挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

104/129

第30話 イケメン再び学校へゆく⑪〜続・Eimy新刊発売でございますぞ〜

お待たせいたしました・・・!

 バイマル服飾からオハナ書店へ戻り、エイミーと馬車に乗り込んでミラーズ四店舗を回ってみた。
 どの店舗も爆混み。
 正月セールかってほど賑わっていた。

 デザイン料の10%でがっぽり大儲けだ。たまらん。

 あまり長く視察すると授業を受けれなくなるので一周して切り上げ、アリアナと魔法学校に向かう。

 彼女と昇降口で別れ、三限目から授業に参加した。
 ちょうど授業の始まるタイミングだ。

 クラスのドアを開けると一斉にみんながこちらを見た。
 誰も彼もが何か聞きたそうな顔をしている。

 スカーレットは先に教室へ戻ってきていたらしく、余裕ぶった表情で流し目を送ってきた。

「では授業を始めます! 皆さんこちらに注目です!」

 副担任が全員の散った視線を自分へ戻すため元気よく言うと、数秒してクラスメイトが教卓前へ意識を向けた。

 授業が始まり、副担任が板書を開始する。

 すると、隣のハーベストちゃんが何かもそもそと動き始めた。
 横目で見ると、机の引き出しから『Eimy』を出して、口パクで何かを言っている。

 なになに?
 私のほっぺたがお饅頭みたいでしょう?

 ……って違うか。全然分からん。

 彼女はじれったくなったのか、こそこそと『Eimy』を開いて音がしないようにページをめくっていき、エリィが写っている箇所で手を止めた。

 彼女は人差し指で激しくエリィを指差し、両目を広げ、首をかしげ、肩をすくめた。ひどく驚いているのか、それを高速で三回繰り返す。君はオーバーリアクションをする可愛いエセアメリカ人かとツッコミを入れたい。

 なるほど。
 なんでエリィちゃんがモデルをやってるの? 私、びっくりおったまげーた。そう言いたいらしいな。
 彼女にはまだ伝えてなかったからなぁ。

「ハーベスト君、ジェスチャーゲームは授業が終わってからにしなさい」

 ハルシューゲ先生の注意が入った。
 ハーベストちゃんは顔を赤くし、頭を何度も下げて雑誌を机に戻した。


     ☆


 一方その頃。
 グレイフナー魔法学校の敷地内にあるエイミー&エリィファンクラブ集会場には会員全員が集合していた。
 狭い小屋に五十人が集結しており、各々好き勝手に叫んだり三点倒立したりしている。

 エイミーファンクラブ会長、洗熊人ザッキー・ジェベルムーサも咆哮していた。
 彼の巨体には一冊の本が握られており、顔を押し付けんばかりにその本を凝視している。


 彼の持っている本は『Eimy〜春の特別増刊号〜』だった。


「おおおおおおっ! まさかのエリィちゃんモデルデビュー! 女神ィッ!」
「会長! 新刊は最高傑作ですよ!」

 実家のパンタ国から『エリィ・ゴールデンという少女の動向を報告しろ』と密命を受けている彼は、心の昂ぶりを密書にしたためて何通も送っている。事細かに彼女が何をしているのか伝えているため、パンタ国の要人らも満足しているようだ。

 しかし、彼にとって報告などどうでもいいことだった。

 エリィが可愛くて美人で清楚なため、熱烈なファンになってしまった。それは彼にとって抗えない気持ちであり、自分で操れるたぐいのものではなかった。雑誌に関しても、ファンクラブのメンバー全員と授業をサボる覚悟で前日から書店に並んで購入する熱の入れようだ。

「狐っ娘も可愛いな! 魔法学校のベストコンビだ!」

 雑誌のちょうど真ん中のページ。

 エリィがアリアナを背中に乗せて腕を絡ませ、身体を伸ばす準備運動をしているシーンが採用されている。二人とも爽やかな笑顔でポーズを取っており、エリィが花柄ワンピース、アリアナがフロントボタンのジーンズスカートとオーバーサイズのワイシャツを着ていた。

 めずらしくアリアナが大きな口を開けて笑っており、エリィも優しげな顔をほころばせている。とにかく可愛い。

「ピンク髪の子もバリクソ可愛いッス」
「その子、サウザンド家だぞ。しかもうちの三年生だ」
「ええっ?! こんな子いましたっけ?!」
「埋もれていた原石……か」

 ザッキーの近くにいる会員の二人が、雑貨類を広げて笑っているパンジーに釘付けになっていた。

「ねえ! 雑誌の最後の見た?!」
「見た見た! 新しいモデル募集だって!」
「魔闘会の三日目にファッションショー! 絶対見に行きましょう!」

 女子三人が雑誌の最終ページを開いて興奮する。
 そこには『モデル&デザイナー募集! 特別選考会・魔闘会三日目に開催! 応募期限は5月1日まで!』と書かれている。

「エイミー様、エリィちゃんも素敵。エリザベスお姉様も素敵ですわぁ」
「ですわね〜」
「こんな凛々しいお姉様がわたくしも欲しかったわ」
「ですわね〜」

 名門貴族の女子二人はエリザベスがお好みのようだ。

「エリィさんと同じクラスになりたかった……」
「光適性クラスだろ? 逆立ちしても無理だ、あきらめろ」
「くっ……ううううっ……」

 エリィと青春を謳歌する妄想が叶わないことを知り、男泣きをする男子生徒。

「五人集合のページ、家宝にしよう……」

 影の薄い男子生徒が小屋の隅っこで、エリィ、アリアナ、パンジー、エイミー、エリザベスの五人が写っているオールインワン特集ページをにやにやしながら見つめている。

 そのページは見開きになっており、金髪三人、茶髪狐耳、桃色ヘアーがバランスよく写真に写し出され、まさに美女美少女揃い踏みする眼福の一ページだった。


     ◯


——リーン、リーン


 三限終了の鐘が鳴り、ハルシューゲ先生と副担任が教室から出ていった。
 すると、引き絞った弓から放たれた矢のごとくハーベストちゃんが顔を寄せてきた。

「エリィちゃん! モデルさんだったの?!」

 顔が近い。
 近いのはクラリスだけでいいぞ。

「わたくしにも詳しく! 詳しくお話ししてくださいますこと?!」

 後方の席からすっ飛んできたジェニピーが『Eimy』をバンと机に置いた。おしとやかな彼女がここまで狼狽するとはかなりのことだ。あと顔が近い。

 三限が終わると昼休みだ。

 いつもならクラスメイト達はグループごとに食堂へ行く。
 しかし、このときばかりはほとんどのクラスメイトが教室を出ず、じっと俺達の話に耳を傾けている。特に女子生徒は目をらんらんとさせていた。

 ハーベストちゃんは鼻息荒く、ジェニピーは赤毛のソバージュをばっさばっさとはね上げる。

「二人とも今日発売の雑誌をどうやって買ったのかしら?」

 まずは素朴な疑問をぶつけてみた。

「私はお父さんに頼んで」
「わたくしは執事に買いにいかせましたわ」
「学校まで届けてもらったの」
「雑誌を持っている生徒は全員そうですわ」
「まぁ。そうなのね」

 俺がうなずくと、ハーベストちゃんが指を三本立てた。

「初版が3000部だから競争率がすごく高いんだよ。無理を言って深夜から並んでもらったの」

 おう……。ハーベストちゃんのパパさん、娘のために頑張ったな。

「わたくしは執事とテントを設営して前日から並びましたわ。途中まで一緒に並んでいたんですが、さすがにわたくしが野営をするとまずいので家に帰りましたの。本当は自分で最後まで並びたかったんですのよ……」

 テント張っちゃうか。さすが金持ち貴族のピーチャン家。

「それでエリィちゃん! どうして『Eimy』のモデルをやっているの!?」
「先ほどからそればかり気になって授業が頭に入ってきませんでしたわ!」
「そうなの! ジェニピーちゃんとさっきの休み時間に雑誌を見て驚いたんだから」
「こんな綺麗に雑誌に掲載されて! まあ! もう! ああん! 本当に素敵ですわ!」

 二人が両脇からぐいぐい迫ってくる。
 確かに言われてみれば、人気雑誌のモデルをクラスメイトがやっていたら誰だって気になるか。しかも、若い女子のこういったオシャレ関係への情報収集欲は目を見張るものがある。日本にいたときも若い子は新しい情報に敏感だった。

「エリィちゃん!」
「エリィさん!」

 ハーベストちゃんとジェニピーが同時に雑誌を開いて指を差した。
 そのページには白魔法を使っているエリィが幻想的に写っていた。

「えーっとね、まず『Eimy』の看板モデルは私のお姉様なのよ」
「それは知ってます」
「わたくしも存じておりますわ」
「そうよね。はっきり言うと……」

 ここまで聞かれたら言ったほうがいいか。

 後ろを見ると、クラスメイト……特に女子がこっちを注視していた。

 スカーレットの取巻き連中ですら、何か羨ましそうな顔つきでこちらを見ており、その雰囲気を感じ取ったのか親分のスカーレットは悔しげな顔をしている。彼女はこの雑誌がゴールデン家主導のもと作られているのは知っていたが、エリィがモデルをやっているとは思っていなかったのだろう。

 しかも、スカーレットの机の上には『バイマル服飾ファッション誌』が置かれ、アピールしようという魂胆が見え隠れしていた。

 スカーレット、涙目になってるな。
 相当悔しいに違いない。

「私が雑誌の編集長なの」
「……そうなんだ」
「……なるほどですわね」
「今、新しいパーティードレスを作っているから今度見にくる? カタログを作って配布する計画をしているのよ。あ、カタログっていうのは宣伝用の無料配布冊子で、購買意欲を高めるアイテムのことね。きっとうまくいくと思うのよ」
「……へぇ〜」
「……へぇ〜ですわ〜」
「エリィちゃんが」
「編集長ですの」
「………」
「………」

 編集長の意味をようやく理解したのか、うんうん、そうですのね、とうなずいていたハーベストちゃんとジェニピーの首の動きが停止した。

 二人は缶詰の蓋みたいにまん丸の目になり、錆びついた人形のごとくギギギギと音がせんばかりにゆっくり首を回すと、呼吸を忘れて見つめ合った。
 瞬きを三回し、おもむろに自分の『Eimy』を手に取って右肩付近に掲げて表紙を見せ合うと、ちらちらと表紙と俺を交互に見やり、あんぐりと口を開けた。そして、尋常でないほど手を震わせて大きく息を吸い込んだ。

「ひ………!?」
「へぅ………!!?」
「どうしたの?」

 エリィが首をかしげる。

「編集長ぉぉおおぉぉおぉぉぉぉっ?!」
「編集長ですのぉぉぉおぉぉおぉっ!!!」

 二人が同時に叫んだ。

「あと、ミラーズの総合デザイナーも私よ」


———??!!!!


 追撃の言葉を言うと、ハーベストちゃんとジェニピー、教室内全体が震撼し、口々に驚愕の悲鳴を上げたり椅子から転げ落ちたりと、実に楽しいリアクションを取ってくれた。

 まあ気持ちは分かる。
 一口には信じられない内容だよな。

 クラスメイトが、あの流行最先端をいくミラーズの総合デザイナー。社会現象にすらなりつつある新しい洋服を生み出した人間だと思うと、見る目も変わってくる。

 購入困難な『エリィモデル』というフレーズを知っている女子生徒は、俺の名前と洋服のシリーズ名が一緒だと気づいたのか、さらなる確信を深めて目を見開いた。


「ほ、本当なの……?」


 ハーベストちゃんが恐る恐る尋ねてくる。


「ええ、本当よ」


 爽やかな笑顔で答えた。


「エリィさんが……モデルで編集長でデザイナー?」


 ジェニピーがこちらを見据えて首をかしげた。


「そうよ。すごいでしょ」


 ちょっと茶目っ気を出してウインクなどしてみる。

 ハーベストちゃんとジェニピーは感極まったのか、力強く俺の手を握ってきた。

「エリィちゃーーーん!」
「素敵ですわーーーっ!」
「もう! もう!」
「なんということですの! これが驚かずにはいられますこと?!」
「もうもうもう! もう!」
「密かにお慕いしていたクラスメイトがすごい方だったなんて! 嬉しくて涙が出てきますわよ!」

 二人の興奮がすごい。
 両脇から手を握られ、ぶんぶんと上下に振られる。
 これだけ褒められると……エリィの顔が熱くなるんだよなぁ。

 クラスメイトの女子達は誰しもが食い入るような視線をこちらに向け、雑誌を持っている子はエリィの写っているページと本人を見比べた。そして皆、口々に「ホンモノ!」とか「デザイナー?!」とか「エリィモデルの名前の由来って、エリィ・ゴールデンからきてるの?!」などなど勝手に口にする。

 教室内の空気が熱くなってきてそろそろ抜け出したいと思ったところで、スカーレットが背後から冷ややかな声を浴びせてきた。

「大したことじゃありませんわ。わたくしの家も雑誌を刊行しているんですのよ」

 スカーレットはクラス全体に聞こえるように言い、俺の前までやってきて、無造作にバイマル服飾の雑誌を机に放り投げてきた。
 表紙にはきつい顔をしたスカーレットの姉ちゃんが写っている。

「あなたがモデルだかデザイナーだか知らないけどね、わたくしの家が運営するこちらのほうが魅力的だわ。そうですわよね皆さん!」

 スカーレットは顎を上げてふんと鼻から息を吐き、教室を見回した。


 教室がしんと静まり返った。
 誰も反応しない。


 廊下からは食堂に行く生徒達の声が薄く響いていた。


 女子は目を逸らし、男子は興が削がれたのか全員教室から出ていった。


「……!」

 スカーレットは自分の思った反応を得られず苦悶の表情を浮かべた。今にも右手を振り上げてエリィを叩きそうな顔をしている。

「あ……あなた達もそう思うでしょう?」

 どうにかこの空気を脱しようと、スカーレットは頼みの綱である取巻き連中へと振り返った。こういうときにゾーイがいるといいフォローを入れてくれるが、彼女は今日学校を休んでいるようだ。

 取巻き連中は、親分の視線から逃れるようにして床へと目を落とした。

「なんですの! その態度は!」

 その様子にスカーレットは頭に血がのぼり、足を踏み鳴らした。

 取巻き連中の四人はびくりと仰け反り、すぐにスカーレットへ目を戻してしどろもどろで返事を返した。

「そ、そうですわね」
「おっしゃるとおりですわ」
「バイマル服飾の雑誌……素敵です……」
「ええ、そう、思いますわ……」

 明らかに言わされた言葉だった。
 スカーレットは取巻き連中の言い方が許せないのか、顔面を真っ赤にして刃物みたいな鋭い眼光で睨みつけた。

「も、もちろんスカーレット様の洋服が一番ですわ!」
「ええ! ええ! そうですわね!」
「私もそう思ってました!」
「最高の出来映えですわ!」

 あわてて四人が相槌を強めた。
 それでもスカーレットは納得できないのか、天井まで突き抜けそうな声で叫んだ。

「その態度はなんなのよぉッ!!!!」

 癇癪を起こしてスカーレットが床を踏み、取り巻きの先頭にいた背の高い女子生徒へビンタを食らわせた。

「きゃっ!」

 突然の暴力に対応できず、女子生徒が背後の椅子にぶつかりながらひっくり返り、隣にいた女子も巻き添えで机を横倒しにして吹き飛んだ。

 信じられない出来事に、ほか二人の取り巻き女子が身を凍らせ、スカーレットを知らない生き物を見るような目で見つめる。

 自分が付き従っていた親分が仲間を殴ったのだ。

 訳が分からないだろうし、どう対応すればいいのか困惑するのは当たり前の反応だ。余裕がないのはまだ許せるにしても、その怒りを暴力でぶつけるのは絶対に間違っている。

 スカーレットは肩で息をし、胸の内に起こる動悸に耐えるかのように拳を握って四人を睨んだ。
 教室の空気が冷たくなった。

 巻き込まれなかった取り巻きの二人は呆然と立ち尽くしている。


「なんてことを!」


 真っ先に声を出したのは俺でもない、エリィだった。


 身体が勝手に席から離れ、倒れた取巻き女子二人を助け起こした。続いてハーベストちゃんとジェニピーも手伝いにやってくる。

 次々にクラス内の女子生徒が叩かれた一人の背後に集まり、治癒魔法を唱えたり背中をさすったりし始めた。そして批難の目をスカーレットへ向ける。こういうときの女子の団結力はすごいもんがあるな。

「な、な……なんなのよ! 何が言いたいのかしら!」

 スカーレットが眉毛を逆ハの字にして激昂した。
 彼女の瞳は全員から責められる恐怖と、殴ってしまった後悔で揺れている。


 ジェニピーが全員を代表し、悠然と前へ出た。


「スカーレット・サークレット。あなたはしてはいけないことをしたわ」
「どうしようとわたくしの勝手でしょう!」
「本当にそう思っているなら、あなたは救いようがないですわ。……決して許されることではないですけれど、エリィさんをいじめているとき、あなたはまだ貴族としての矜持を持っていたわ。石ころのような矜持でしたけれど」
「あなたに何が分かるの!」
「分かりたくもないですわよ」

 ジェニピーは赤毛ソバージュを右手ではね上げた。

「レディに平手打ちをするとはどういう了見ですの? しかもこの子はあなたのご友人でしょう? はっきり言って、平手打ちされたこの方にわたくしまったく思い入れはございません。それでも、あなたの振る舞いは見るに耐えませんことよ」

 ジェニピーは嫌悪をあらわにしてスカーレットから目を外した。
 一方、スカーレットはどうしようもなく追い詰められ、悔しさからまた足を踏み鳴らした。

 しかし、その行動も女子生徒達には逆効果であり、さらにスカーレットを見る目が冷ややかなものへと変質していった。

「……私にそんな目を向けて、ただで済むと思っているのかしら」

 スカーレットが焦りで唇を震わせながら、伝家の宝刀である家柄と経済力をチラつかせた。

「わたくしは痛くもかゆくもありませんわ。どうぞご自由にお父様に泣きついて家々に圧力をかけてくださいませ」

 ジェニピーが堂々と言うと、女子達が一様にうなずきあった。三年間溜まったスカーレットへの怒りや不信感があったのか、我慢の許容量を越えたらしい。王国内有数の経済力を持つピーチャン家のジェニピーが大見得を切っていることも大きな後押しになっているようだ。

「スカーレット様……!」

 先ほど頬を平手打ちされた背の高い取巻き連中の一人が一歩前へ出た。治癒魔法のおかげで頬に痕は残っていない。

 彼女は媚びるような視線を送るも、すぐに決意した表情で親分であるスカーレットを見据えた。

「友人をクラスメイトの前で殴るなんてひどすぎます……」
「おだまり! あなた達の態度がそうさせたんでしょう?!」
「そんなこと……」
「今までどれだけ便宜を図ってあげたと思っているのかしら!?」
「好きでもない物を無理に好きと言わせて、それが納得できない言い方だから殴るなんて……あまりにも……」
「好きでもない物ですって!? サークレット家の雑誌のどこが好きでもない物なのよ! あんなに素晴らしい出来映えじゃないの!!!」
「あの………はっきり言うと………『Eimy』と『バイマル服飾ファッション誌』では比べるのもおこがましいと……思います」
「おこがましい!? おこがましいですって?!」

 スカーレットの怒りはいよいよ爆発し、ガラス窓が揺れるほどの大きな声を張り上げた。

「あなたに何が分かるっていうのよ?! ねえ! あなたは服屋の経営をしたことがあるのかしら?!」
「全員が雑誌の内容に驚いています。だって……」

 背の高い女子生徒はごくりと唾を飲み込み、息を深く吸った。

「だって……あまりにも類似品が多すぎます。ページ数は半分だし、モデルもパッとしないです。私は『Eimy』のほうが好きです。華やかで素敵です。それだけは確かです。ごめんなさいスカーレット様」
「な、な………」

 頭を下げる女子生徒の頭を見つめながら、スカーレットはわなわなと両手を震わせ、ただひたすらに口を開閉させる。

 彼女は仲の良かった友人にはっきりと思っていたことを言われ、どうしようもない衝撃を受けていた。

 推測だが、スカーレットは金持ち貴族として傲慢な育て方をされたため、こういった本音をぶつけられることがなかったのだと思う。だから不測の事態に動揺するし、自分の中でどうやって処理すればいいのか分からなくなる。処理しきれない気持ちは強引に当たり散らして発散し、溜まった鬱憤は弱い者いじめで解消する。ずっとそうやって生きてきたに違いない。


 顔を青くし、瞳に不安を浮かべるスカーレットは痛々しかった。


 一秒とも五分とも取れる沈黙が続き、やがて背の高い女子生徒が顔を上げた。


「しばらく、スカーレット様と一緒に行動するのをやめます」
「……え?」


 スカーレットは目の前にいた死人が急に生き返ったような、あり得ないものを見た表情になって口をぽかんと開けた。

 取り巻き連中がグループから離れるなど、彼女にとっては信じられない出来事なんだろう。なんだかんだいつも付いてきてくれた彼女らを信頼していたので、裏切られるなどという考えは欠片も頭に浮かばなかったようだ。

 その信頼が、ただの経済力でつながっていた細い糸だとスカーレットは気づけなかった。彼女は何も理解できずに目の前の事態に直面し、どうしていいか分からず、激しく動揺するしかなかった。

「あ、あなた……それがどういう意味なのか……分かっていて?」
「……」
「卒業まで……一緒だと言ったでしょう?」

 スカーレットは必死に言葉を繋いだ。
 背の高い女子は固い決意を全面に押し出し、無言を貫く。

 気づけば、取巻き連中全員がスカーレットへ厳しい視線を向けていた。

「な………なん………どうし…………て………」

 スカーレットは精気の抜けた顔ををして、よろよろと後ずさった。
 まるで四人の目を避けるように顔を伏せ、ぎりりと唇を噛む。

 背後にあった机にぶつかってひっくり返りそうになり、どうにか踏ん張ったが、足にはほとんど力が入らない。ひゅうひゅうと渇いた呼吸を繰り返す。


「わたし………ただ………」


 味方が誰一人としていなくなり、寄りかかるものがなくなった彼女は憐れだった。


「ぐ………っ…………」


 スカーレットは顔を歪め、涙を流し、鞄を持つことも忘れて教室から飛び出した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ