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ゴハサンで願いまスっ!【A】
作者:橘F鈴
 私はもうすぐ結婚するんだし、こういうのに返信するのってよくないよね。

  さようなら。
  もうメールしてこないでね。

 私は“雅樹(まさき)くん”のメールを削除した。するとまもなくしてまたメールが来た。また? 思わず顔をしかめて画面を見ると
 あ。
 “聡志さん”の文字が――彼からだった。
 聡志さん……
 私は感激してケータイを胸の前でギュッとする。しばしその幸福の余韻に浸ってからメールを開いた。

  “メール遅くなってごめんね”

 そのメールに私は返信した。

  “ううん、いいですいいです! 気にしなくて。お仕事忙しかったんですね? 今日も一日お疲れさまでした( ・´ω`・p)”

 変に勘ぐるのはよくないよね? うん、よくないよくない。そう自分に言い聞かせつつ、やっぱり不安だった。
 あ?――バイブが鳴ってまたメールが来たことを報せた。聡志さんからのメール――

  “今度の日曜日、空いてる?”

 私の返事――
  “はい、空いてますヨ♪”

 デートのお誘いかしら? とすっかり浮かれていると……

 聡志さんの返事――
  “大事な話があるんだけど、会えないかな?”

 『大事な話』
 大事な話って……?

 その言葉に不安を覚える。大事な話って何? それを聞くのが怖くなった。泣きそうになりながらメールを打つ。

  “大事な話ってなんですか?”――送信した。
「……」
 彼からの返事を待つ間、寒くもないのに震えが襲った。凍えるように両手で体を包み込む。やがてバイブが鳴った。

 聡志さんの返事――
  “それは会った時に説明させてくれないかな。メールではあまり言いたくないから。
   それから君に会わせたい人がいるんだけど、いいかな?”


 メールでは言えない話?
 会わせたい人?
 今度は何!?

 まさか……

 いや! 奥さんだったりなんかしたら……
「〜っ」
 涙が込み上げてきて、私はクッションに顔を埋めて嗚咽を漏らした。
 悪い話は聞きたくない!
 聞きたくないよ……

 やっと手に入れたと思っていた幸福が、夢から冷めるように消えてしまう気がして怖かった。

 聡志さんと別れたくない……

 いつしかとめどなく溢れ出していた涙でクッションはびしょ濡れだった。しゃくるような嗚咽も止められなくなり。メールを放置したまま、壁掛け時計がカチカチと無機質な時を刻んでいく。カチカチ……
「〜っく……うぅ」
 どれぐらいそうしていただろう。留まることを知らない涙に瞼を腫らす私のもとへあの報せが。突然ケータイのバイブが鳴り出した。絨毯の上で邪悪な獣のように低く唸っている。
「……」
 私は抱えていたクッションをずらし、泣き腫らした顔を哀しみに歪ませながら、恐る恐るケータイに手を伸ばした。聡志さんからのメールが届いていた。

  “考えておいてくれるかな
   メールでいいから、金曜日までに返事をください”






 日曜日、聡志さんと会うことになり、私は最寄りのT駅に向かった。聡志さんは車で来ると言っていたので、私は駅の入り口にある階段を上がってすぐの所に立って車を待つ。誰に会うのかわからないので、今日は持っている服の中で一番きちんとして見えそうな服を選んで着てきた。私に会わせたい人って、誰なんだろう。緊張する……

  “大事な話があるから”

 メールで彼にそう言われた時は、物凄いパニックになってしまった。

「やっぱり僕たち……結婚するのはやめよう」

 そんな妄想が駆け巡る。
 さらにはこの言葉――

  “会わせたい人がいるんだけど”

 会わせたい人って……

 聡志さんに女の人を紹介され
「妻だ」
「!?」
 ショックを受ける私。
 さらに聡志さんが言う。
「君との関係を妻に知られてしまった」
「あなたが乃々さん?」
 女の人が冷ややかな目で私を見据える。
 深刻な表情の聡志さんが――
「これ以上、君との関係を続けることはできなくなった。
 言いたいことはわかるね?」
「……」
「別れてくれ」

 そんな!?

 妄想の闇の奥に、二人が消えていく。やだよ、やだよ……
 聡志さん。
 私は泣いて泣いて、泣きまくった。やがて泣き疲れてベッドにうずくまってしまうまで。それからケータイを手に取り、メールを打った。
 
  “これだけ、教えてください。話って
   良いことですか? 
   それとも
   悪いことですか?”

 ――送信。

 不安で眠れないよ……
 落ち着かない気持ちでケータイの前でじーっと待っていると、数分ぐらいしてから返事が届いた。

  “僕は悪いことだとは思っていないよ。だからあまり深刻にならないで。
   多分、君が想像しているようなことではないと思う”

  “本当に?”

 私は小さく震える指でその続きを打った。
  “別れ話とかじゃないんですか?”

 ――送信。
「……」
 打っちゃった。送ってから待つ間、私は放心していた。やがてバックライトとバイブが連動して着信を報せると、メールを見るのが怖くなった。違うって言って……!
ギュッと目を瞑ってからメールを表示した画面に目を落とす。

  “大丈夫、僕の心は決まってるから”

「っ!」
 嗚咽とともに一気に涙が込み上げた。
 よかった……
 今度はうれしくてうれしくて仕方なくなる。気持ちのいい涙だった。




 迎えに来てくれた聡志さんの車に乗ってT駅から遠ざかる。
「あの、会わせたい人は……」
 車には乗っていなかった。勧められて座った助手席から、運動中の聡志さんに尋ねると彼は前を向いたまま答えた。
「店に着いてから話す」
「……」
 お店で待ってるのかな? そう思って聞いてみると
「店にはいない」と言われた。私は小首を傾げ、腑に落ちないまま車のフロントガラスから見える景色を眺めていた。



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 【警告!】彼から衝撃の事実が言い渡される瞬間まであと『00:14:33:05』
ショックで気絶しないよう、心の準備をしてください。
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 ビルの一角にある、ちょっと高級そうなお店に連れて来られて私は余計緊張してきてしまった。心なしか、居るお客さんもみんな品が良くて、ラフな恰好をした若者なんて一人も見当たらない。うわぁ〜なんか静かすぎて、落ち着かないよ〜。ドラマとかでお見合いする時に使うお店みたい。メニューもあんまりがっつりしたもの頼まないほうがいいよね。飲み物だけにしとこ。聡志さんはコーヒー、私はアイスレモンティーを注文した。それがウェイターに運ばれてきてテーブルに並び、一口飲んだところで、居住まいを直してから聡志さんが話を切り出した。
「結婚する前に君に話しておかなくてはならないことがある」
「はい……」
 私はゴクリと唾を飲みくだした。緊張して強張った表情で席で向かい合っている彼の顔を正面に見据える。静かな低いトーンで彼は続けた。
「今更こんな大事なことを言うのは不誠実なのかもしれない。だが、決して隠すもりはなかった。ただ言いそびれてしまって……こんなことを言っても言い訳にしか聞こえないかもしれないが……」
「言ってください」
 私は精一杯感情を押し殺して、きっぱりとそう促した。ここまで来たらもう後には引けない。怖いけど、聞くしかない。
 聡志さんは静かに頷くとまっすぐに私を見て開口した。
「実は僕には息子がいる。高校生の」
「それって……」
「死んだ妻との子だ」
 “死んだ”……
 じゃあ私、不倫してなかったってこと?
 今までずっと不倫してるのかもしれないと思いながらも、私はそのことには触れようとしなかった。怖くて彼に真実を聞く勇気がなかった。でも、違ってた。私、不倫なんてしてなかったんだ。誰かを悲しませるようなこと、してなかったんだ!
 よかった。本当によかった――!
 これで、いけないことをしているような後ろめたい気持ちから解放される。
 でも……
「これから家に行って、息子に会ってくれないか?」
「?」
「突然言われて気が引けてしまうかもしれないが……籍を入れるのも、それからにしたほうがいいと思うんだ。もし万が一、君が息子と折り合いが合わなくて親子関係になることを望まなければ、籍を入れなくても、僕はそれでも構わないと思っている」
「嫌です! そんなの……」
 私の声が震えた。
「私、ちゃんと結婚したい。聡志さんのお嫁さんになりたい……」
 抑え切れなくなって、私は両手で塞いだ口元から嗚咽を漏らした。その私を穏やかな目で聡志さんが見詰める。
「僕もそうしたいと思ってるよ」
「……」
「ちゃんと籍を入れてね」
 その言葉が私の手を握ってくれた。
「でもね、乃々ちゃん。これは僕たち二人だけの問題ではないんだ。その家族も関わってくる」
「……」
「君には両親。僕には息子がいる」
 わかってる。わかってるけど……
 私の目にまた涙が溜まってくる。
 聡志さんは私から目を逸らさずに、宥めるように続けた。
「息子に気に入られようとしてくれとは言わない。でも、避けてほしくない。受け入れてほしいんだ」
「……」
「急がなくていいから、ゆっくり、家族になってくれたらうれしい」






 ごく普通の瓦屋根の一軒家の前に車は停車した。私をそこで降ろしてから、聡志さんは車をその脇にある車庫に入れた。玄関の側に自転車が停めてある。サドルの高さが違う物が二台。息子さんのかな。それを見て実感が増してきた。聡志さんが先に立ち、玄関のドアノブに手をかける。
 緊張する……
 心拍数が一気に加速した。だんだん息苦しくなってくる。それに気付いたのか、聡志さんがこっちを振り向いた。
「大丈夫だから」
 そう言っているみたいに軟らかく微笑んで、私に向かって頷いた。私は頷き返して承諾する。ドアが開いた。




 玄関には大きなスニーカーが一足だけあった。それ以外は何もなく、散らかった様子は見られない。母親がいないのにきちんとしてるんだなと感心してしまう。
「ちょっと待ってて」
 そう言って聡志さんは、奥に消えた。何か話しているみたい。気になる……
「上がって」
 戻ってきた聡志さんに促されて、私は靴を脱いだ。彼が用意してくれたスリッパに履き変えて家に上がる。ソファーが置かれた洋間に通された。聡志さんが入れてきてくれた紅茶がティーカップの中で湯気を上げていた。それをじーっと見ながら私は、落ち着いて落ち着いて……と心の中で念じた。また心拍数が上昇中。やばい、息苦しくなってきた。とりあえず瞼を閉じてゆっくりと息を吸って、吐き出す。ふーー……
 ちょうど同じタイミングで、コンコンとドアをノックする音がした。「はい」と言って私は顔を上げ、ドアのほうを向いた。ドアが開き、その向こうから聡志さんとその背後からすっと誰かが部屋に入ってきた。その瞬間、背中から顔にかけてぞくぞくっとしたものが広がった。入って来たのはすらっとした体型の男の子だった。整った顔立ちで、並んだ聡志さんよりも背が高い。その子の背中に手を当てて、聡志さんが前へと促す。
「この子がさっき話した、息子の(あおい)だ」
「……」
 とりあえず私は無言で会釈した。その時私の手や額には、じんわりとしたいやな汗が滲んでいた。息子さんの蒼くんが、入って来た時からずっと私のことを睨んでるみたいなんだけど……気のせい?


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【第二の選択です。あなたの心に浮かんだのは?】
 不安。私、この子のお母さんになれるかな→A−2へ
 ツンデレみたい。かわいい~→Cへ
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