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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第27話 イケメン再び学校へゆく⑧〜白魔法師協会で実習ですわ!〜


      ☆



 スカーレットは早朝、出勤前の父をつかまえてピーチャン家について聞いた限りのことをぶち撒けた。

「本当なんですのお父様! わたくし学校でピーチャン家の長女にコケにされましたのよ!」

 サークレット家当主、オーキッド・サークレットは娘に癇癪をぶつけられ、やれやれとローブを執事から受け取った。
 小橋川が彼を見たら「ザ・成金」と皮肉を言っただろう。

 彼は黄色の髪をしており、顔のすべてのパーツが細い。目は線で描いたようで、鼻も唇も細く長い。それと対照的に、でっぷりとまではいかないが、贅沢な食事でついた贅肉がズボンのベルトを押し上げていた。

 そしてなにより一番目につくのは、両手すべての指にはめられた指輪だ。
 高級品だとひと目で分かり、サークレット家の金回りのよさを如実に表している。

 彼は指輪を撫でて我が娘を見た。

 スカーレットは姉と同じ気が強そうな顔つきだが、自分に自信がないのかどこか子どもっぽさが抜けない印象を受ける。オーキッドはその理由が姉のヴァイオレットにあることは十分に理解していた。

 長女ヴァイオレットは自分が優秀であるがため、何かと自分のやり方や考え方をスカーレットに押し付ける傾向にあった。
 そしてスカーレットは姉に負けまいと、おかしな方向に性格をこじらせている。

 時間があれば話し合う時間を設けるべきなのだろうが、オーキッド・サークレットにその労力を割くゆとりはなかった。そして子どもの教育自体にも興味がなく、金と嗜好品が彼にとっての最重要案件であった。

「どうなんですの、お父様?!」

 先日、ピーチャン家からはミスリルの取り引き中止を打診されたばかりだ。
 避けることのできない懸案事項と一致しているスカーレットの質問に、オーキッド・サークレットはすぐに話を逸らした。

「スカーレット。そんなことより光魔法の練習はしているのか?」
「……家庭教師がおりませんわ」

 スカーレットが話を聞いてくれない父親にむくれ、そっぽを向いた。
 オーキッドはミスリルに続き、サウザンド家の取り引き拒否の問題についても思い出してしまい、苦い顔になった。

 白魔法師は常に不足している。
 自家領地の街に最低でも一人は必要だし、魔物討伐や、大きな商隊を組む場合も必ずパーティーに組み込む。自家で雇っている人材では人手が足りず、毎年白魔法師協会から数十名を雇うことが慣例になっていた。

 それがまさかの取り引き拒否。
 あまりの頭の痛さに、オーキッドは近頃碌な睡眠を取っていない。

 王国に事情を説明し、この不当な扱いを解消するために奔走している。

 オーキッドは何か得体の知れないものにサークレット家がじわじわ侵食されるおぞましさを感じていた。偽りの神ワシャシールが薄明の向こうで手招きをしているような、そんなねっとりした恐怖が周囲を覆っていく気さえする。

 当然、彼は敵に回すと厄介な小橋川という男が「ぐっしっし」と笑いながら裏で糸を引いていることを知らない。

「家庭教師がいなくても練習はできる」

 オーキッドは不明瞭な不快感を振り払うようにしてローブを羽織り、玄関の扉を執事に開けさせた。

「お父様!」
「スカーレット……私は忙しいんだ。ミスリルの話はあとにしよう。ピーチャン家がミスリルの購入をやめるのは別に悪いことじゃない。困るのは彼らなんだからね」
「もうっ! もういいですわ!」

 スカーレットは話を聞いてくれない父に憤慨し、足を踏み鳴らしてエントランスを出ていった。

 オーキッドは娘の後ろ姿を目で追い、ため息をついて玄関から出て馬車に乗り込んだ。



      ☆



 スカーレットが父親に癇癪を起こした二時間ほど前。

 おさげ頭のゾーイは特徴のない平凡な顔を厳しくさせ、冒険者くずれの黒魔法師に金貨を渡した。

「標的はゴールデン家のエリィ・ゴールデンよ。金髪ツインテール、垂れ目、ブルーの瞳、無駄に突き出た胸。必ず白魔法師協会に着く前にやりなさい」
「へい。お嬢さん」

 男は目の下に濃い隈を作った、猫背で陰気な魔法使いだった。しかも全身黒ずくめで、いかにも黒魔法師といった風体だ。
 彼は金貨を受け取って頭を下げた。

 彼はゾーイを敬うというよりは、距離感を測りかねるといったふうで、探るような視線を彼女に向けている。

「失敗したらボブ様に伝えるからね」
「へい」
「いきなさい」

 彼女がリッキー家とどういう関係なのかは不明だった。
 しかし、仕事がリッキー家経由で回ってきたのは疑いようのない事実だったため、陰気な黒魔法師は何も言わずにその場を後にした。



      ◯



「じゃあ先に行くわね」
「いってらっしゃい…」

 ゴールデン家の中庭で朝稽古をしていた俺は、アリアナより早く家を出た。
 今日は白魔法師協会の実習があるので普段より早い時間に現地集合することになっている。

 アリアナは一緒に行きたがったが、鞭術練習でサキュバスのヴァレンティナちゃんが来ているため途中で抜けるのは憚られた。

 鞭の音を背に、玄関から出て白魔法師協会へ向かう。

 始業式から街の様子をゆっくり見るため徒歩で登校していた。
 国民の服装に変化があるか、情報収集するためだ。

 二番街の高級住宅街を歩きつつ、コバシガワ商会の今後の方針やミラーズの洋服について考え、グレイフナー大通りに出る路地を左に曲がる。
 そこで、不穏な魔力を感じ取った。

 立ち止まり、魔力の流れる方向へ首を向けると、路地に植えてある木の陰から全身黒ずくめの男が現れた。

 男はローブを目深にかぶり、こちらへ歩いてくる。

 誰だこいつ?
 明らかに胡散臭い。
 俺を狙っているのか?

 路地の端へ移動して警戒しながら大通りへと歩を進める。
 男との距離が縮まり、距離が五メートル。すれ違う瞬間だった。

 突然、男が身を反転させて腕を伸ばした。
 黒いローブから細い腕が伸びてこちらの腕をつかもうとしてくる。反対の手には杖が握られている。

 右手に持っていた鞄を放して十二元素拳「風」の型で迎撃する。

 最小限の動きで男の腕をかわして右手で男の腕をつかんで引っ張り、体勢を崩してがら空きの脇腹へ掌打を放つ。
 ツインテールが舞い、エリィの左手が脇腹へ吸い込まれた。

「———ッ!!?」

 声にならない声を上げ、男が地面を転げ回った。
 掌打の衝撃が余すところなく内側へ伝わったためだ。身体強化しないでこの威力。十二元素拳つええわ。

 あまりに痛そうなので、仕方なく“治癒ヒール”してやり、仰向けになった男の太ももにちょんとローファーのつま先を乗せた。

「く、くそぅ……」

 ずいぶんと辛気臭い男だ。
 脇腹を必死に押さえている。まだ痛いらしい。

「朝からなぁに? 何の用?」
「こんな小娘に……」
「質問しているのは私よ?」
「足を……どけろ。さもないと、黒魔法で眠らせてそのでかい乳を——」
「“電打エレキトリック”!!」
「モモモモモモモモモモモモモモモモモンジャイマッセッセェィッ!」

 お上品に乗せたつま先から電流が走り、男が痙攣して地面を跳ねた。

「スケベは嫌いよ」

 びくんびくんと痙攣した男は意識が戻り、ぎろりとこちらを睨んできた。

「て………てめえ! い、いったい何をしたぁ?!」
「てめえじゃないわ。エリィちゃん、でしょ?」
「うるせい小娘!」

 男は予備の杖をポケットから出して魔法を唱えようとした。

「“電打エレキトリック”!!!」
「スリリリリリリリリリリリリリリリィィィィィィップゥゥゥッ!!」

 唱えたかったらしい“睡眠霧スリープ”はあえなく不発に終わった。
 ころりと杖が地面に落ち、電流の痛みで男が「はへはひ」とうめき声を上げる。

「ダメじゃない女の子に魔法を使おうとしちゃ」
「はへぇ………はへひ………」
「それで。なんであたしを狙ったのかしらね? スカーレットの差し金かしら」
「ち………ちげえわ」
「あらそう」
「くそっ……食らえ!」

 まだ杖の予備があったようだ。
 倒れたままローブに右手を突っ込んで、男が杖をこちらへ向けた。

「“電打エレキトリック”!!!」
「ファファファファファファファファッ、ファイアボゥッッ!!!」

 唱えたかったらしい“ファイアボール”は不発に終わった。


      ◯


「どうしてこんなことしたの?」
「ゾーイしゃんに言われたからでしゅ」
「ゾーイ? グレイフナー魔法学校光クラスのゾーイ?」
「そうでしゅ」
「なんで?」
「エリィちゃんに黒魔法“魔力減退マジックディミニッシュ”をかけろと言われましゅた。実習でエリィちゃんが恥をかくって言ってたでしゅ」
「あらぁ。そういうことね」

 よい子になった男が正直に答えてくれた。

 なるほどな。白魔法師協会の実習前に“魔力減退マジックディミニッシュ”して魔法を唱えられなくし、恥をかかせようって魂胆か。
 段々とやることがエスカレートしてきたな。
 いいぞ。スカーレットを追い詰めている証拠だ。

「それで、なぜあなたはゾーイから依頼を受けたの?」
「リッキー家経由のお仕事紹介でしゅ」
「リッキー家経由ですって? それがなんでゾーイなのよ?」
「よく知りましぇん。繋がりがあるんじゃないでしゅかね」
「あなたの他に何人ぐらい悪い子がいるの?」
「いっぱいでしゅ。ぼくちん、いつも単独のお仕事なので分かりまっしぇん」

 他の情報を引き出したかったが、知らないならしょうがない。
 このよい子ちゃんを警ら隊に連れて行ってもリッキー家の尻尾がつかめるとは思えない。潜入捜査させるのも無理そうだな。

 クラリスとグレンフィディックに、リッキー家に加えてゾーイの動向も追ってもらうか。

「ふぅん、まあいいわ。あなた、もう悪いことするんじゃないわよ」
「わかった!」
「黒魔法が使えるんだから人の役に立つことをしなさい!」
「うん!」
「いいわね! まっとうなお仕事をするのよ!」
「はぁいエリィちゃん!」

 あれだけ陰気な男が爽やかに笑い、手をぶんぶんと振って走り去っていった。
 うん。よい子になってしっかり働くんだぞ。

 さて、白魔法師協会に向かうか。

 この実習は喜劇の一ページとして計画に組み込まれている。
 エリィの優秀さを見せてスカーレットに“魔法で勝てない”と意識付けする予定だ。

 スカーレットとゾーイは“魔力減退マジックディミニッシュ”してない俺を見たらどんな顔するかねぇ。自分から喜劇を楽しくしてくれるとは、彼女もいい役者だ。



     ◯



 グレイフナー大通り、一番街の一等地に白魔法師協会は居を構えていた。
 冒険者協会兼魔導研究所よりもさらに王宮に近い場所にあるため、その重要性が伺えた。

 冒険者協会兼魔導研究所の壁面には『Eimy最新号』の特大ポスターが飾ってあるのが見える。エイミーが可愛らしくもどこか艶のある笑みを浮かべており、でかでかと『4月20日発売!』と書かれていた。

 四頭立ての馬車が四台並んでもまだ道幅に余裕のある大通り。
 歩行者用の道も広く道幅が取られており、レンガが綺麗に敷き詰めてある。

 先ほどのよい子ちゃんとのやり取りで遅刻しそうだったので、小走りで四年生光クラスの生徒達が集まる白魔法師協会の玄関前へ向かった。

 俺が走ってくるのを見つけ、スカーレットとゾーイはニヤリと笑い、ボブも憎たらしく含み笑いをしている。
 ごめんな。魔力ほぼ満タンで“治癒ヒール”1000回ぐらいいけるわ。

「エリィさん」

 赤毛ソバージュのジェニピーが手を振っていった。
 俺も笑顔で答え、行き交う人を間を縫ってなんとか時間に間に合った。

「ごきげんよう。お寝坊さんですの?」
「いいえ、ちょっと用事があって」
「間に合ってよかったですわ」

 ああ。やっぱクラスに友達がいるっていいな。

 ハルシューゲ先生は俺が合流するのを見届けると、全員出席している旨を伝え、協会内へ引率した。

 白魔法師協会は、洗練された白亜の柱を支柱にして造られた清潔な建物だった。ロビーには『診察受付』『派遣依頼』の二種類の大きな看板があり、銀の胸当てに白い法衣っぽい服を着た白魔法師が忙しそうに行き来している。

 二種類の窓口は早朝にも関わらず長い列ができていた。
『診察受付』には怪我人。
『派遣依頼』には金回りの良さそうな人が並んでいる。

 ハルシューゲ先生と副担任の指示に従い、三人グループに分かれ、『特設診察所』へと向かった。
 クラスは全部で四十一名。
 三名班が十三組。二名班が一組の内訳で組分けをし、十四グループになった。

 当然、俺はジェニピーとハーベストちゃんの二人とグループを組んだ。
 ハーベストちゃんがめっちゃ笑顔なのがなんとも愛くるしい。

 スカーレットはゾーイと取り巻き連中にいる背の高い女子と組んだようだ。

「ではこれから白魔法師協会の実習を行う。この実習は四年生が毎年行っており、学校にとって大変に意義のあるものだ。グレイフナー魔法学校の生徒として恥ずかしくない心構えで実習にあたるように。また、実際の患者さんに光魔法を唱えてもらうことになる。全員、昨晩から魔力は使ってないね?」

 真剣に話を聞く生徒から「はい!」という元気な声が上がる。
 俺もいい返事をしたが、スカーレット、ゾーイがこちらを見て笑いを堪えている様子が見えた。

 性格わっるいなーホント。

「よろしい。では、今回の実習を監督してくれる白魔法師の方を紹介しよう」

 ハルシューゲ先生が右手を広げると、純白の白魔法師の服に身を包んだ三十代の渋い兄ちゃんが一歩前へ出た。胸に銀のプレートを輝かせ、腰に白造りの杖とショートソードを装備している。髪と瞳は灰色で、顎髭を綺麗に整えていた。

「グレンキース・サウザンドさんだ。みんなが知っている通り、かの有名なサウザンド家の系譜を組んでいる優秀な御仁だ。粗相のないように」
「ハルシューゲ先生、お久しぶりです」

 グレンキース・サウザンドはまずハルシューゲ先生に一礼し、そして満面の笑みで俺のところまでやってきて右手を差し出した。

「エリィ・ゴールデン嬢! お会いしたかった!」

 向こうの勢いに流され、よく分からないままこちらも右手を差し出すと、グレンキース・サウザンドが手の甲に挨拶のキスをした。

 ちょっ!?
 そういう挨拶?!

 突然の指名にクラスメイトが騒然となった。
 女子からは黄色い悲鳴が上がり、男子生徒からはなぜか落胆の声が上がった。

「ご……ごきげんよう」

 途端にエリィの顔が熱くなる。

 もうやだ〜。
 いい加減慣れてよエリィ〜。
 これただの挨拶だから〜。

 手を離して姿勢を正すと、グレンキース・サウザンドは爽やかに笑い、こちらの耳元に口を寄せ、小声でしゃべった。

「実は先日、白魔法師隊の隊長としてあの現場にいたんですよ。君が使った浄化魔法には感激しました。こうして君が実習に来ると聞いて楽しみにしていたんです」

 マザーがグレンフィディックのじいさんにおしおきをしたあのときか。
 確かに白魔法師隊がいたな。

 よしわかった。
 それはいいとして、急に近づくのやめてくれるかな?
 絶対に顔真っ赤だから。

 彼は俺から離れ、軽く咳払いをして場の空気を戻した。

「失礼。私がご紹介にあずかったグレンキース・サウザンドだ! 本日は君達の実習監督を任される栄誉を手にすることができ、大変に光栄だ! 私もグレイフナー魔法学校の出身なので遠慮なく指導するぞ! 分からないことはすぐ聞いてくれ!」

 グレンキース・サウザンドが笑顔でハキハキと言うので、生徒達の緊張がほぐれていくのが見ていて分かる。そしてクラスメイトの俺を見る目が痛い。

 まあ、スカーレットが特別扱いされた俺を見て悔しがってるからよしとしよう。

「優秀な君達なら知っていることと思うが、四月は魔物が多く繁殖する時期だ。そのためかなりの人数の冒険者と腕利きの魔法使いが魔物狩りへと派遣されている。また、“屋根塗り”の時期でもあるため、国民に怪我人が多く出る時期でもある。要するに四月は怪我をする国民が多い。君達には軽症の患者を診てもらい、それに合わせた光魔法を行使してもらう。いいね!」

 全員が「はい!」と若さ溢れる威勢のいい返事をした。

 スカーレットとゾーイはじろじろとこちらを見て、もう勝負がついたような顔をしていた。



      ◯



 白魔法師協会『特別診察室』は教室の三倍ほどの広さの部屋に、診察台が二十個置いてあり、机と丸椅子もそれに合わせて二十個用意してあった。患者さんが見やすいように、1〜20の大きな番号札が机の上に乗っている。

 十四組に分かれた俺達は1〜14番の診察台に配置され、交代で治療にあたる。
 余った六つの診察台には協会の白魔法師が治療師として加わった。

 そんでもって、六人全員が俺のところに来て挨拶するもんだから、クラスメイトがいよいよ羨望の眼差しでこっちを見るようになった。なんでも、全員あのときの白魔法師隊らしく、是が非でもと志願したようだ。知らないところでエリィの人気がインフレしてるな。

「エリィちゃん! どうして白魔法師さんと知り合いなの?!」

 ハーベストちゃんが丸顔をふにゃりと崩し、目を輝かせて聞いてくる。

「本当ですわ! 一生徒にプライドの高い白魔法師が挨拶するなんて滅多にないことですわよ!」

 ジェニピーも興奮しているのか赤毛のソバージュをばっさばっさと手ではねている。それ、癖なのね。

「うん、ちょっと色々あってね……」

 言えない……。
 実は母親がグレンフィディック・サウザンドの娘で、しかも自分は浄化魔法中級まで唱えられる、とか言えねえよ。

「何か隠してるね。このこのぉ」
「あとで教えてくださいませんこと?」

 これは休憩時間に根掘り葉掘り聞かれるパターンか。
 でもそんなガールズトークも悪くねえよな、エリィ?

「ふん。どうせなけなしのお金で献金でもしたんでしょ」
「浅ましい女」
「ですわぁ〜」

 偶然にも隣の7番診察台になったスカーレット班が対抗意識をむき出しにして、揶揄してくる。
 スカーレットが最初の診察にあたるのか丸椅子に座ってふんぞり返り、その後ろで付き人のようにゾーイと背の高い女子生徒が控えていた。

「すぐにお金の話題ですの? これだからミスリル成金は困りますわ」

 ジェニピーの手厳しい返し。
 彼女は先日の言葉通りもう我慢するつもりがないようだ。

 スカーレットは奥歯を噛み、腕と足を組んで鼻を鳴らした。

「なぁんですってジェニファー・ピーチャン。あなたいつもピーチャン鳥のフンの臭いがしますわよ。近寄らないでくださいます?」
「それを言うならスカーレット・サークレット。あなたの金髪は金のメッキでしょう? 雨の日に剥がれないか心配ですわね」
「おだまりピーチャン! エリィ・ゴールデンなんかの友達になったことを後悔させてあげるわ!」
「あなた、そんな態度だといつか友達がいなくなりますわよ」
「何を言うのかと思えば……そんなこと起きないわよねぇゾーイ」

 スカーレットが後ろのゾーイを見ると、彼女はうなずき、ぐいと眉間に皺を寄せジェニピーを睨んだ。

「黙れピーチャンの卵売り。大人しくピーピー鳴いていろ」
「まあ……リトルリザードの尻尾みたいにスカーレット・サークレットにくっついて。あなたは言葉遣いも行動もお下品でございますわね、ゾーイ」
「おまえ……」

 ジェニピーが強い。
 全然言い負けない。

 てかね、怖いよ。女子の言い争い怖いよ!

 ゾーイがジェニピーに詰め寄ろうとしたとき、タイミングよく時間になった。

「ではこれから患者さんを入れるぞ! 無理せず、不明点があればすぐに私かハルシューゲ先生に聞くんだ!」

 舌打ちしてゾーイが姿勢を戻した。
 スカーレットも腕と足を組むのをやめ、患者を待つ。

 案内役の猫耳係員が「患者さん来たニャ」と言うと、扉が開いて怪我人が続々と入室してきた。
+注意+
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