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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.10~

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10月12日晴れ 『薬剤師1名』

「新しいの、入ったぞー」

 よく晴れた昼時、カルラは普段通りに店の前で呼び込みをしている。秋の涼しさが増してきたとは言え、日差しは暑く、外を歩く人影はあまり見えない。

 そんなとき、背後から小さな足音が近づいてきた。

「クリョクさん、昨日から落ち込んでいるようですね。大丈夫でしょうか?」

 そう尋ねたのはシュラだった。魔法の鏡に見せられた光景のせいか、クリョクが自室に引きこもっていることを懸念しているようだ。

 カルラはそっと、シュラの頭に手を乗せて、優しく撫でる。

「別に、大丈夫じゃなかったとして、俺達が何か出来ることもねぇだろうよ」
「それはそうですけど……。心配ですね」

 シュラが呟いくと同時に、先程まで誰も居なかった道の真ん中から声が聞こえてきた。

「話は聞かせて頂きましたぁ~」
「誰にも言ってねぇのになっ!」

 カルラは警戒の色を見せながら、目の前の陰鬱そうな女性に向かって言った。彼女の名前は、エイル・レ・マットという薬剤師で、危険な薬を扱う狂人である。

「盗聴器は全部破壊したのに、なんで知ってやがる。まさか、体内に……!?」
「なんですか、その怖い方法!? いつ入れられたのですか!」

 不安で身を縮めるシュラは言う。しかし、エイルは態度を変えることなく、小さく微笑んでいた。

「落ち着いて下さいぃ。私は、クリョクさんにたのまれたんですよぉ~」
「頼まれた? 何をだ?」

 クリョクのことを語るということは、少なからず偶然ではない。

「妖怪化しないためには、平常心であることが必要だとかでぇ……」

 どうやら妖刀クリョクは、エイルと連絡を取って、自ら対策を練ろうとしていたようだ。心配を掛けまいとする配慮かと思うと、複雑な気分だ。

 エイルは持ってきた紙袋を探り、ある物を取り出す。そこにあったのは、丸みを帯びた縫い物で、とても柔らかそうな、

「クマのぬいぐるみが欲しいと言われましたぁ」
「あいつ、実は元気なんじゃねぇの?」

 クリョクの趣味であることには変わり無いが、非常事態に欲するようなものではない。そんなことを思って怪訝な表情を浮かべていると、シュラが思い付いたように喋り出した。

「も、もしかしたら、何か特別な意味があるのかもしれませんよね?」
「確かに、熊の手を持っていると商売繁盛するとか聞くな」
「いえ、そういうのではなく」

 違ったのか。
 シュラは期待を込めた明るい表情で語る。

「例えば、クマさんは邪気を払う構造とか!」
「クマのぬいぐるみはぁ"可愛い"とだけ言われましたけどぉ?」
「………………うぅ」

 これ以上の弁論は不可能と考えて、シュラは肩を落とす。正直、うちの妖刀にそこまで魔法知識はないから仕方ない。
 カルラはエイルの持っていたぬいぐるみを受けとる。

「まあ、気遣ってくれてありがとな。こいつは渡しておく……が、その前に」

 カルラはエイルを睨む。

「盗聴器はぁ、入ってますよぉ~」
「もう隠すこともしねぇんだな。外してこいっ!」

 ぬいぐるみを投げつけた。
エイル・レ・マット(20)
特技……モールス信号。
備考……
最近開発された簡易無線水晶を使い、暗号文でのやり取りを覚えた。それを使って、クリョクと情報交換をしている。
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