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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.2~

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2月9日晴れ 『勧誘1名』

「新しいの、入ったぞー」
「そこの貴方、保険に入りませんか?」

スーツ姿の男が異様に明るくそう尋ねる。
毎回断っているのにも関わらず、このような輩は月一ペースで現れるのだ。しかも大体同じ奴。

こいつらの記憶は月一で抹消されているのかとさえ思うくらい、しつこく同じ事を言ってくる。

ということで、何とかして諦めさせることは出来まいかと考えた末、カルラはひとつの結論に至った。

「消すか」
「そんなことしたら、ダメですよっ!」

右手に持った鎚を、シュラは両手で押さえつけてそう言った。

「すぐに暴力で解決しようとしないでください!」
「大丈夫だ。ただ、こいつの脳内から俺の存在を消すだけだから。怪我しても、こいつら保険に入ってるから」
「そういう問題ではありません!」

しぶとく掴みついているシュラと格闘していると、保険屋の男は気まずそうに口を挟んだ。

「あのー」
「何ですかっ!?」
「いえその、鍛冶屋さんは火を使う危ないお仕事ですので、火災保険に入られるのは如何でしょう? これ、資料です」

男は鞄から出したパンフレットを小さな手に渡す。隣でそれを読み始めるシュラを無視して、さらに話を続けた。

「それでですね、もしも、の災害に備えることは店主としてのなすべきことではないかと思うのです」
「備えているぞ。この店は魔物の軍勢にも耐えられるように改造したからな」
「またまた~」

事実である。しかし、これほどまでに不快に笑みはないな。
やはり消すか?

「それと、病気で働けなくなったときには、しばらく援助できるものがありますよ?」
「病気か、俺はなったことが無いな。シュラはあるか?」
「風邪くらいならありますね。でも、すぐに治ります」

じっくりと、つまらないそうな資料とやらに目を通すシュラが言うと、保険屋は、しめたっ、と何故か口に出して笑みを浮かべた。
そういうのは、心の中で言うものなのだが。

「風邪くらい、風邪程度、そんなふうに軽い病気だと思っていたら、足元掬われますよ? お子さんだけでも、入りませんか?」

確かに、自分はともかくシュラの体は弱い。鎚を振る手はおぼつかないし、体力も無くてすぐに疲れるし、小さいし、小さいし、あと小さいし……。

一つくらい入ってもいいのかもしれない。

「だが、金がない」
「そんな貴方に期間限定半額プランをお勧めします!」
「半額か。それなら、うちでもーーー」
「ダメですよ?」

資料を置いて、シュラは冷たくそう言うと、鋭く男の目を見た。

「どうしたのかな、お嬢ちゃん……?」
「子供ではありません。……この保険、不当ではないですか?」
「何を言い出すと思えば、大人をからかうのは止めていただきたい!」

明らかな同様を見せる男に、シュラはさらに反論を述べた。

「火災保険の適用には、過失がないことが書かれています」
「そりゃ、私共もわざとやられたら困りますから」
「過失がない火災であるのに、鍛冶屋であることを引き合いに出したのは何故でしょう。他にも、災害のときには割に合わない手当てを。働けなくなったら、仕事を手配する。保険料を払わないように画策していますよね?」

保険屋はわなわなと震えだし、一歩後退する。どうやら、子供だと思って甘く見ていたらしい。
あいにく、うちの子は優秀なのだ。

「ちょ、ちょ~っと用事が……」
「待てよ。説明してくれ、保険屋さん」
「……あ、詐欺にあったときの保険は如何でしょう?」
「怪我したときはいくら貰えるんだ?」

バキッ。
鈍い音を食らわせて、男は無事に返してやった。少し顔の大きさが変わった気がするが、元からデカい顔をしてやって来たのだから問題ない。
ついでに土産も渡しておいた。

その背中を見送っていたシュラは心配そうに言う。

「町の皆さんは大丈夫でしょうか?」
「さぁな。宿屋のババアにでも言っておけば、勝手に広まるんじゃねぇかな?」
「だと、いいのですが……」

悪徳な業者となると、厄介なことに本拠地がわからなくなることがある。目印でもない限りは、あいつ一人を捕まえても見つからない。

「まあ、大丈夫だ。逮捕保険にも入っているだろうからな」

鞄に忍ばせた土産は狼煙で、三日三晩に渡って煙が上がる。これならば、警備隊がその建物に押し寄せて、調べられたら悪行が見つかる寸法だ。

保険は他人に掛けるもの。
保険屋
備考……帰ってから鞄を開け、アジトを煙で埋め尽くした。警備隊は詐欺の実態と、三日間町を煙で包む悪戯の犯人を追っている。
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