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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.10~

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10月11日曇り 『鏡1枚』

「新しいの、入ったぞー」

 曇り空が陽光を覆い、薄暗く道を照らしている。乱れた淡い光の粒は、道に影も作らない。そんな人影もまばらな大通りを、和服姿の妖刀クリョクが楽しそうに駆けていた。

「主っ、あるじっ!」
「どうした、クリョク?」
「拙者、とても素晴らしいものを拾ったでありまするっ!」

 クリョクは背中に大きな荷物を背負っている。

「素晴らしいもの? 金か?」

 カルラが尋ねると、クリョクは不機嫌そうに唇を尖らせて言う。

「主の、そういうところが駄目なのでありまする」
「誰が駄目だ? 金は大切だろうが。地獄の沙汰も金次第なんだろうが」
「主、神様信じないのにその言葉はどうかと……」

 前に、三途の川は見たような気がするのだが、気のせいだろうか。というか、地獄行きの方も否定して欲しかった。
 クリョクは背中に乗せていた、大きな荷物を風呂敷から出して、得意気に笑っている。

「拙者が拾ってきたのは、こちらでありまする!」

 掲げたものは、古く錆び付いた飾りが施されている、豪華な装飾品だった。

「かがみ、だな?」

 時代を過ぎても未だに反射させる機能を忘れていないのは、割れたり風化したりしない、何か特別な力でもあるのだろうか。
 カルラの考えを悟ったように、クリョクは言った。

「ただの鏡では無いでありまするよ! なんと魔法の鏡だったりする!」
「魔法の鏡って、どうして分かるんだ?」
「本人に聞いたでありまする」

 クリョクが鏡をこちらに向けると、そこにはカルラのもの以外の顔があった。驚くカルラに、その顔が語りかける。

『妖刀の娘よ。我になんの……』
「物が喋っちゃったよ。また面倒なもんを持って来やがって」
「主、それは拙者も同じでありまする」

 忘れそうになるが、クリョクは妖刀である。そして、製作者はカルラなのであった。
 怪訝な表情を浮かべるカルラに、鏡はもう一度語りかける。

『聞け、人の子よ。我は鏡職人の大迷宮を守る守護者なり。何ゆえ我を大迷宮から取り出した?』

 大迷宮なんて、近隣にはなかったはずだ。いったい何処まで遊びに行っているのだろうか、この妖刀は。

「ほら、人ん家のもんを勝手に取ってきたら駄目だろうが」
「扉もなかったでありまするよ?」
「そっか、じゃあ仕方ねぇな」
『駄目だよ?』

 鏡は呆れたように言う。

『いや、我は今さら、何処へ連れ出そうと構わん。しかし、無闇に連れ出すことを薦めはせん』
「随分と回りくどいことを言う鏡だな」
『鏡は真実のみを写す』

 鏡はカルラに向けて、真実を向けた。鏡には見えるはずの背後の光景がなく、そこには血と戦闘の痕跡が広がっている。

『妖刀はいずれ、本物の妖怪になるか、刀に戻るかを迫られる。人のように振る舞えど、人では無いことを忘れるな』

 赤く、刃を染めるのは和服姿の幼女。全身を刃に変えたその姿は、今の姿からは想像が出来ない。
 鏡を手に持ちながら、クリョクは真実に絶句していた。信じがたいのは、おそらく本人とて同じこと。

「拙者……」
「クリョク、粗大ゴミの日っていつだっけ?」

 クリョクが何かを言う前に、カルラは鏡を取り上げる。

『止めておけ、我を捨てられると思うなよ。そのときは、タンスの角に小指をぶつける呪いを掛けてやる』
「地味な呪いだな!!」

 鏡を風呂敷に納めるカルラは、言い聞かせるように独りごちる。

「……鏡が写すのは目の前のことだけだ。角度ひとつで変わる真実よりは、真っ直ぐ見据えたテメェの目ん玉の方が信頼できる」

 結び、隠した鏡を持って、カルラは立ち上がる。
鏡職人の秘宝・シンジツ……
鏡を覗き込んだ者に、未来や過去に起こり得た真実を見せることが出来る秘宝。その裏側にはルーン文字を使った、誰かの名前が刻まれている。目を逸らしてはいけない真実がある。
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