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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.1~

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1月30日曇り 『弓兵1名』

「新しいの、入ったぞ~」
「カルラさん、よく元気でいられますね。徹夜明けですよ?」

1日ぶりに、鍛冶屋の店先には師弟の姿が見られた。
しかし、その姿は酷く疲れていて、服を変えていないのか、少し臭う。
それを気にして、あまり前に出ないシュラに、カルラは正面を見据えて言った。

「襲撃に来るんだから、寝ているわけにはいかないだろ。寝ていたら、何も出来ねぇ」
「……そうですね」

しみじみと、店と自分のことを言っているのだと思って、シュラは感傷に浸る。

「せっかくの試射なのに」
「そっちですかっ!?」

そもそも、カルラの脳内は鍛治仕事のことしかないのだから、長く人のことを考えることが出来るはずもない。
後ろで赤く、シュラは怒りと羞恥心で頬を膨らませる。
寝不足の乾いた目で、前方を見ているカルラは、十数メートル先の道から、フードとマスクで顔を隠した男を歩くのを確認した。

「アイツか?」

前を向いたまま尋ねると、警戒で腕を前に構えたシュラが小さく頷いて、肯定を示した。

「はい、兄です。この前と同じ姿をしています」
「1人に見えるが、罠かもしれないな。シュラ、警戒を怠るな」

そう言ってカルラは、二人で作製した武器を手に握る。
新兵器にして、秘密兵器であるその武器の名前はまだ無いが、使い方くらいは制作者として心得ている。
隕石から採取された熱帯性の高い鉱物を微量に織り混ぜた、黒色で刺々しい錫杖には、雷を引き寄せる雷雷石が使われており、取って部分を、雨雲に強い竜の鱗で保護している。

魔力を込めずとも、一撃くらいなら雷が楽に打てる代物ではあるが、本来の使い方ではない。
強い電気は強力な磁界を作り、金属を誘導する。
この性質を使い、古代の戦闘を重んじるエルフの攻撃を、確実に遮ることが出来る。

一歩、また一歩と、重々しく歩み寄る男は、フードを取り、斜め掛けした弓に触れる。

カルラの握る手も強くなったとき、男は弓を足元に落とした。

「え……?」

十メートル先で起こった、意味の分からない行動に、カルラは唖然としている。
シュラの兄は、固く閉ざされていた口をようやく開いた。

「我が軍は壊滅した。見事だった」
「何のことでしょうかね、お兄さん?」
「謙遜するな。たった一日で完全配備していた精鋭部隊を戦闘不能にするとは、ただの変態ではなかったのだな」

勝手に話が全速力で逃げ去っていくため、カルラは理解することができない。
兄エルフは、汚れた服を着たシュラの顔を見る。

「シュラ、その仕事は楽しいのか?」
「は、はいっ!」
「辛くはないか?」
「……少しだけ。でも、苦しくはないです!」
「何か、厭らしいこととかを強要されたりは……」
「してません!!」

懸命に、少なくて足りない言葉を交わすと、ふっと男は笑みを浮かべた。
そして、地面に落とした弓を拾い、再び肩に掛ける。

「今回は、シュラを守れる強さと、シュラの志に免じて去ろう。しかし、今度シュラに手を出したと聞いたら、今度こそ連れて帰る。分かったか?」
「別にいつでも来ればいいんじゃねぇか?」

カルラを睨んで、次にシュラに言う。

「シュラ、男はみんな狼だからな。気を付けろ」

男は、来た道をまっすぐ戻っていく。
どうして、こんなにも簡単に引き下がったのか、その答えは分からない。
しかし、一言だけ、彼について言えることがある。

「……過保護過ぎやしねぇか? お前の兄貴」
「否定は出来ませんね」

噂の真偽を確かめるためだけの、壮大かつ迷惑な家庭訪問という形で幕を閉じた。

残されたのは、変わらぬ鍛冶屋の師弟と、金属を扱う店には置けない面倒な武器の後始末だった。
ビジャ・トンプソン(21)
特技……遠距離弓術
備考……真面目な理由を付けては妹に構う、いわゆるシスコン。シュラファンクラブの初代会長。
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