツ家     (220)
17.ストライク家 (209)
18.ワイルド家  (150)
19.リッキー家  (150)
20.マウンテン家 (124)
21.シルバー家  (119)
22.ショフス家  (111)
23.モッツ家   (106)
24.ギャリック家 (103)
25.ゴールデン家 (100)
――――――――――――――――――――
26.フィッシャー家(96)
27.ムーフォウ家 (92)
      ・
      ・
      ・
332.グランティーノ家(2)
      ・
      ・
=====================


 ゴールデン家は三桁ぎりぎり。
 サウザンド家とヤナギハラ家は改めてこう見ると、その領地数に驚かされる。
 そういやサツキも出場するのだろうか。
 あと、グレンフィディックのじじいに言って領地2、3個分けてもらおうかな。

 サークレット家が今のところ領地数420。
 ただこの数字はミスリル事件の影響でかなり減るだろう。

 ジェニピーことジャニファーのピーチャン家は領地数402か。さすが、大物っぽいオーラがあるお嬢様の家だ。領地もでかい。

 アリアナの敵、ガブル家は550。
 ゲス野郎ボブのリッキー家は150。
 ポカじいの指導を週一回受けてめきめきと実力を伸ばしている、スルメのワイルド家も150。

 一覧表の下にあるグランティーノ家は領地数2で崖っぷちだ。
 がんばれアリアナ。喉が張り裂けんばかりに応援するぜ。

「ゴールデン家直系の出場者はエイミーとエリィだ。全員異論はないな」

 ハワードが垂れ目に真剣な空気をまとわせて室内をぐるりと見回した。
 誰の目にも否定の色がないと見たのか、ハワードはゆっくりとうなずいた。

「エイミーが去年同様『個人技』。エリィは『一騎討ち』と『トーナメント』。まさかエリィを魔闘会に出場させることになるとは、戦いの神パリオポテスが杖を投げるほどに考えられないことだが……一家でエリィが一番強い。それは俺も認めよう」
「頑張って修業しましたわ、お父様」
「うんうん。そうか。偉いね、エリィ」

 エリィスマイルを送ってやると、ハワードが相好を崩した。
 ゴールデン家特有の垂れ目がさらに垂れ目になる。

「手合わせをして驚きました。今のエリィの実力は、定期試験で880点から910点の間でしょう。本人も出る気満々みたいですし、出場を認めざるを得ません」

 母アメリアがニコリともせずに言う。
 秘密特訓場で模擬戦を行い、本気で来いと言われたので十二元素拳で五十メートルほどぶっ飛ばしたのがいけなかったかもしれない。アメリア、負けず嫌いっぽいもんな。

 ちなみに付け加えると、母アメリアは王国騎士団シールドを脱退しているので出場権利がない。在籍しているならば七年に一度だけ出場資格はあるそうだが、辞めると資格が消失するみたいだ。シールドで培った技術を魔闘会で使うなってことだろうよ。

「我が娘ながら芯の強い子に育ってくれて鼻が高いよ。アメリアの教育がよかったんだろうな。さすがはアメリアだ。美しいだけじゃなく子育ても上手なんだから、ますます君に惚れたよ」
「まぁ………」

 両手に手を当て、頬を染めるアメリアはハワードにしなだれかかった。
 アメリアの扱いがうますぎる。

「今年の『団体戦』はゴールデン家領地内から屈強な者を選抜するとしよう。私が大将として出てもいいが——」
「あなた」
「とまぁアメリアに怒られるわけだ」

 ハワードは肩をすくめた。
 肺の持病があるからな。ポカじいの診断で、激しい運動は禁止、と言われている。

「お父様、確認ですけれど『一騎討ち』の対戦相手はまだ分からないんですよね?」
「ああ、分からない。当日の早朝に発表される」
「指名をされた場合、拒否権が使えないと聞いたんですけれど、権利を使い切ってしまったという理解でいいのでしょうか」
「そうだね。これは私のせいでもあるのだが……」

 魔闘会の花形である『一騎討ち』は対戦相手を決めるルールが二つある。

『その1、くじ引き
(対戦拒否発動不可。いかなる場合でも対戦すること)
(賭ける領地は3つまで。双方の合意で賭け成立。不成立の場合は1つ)
(領地数三桁以上のグループ、それ以下のグループで分かれて組み合わせを行う。※今年は領地数三桁以上が25家で奇数になるので、王国から指名された魔法使いが一名出場し、くじ引きであぶれた家と戦う。貴族側は勝てば王国直轄領をもらえ、負ければ領地が没収となる)』

『その2、指名
(対戦相手の家を1つ指名できる。※領地数三桁以上は三桁未満を指名できない)
(賭ける領地は3つまで)
(複数指名された場合は五戦まで戦う。五家以上に指名された場合は指名された中から対戦相手を選べる)
(対戦拒否発動可能。3回使用で領地を1つ失う)
(対戦拒否発動を合計3回使用した場合、翌年は使用不可)
(対戦拒否権は0にならないと回復しない)
 ※一年目に1回使用→残2回。
  二年目に1回使用→残1回。
  三年目に1回使用→残0回。
  四年目→使用不可
  五年目→残3回
(戦う順番や日程は王国側が決定する)』

 ゴールデン家は対戦拒否を3回使っているらしいので、今年は使えない。
 三桁以上の家が25家あるから、全部に指名されたら二十四回戦うってことにならないか、と思ったがその辺もしっかりルール化されているな。

「指名された側の最大で対戦数は五つまでだ」
「では、私が『一騎討ち』で戦う可能性は、くじ引きで一回、指名で五回の最大で六回ですわね」
「我々が指名したら一回プラスになるから、最大で七回戦う可能性があるね」
「指名は絶対にしなければいけないのですか?」
「しなくてもいいんだが、しないと王国民からひんしゅくを買うだろうね」
「なるほど……」
「交代要員として選手を五名登録するんだよ。しかし、現在ゴールデン家の闘士は最大点数が730点だ。念のため枠の上限まで選手登録はするが、エリィがすべて戦ったほうが勝率は高いだろうね。十五歳で出場資格を得たばかりの女の子に一家の命運を預けるのは………酷であるが……」
「お父様、そんな顔をしないでください。私は今までお父様、お母様、お姉さま方、クラリス、バリー、みんなに心配をかけてきました。もうひとりでも大丈夫なんだという姿を見せるためにも精一杯やります。だからいつもの優しい顔に戻って。ね?」

 エリィの言葉を代弁して言ってやった。
 父ハワードは握っていた拳をゆるめ、肩の力を抜いた。

「ああ、分かったよ」
「お嬢ざばぁっ!」
「おどうだばぁっ!」

 クラリスとバリーが速攻で涙腺を崩壊させた。

「それで、どこを指名するかよね」

 うおんうおん泣いているオッサンオバハン夫婦を尻目に、黙って話を聞いていたエドウィーナが長い足を組み直し、口を開いた。エリザベスとエイミーが興味津々といった様子でソファから身を乗り出す。
 長女の言葉を聞き、母アメリアが領地表を睨みながらサークレット家を指差した。

「そうね。六大貴族は強すぎるから当然除外よ。やはりここはサークレット家かしら」
「ミスリル事件でごたごたしているから狙い目ですわね」
「ええ、そのとおりよ」
「去年出場していた黒魔法使いはグレイフナーにいないという噂ですし」
「ああ、あの分家の大男ね」
「長女のヴァイオレットが出てくると思いませんか? 確か定期試験で758点だったはずですわ」
「へえ、結構強いじゃないの。生意気ね」
「それにサークレット家といえばエリィに乱暴した次女がいるでしょう? わたくし、前々から頭にきていたんですのよ」
「奇遇ねエドウィーナ。私もなのよ。あの家を何度“爆発エクスプロージョン”しようと思ったか回数を覚えていないわ」
「まあお母様ったら、怖いですわ」
「オホホホホホ」
「オホホホホホ」

 怖いよ。マザーと長女怖いよ。
 目が全然笑ってないよ。

「よしなさい二人とも。まずはエリィの意見を聞こうじゃないか」

 父ハワードが二人をたしなめながら、領地表に書かれているサークレット家の文字をこれでもかと杖でぐりぐり押している。
 全員の怒りが再発したらしい。

「サークレット家、滅殺!!!」

 クラリスが拳を振り上げると、使用人らが大股を開いて両拳を腰だめにし、「イエエエエェイ!」と歓声を上げた。いつの間にか使用人全員が集合している。
 これはこの流れに付き合っていたら話が終わらないパターンだ。

 オホン、と可愛らしい咳払いをして注目をこちらに向けた。

「わたくしは、ずばりこの家を指名したいですわ!」

 エリィの白くて長い指を領地表に向け、トントンと叩いた。
 指の先に書いてあるのは憎っくきあの家だ。

「リッキー家!!!」

 全員がテーブルに顔を寄せて、その名前を叫んだ。

「はい。わたくしはリッキー家に対戦を挑みたいですわ。そして特別ルール、五年に一度だけ使える権利『倍返し』をしたいと考えております」

「ば、倍返しっ!!!??」


 全員がテーブルへ向けていた顔を一斉にこちらへ向けた。


「領地10個賭けで」


 両手を広げて10個をみんなにアピールしてみせる。


「じゅ、10個ぉ???!!!!!」

「な、なんだと?!」「思いつかなかったわ」「そうですわね」「エリィカッコいい!」「燃えるわ〜っ」「おどうだばっ!」「エリィお嬢様は世界一ィッ!」「リッキー家ぶち殺す!」「ガチ上げですわっ!」「凛々しいですわお嬢様!」

 父、母、三姉妹、使用人らが思い思いの言葉を漏らし、談話室が一気に騒然となった。

 それもそのはず、『一騎討ち』の特別ルール『倍返し』。
 五年に一回権利がストックされ、一度使うと、次回使用にはまた五年待たなければならない。
 最大で領地を10個まで賭ける権利がもらえ、勝てば相手側の10個領地を奪うことができ、負ければ倍の20個を奪われる。まさに諸刃の剣。大博打だ。過去の魔闘会でも『倍返し・10個賭け』はほとんど実行されていない。

 サークレット家への意趣返しはほぼ完了していると言っていいので、これ以上こちらからあの家へアクションを起こす必要はない。

 一つ気になっていることは、ゾーイの行方だ。
 無断欠席が続いたのでハルシューゲ先生が家まで言ったところ、彼女の家はもぬけの殻だったらしい。スカーレットが言っていた「スパイなのよ」という言葉はどうやら本当みたいなので、サークレット家が調査しているとは思うが、念のため先生に伝えて王国に報告してもらった。

 ま、それよりもボブだ。
 あいつの鼻っ柱を折ってやらないと気が済まない。

 あの男、今まで散々エリィのことをブスだデブだの言ってきたくせに、美人になった途端、好色な目でじろじろと見てきやがるクズだ。何ならこの前、偉そうに「俺の家に来い」とまで言ってきたからな。もちろん全力でシカトした。

 しかもエリィを強引に連行しようとしているのか、最近俺の周りを得体の知れない男達がうろついており、とてつもなく不愉快だ。首都グレイフナーの警備体制がいいため、あやしい男のほとんどが職務質問されているけどな。

 近頃は人気のない場所を歩かないようにしている。
 通学方法も馬車に切り替えた。
 襲われて魔力妨害の腕輪を付けられたら洒落にならないからな。

 あいつは正真正銘の最低野郎だと認定した。男でも引くわ、そんなもん。

「エリィ、そこまで言うなら勝算があるんだろうね」

 ハワードがざわめく使用人達を静かにさせ、こちらを見た。
 その目には期待と心配が半分ずつ入り混じっている。

「もちろんですわお父様。クラリス、説明してちょうだい」
「かしこまりました」

 クラリスが恭しく一礼し、一枚の用紙をテーブルに広げた。

「こちらが過去三十年分のリッキー家の魔闘会出場選手名と得意魔法です。傾向としては『闇』と『風』の適性が多く、ほとんどが傭兵あがりか冒険者で構成されております」
「確かに……。血のつながりがない者ばかりが出場しているな」
「血縁者以外がリッキー家の名前で魔闘会に出場するには、その家に五年以上所属しているという証拠が必要になりますので、わたくしはエリィお嬢様に依頼を受けて彼奴らの雇っている人間を洗い出しました。対抗策も万全でございます」
「よく情報がつかめたな」
「サウザンド家と協力しておりますので」

 クラリスがちらりとアメリアを見ると、彼女はぴくりと眉を動かしたがそれ以外の反応はしなかった。
 グレンフィディックからアメリアに宛てた手紙が頻々に届いているが、母は読まずにすべて“爆発エクスプロージョン”している。謝罪は受けたといえども、許す気にはなれないらしい。

「実のところ、リッキー家はならず者を雇い、犯罪行為に加担しているとお嬢様は考えております。孤児院の子どもの誘拐にも手を貸しておりました。証拠が不十分ですので王国には伝えず、調査を続けております」
「……前々からいい噂は聞かないからな」

 ハワードがしかめっ面で腕を組んだ。

「さようでございます。王国にも尻尾をつかませないので、強力な家がバックについている様子でございます」
「ほう。その家とは?」
「ガブル家は間違いないでしょう。バルドバット家も近頃はガブル家の人間と接触しているとの報告を受けております」
「領地数1位のバルドバット家が?! あの保守派のお固い家が、まさか……」
「この『倍返し』は牽制と炙り出しの意味が含まれてございます。我々が先んじてリッキー家に『倍返し』を予告しておけば、奴らは強力な傭兵を出してくるでしょう。その動きを追い、リッキー家の後ろに“何が”いるのか見極めたいと存じます」

 一同が唸り声を上げた。

「お父様にご提案がございます」

 難しい顔を作っている父ハワードに声をかけた。

「他家と協力して『倍返し』を行いたいのです。勝手ではありますが、信用できる家にはある程度話を匂わせてありますわ」
「他家と協力して………?」
「はい。まず、サウザンド家にも10個賭けでリッキー家に『倍返し』をしてもらいます。次に、領地数4位ヤナギハラ家。リッキー家に因縁があり毎年指名している領地数5位ササイランサ家。領地数9位のピーチャン家。18位のワイルド家。五つの家からは承諾がもらえると思いますわ」
「エ、エリィ、それは本当か?!」

 ハワードがソファから立ち上がった。
 母アメリア、三姉妹、使用人達もスケールの大きさに生唾を飲み込んでいる。

「いずれもリッキー家の動向を注視してきた家々と、わたくしの友人がいる家です。まだ具体的に『倍返し』で10個賭け、とは伝えておりません。あくまでもリッキー家周辺の捜査を依頼しております」
「エリィが私に定期報告していたリッキー家の調査か……」
「そうですわ。協力関係にあるのでほぼ確実に今回の作戦を引き受けてくれると思います。上位四家はリッキー家にまず負けないでしょうから、領地を増やす絶好のチャンスだと思うでしょうね。さらに、リッキー家は拒否権を2回使っているので1回しか使用できません。袋のチュウチュウネズミですわ」
「サウザンド家、ヤナギハラ家、ササイランサ家、ピーチャン家、ワイルド家、ゴールデン家。この六家のうち一つしか拒否できないということか」
「そうですわね」

 父ハワードに笑顔で答える。
 うまく事が運んでリッキー家が全敗すれば、『一騎討ち・指名』で領地がマイナス50。『一騎討ち・くじ引き』で領地が最低でもマイナス1。150引く51で領地数99個。三桁から二桁貴族に転落だ。これは興奮する。

「しかし……王国側に共謀だと思われれば『倍返し』は取り下げになるぞ……」

 ハワードがソファに腰を下ろし、眉間に皺を寄せたままこちらを見た。

「それは大丈夫ですわ。もう許可はもらっておりますので」
「………なんだって?」
「ですので、国王の許可はもらっておりますわ」
「ええぇっ?!」

 ハワードの叫び声とともに「なんてこった」「エリィお嬢様」などのため息が漏れる。
 実は昨日、ゴールディッシュ・ヘアの開発進捗具合を報告しに国王と謁見したばかりだ。

 国王としてもミスリル事件は国内に共謀者がいると疑っており、この話に乗ってきた。リッキー家が法律の間をすり抜けて人材雇用をしていることは分かっていたが証拠が不十分で検挙に二の足を踏んでいた状態だったらしく、一石二鳥だと思ったのだろう。

 これで賊の尻尾がつかめればよし。ダメでもリッキー家の力が衰えればよし。どちらに転んでも王国には利益になる。

 また、ゴールデン家より大きな家々がこぞって『倍返し』を行えば、こちらに当ててくる対戦相手が弱くなる公算は高い。よって、俺が勝てる可能性も高くなる。
 まあ、格下のゴールデン家に一番強い対戦相手をぶつけてくる可能性もあるわけだが、こればっかりは賭けだな。

 勝って領地10個ゲット&賊の炙り出し、という二度美味しい作戦だ。

 そのことを詳しく話すと、談話室には議論が飛び交った。
 ハワード、アメリア、エドウィーナが主となって話し、補足や考えをクラリス、ハイジが入れる。エイミーは参加する気が全くないのか、小さな手旗を持ってきて、「がんばれがんばれ」と旗を振った。エリザベスもエイミーにやるように言われ、なんでわたくしまで、と言いながら顔を赤くして「がんばれですわ」と旗を振り、時たま自分の知識を父と母に伝えた。

 こうして一時間半が経過した。
 『倍返し・10個賭け』で負けるとゴールデン家は領地数が100から80だ。
 三桁領地貴族から転落してしまう。
 二桁貴族と三桁貴族では箔が違う。100の領地は是が非でも死守したい。
 議論は白熱する。


 黙ってみんなの話を聞いていた俺は、頃やよしと、おもむろに手を上げた。


「はい、エリィ。発言をどうぞ!」

 いつの間にか司会進行をしているエイミーが俺を旗でビシッと指した。

「あ……あの……とっても言いづらかったんですけれど、リッキー家に『倍返し』をする理由が他にもあるんです………」
「ん? どうしたんだいエリィ?」

 眉間に皺を寄せて話していたハワードが、もじもじするこちらを見て笑顔になった。
 それを確認し、か弱い乙女っぽく、ちらりとハワードを見て口を開いた。

「クラスにいるリッキー家のボブに……その……言い寄られていて……。この前も強引に家に誘われて………困っているんです。私が魔闘会で勝てば黙ってくれるかもって思って…………こんなこと理由入れちゃダメだって………分かってるんですけど…………」

 そこまで言うと、ブチィッ、と何かが切れる音がした。
 その他にもバキバキィ、やら、ボキボキッ、という不穏な音も響く。

「諸君………全面戦争だ………」

 父ハワードが額にぶっとい血管を浮かべ、顔を引き攣らせた。
 続いて母アメリアが能面のような真顔で立ち上がる。

「爆死したいようね……」

 ハワードは杖をポケットから出し、真上に掲げ、大声で叫んだ。

「野郎どもぉ! 武器持って来いぃっ!!!」

 使用人全員が「応っ!!」と返事をしてドタバタと談話室から出ていき、各々ウエポンを引っさげて整列した。

 そうそう、これで怒ってくれて作戦発動って……ちょっとぉ?!
 煽るのには成功したが効果大きすぎじゃ?!

「魔闘会なんざどうでもいい! 今からボブとかいうクソガキをボブボブにするぞっ!」

 頭に血がのぼったハワードが訳の分からん口上を述べて外に飛び出そうとした。
 全員が「応ッ!!!」と返事をし、母アメリアが戦闘用の仮面をつけて指揮を取り始めた。

「やめて! やめてちょうだい!」

 自分で撒いた火種が思ったより大きくなり、自業自得だと言い聞かせて、家族全員を必死になだめた。
 エイミーにも手伝ってもらい、“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”を三回唱えて、ようやく全員の怒りが鎮火した。

 時刻は気づけば真夜中になっていた。
 かわいそうなエリィを演じるのはこれっきりにしよう。効果は凄まじいが後処理の労力が大きすぎる。

 そんなこんなで、満場一致でリッキー家を指名することが決まった。
 かくして『倍返し・10個賭け』作戦が発動した。






=====================
グレイフナー王国貴族所有領地数

 1.バルドバット家(1002)
 2.サウザンド家 (1001)
 3.テイラー家  (822)
 4.ヤナギハラ家 (746)
 5.ササイランサ家(600)
 6.ガブル家   (550)
――――――――――――――――――――
 7.ジャクソン家 (470)
 8.サークレット家(420)
 9.ピーチャン家 (402)
10.クラーク家  (367)
11.ウォーカー家 (340)
12.ヤングマン家 (322)
13.ジュウモンジ家(285)
14.エヴァンス家 (252)
15.シュタイガー家(238)
16.ツ家     (220)
17.ストライク家 (209)
18.ワイルド家  (150)
19.リッキー家  (150)
20.マウンテン家 (124)
21.シルバー家  (119)
22.ショフス家  (111)
23.モッツ家   (106)
24.ギャリック家 (103)
25.ゴールデン家 (100)
――――――――――――――――――――
26.フィッシャー家(96)
27.ムーフォウ家 (92)
      ・
      ・
      ・
332.グランティーノ家(2)
      ・
      ・
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+注意+
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