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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.9~

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9月19日晴れ 『スランプ中』

「新しいの……ダメだぁ」

 鍛冶屋の工房では、そんな悲しげな声が響く。

 槌を片手に落ち込むカルラの横で、白髪の小さな弟子、シュラが励ますように佇んでいた。そして、カルラは自分を責めるように、床を拳で打ち付ける。

「ダメだ、ダメだ。全然上手くいかねぇ」
「カルラさん、落ち込まないで下さい」

 肩の上に乗せた小さな手は、あまりに頼りなくて、力になれているかも不安に思うシュラは言う。
 カルラはもう一度、さらに強く拳を打ち付けた。

「クソッ」

 目の前に並んだ、納得の行かない駄作をカルラは睨みつける。

「どうして、普通の武器が作れねぇ……。なんで爆発も、生物化も、変形もしねぇんだよ!?」
「いえ、あの、カルラさん? それが普通です」

 シュラが工房を見回すと、並んだ二十数点の剣や防具は、いつもよりも大人しく、騒ぐことなくそこに収まっている。二十もあれば、一つくらいは叫び声を上げるのだが、今回に限っては、炉の薪が折れる音しか聞こえていない。

「でも、確かに変ですね。何か、いつもと違うことがあるのでしょうか?」
「いつもって……」

 そう尋ねられたカルラは、感覚を思い出すような、右手に持った槌を握り、大きく振り上げる。

「こう、想いを込めて、力強く叩きつけ――――」

 ブニャリと、意味のわからない音が、叩いた鉄から返ってくる。しばらくの沈黙を経て、シュラが真顔で口を開いた。

「……今、ブニャって言いましたね」
「そうだな。金属にあるまじき音がしたな」

 死んだ目で、燃え盛る炎を見つめながらカルラは頷いた。
 昨日までならば、もっと甲高い音が聞こえてくるはずなのだが、それが聞こえる気配すらもない。

 カルラの作品は、今でも十分名品ではあるのだが、やはり寂しいもので、シュラは悲しそうな面持ちで再び問うた。

「そもそも、カルラさんの作る道具は何故、あれほどまでに不可解な変貌を遂げるでしょうか?」
「そりゃ、気合いを入れて叩けば、どんなものだって変わるものだろ」

 カルラは炉の炎を絶やさぬように、薪をくべながら、昨晩のことを語る。

「昨日の夜に来た強盗だって、叩いたら動かなくなった」
「顎に入っていましたからね」

 その後の治療が大変だったことから、シュラは苦々しくそう応えた。
 昨晩のことが原因であるのなら、一度刑務所に行かなければいけないのだろう。しかし、それにも根拠はないのだが。

「どうしたもんか……」

 カルラが呟くと、工房の扉が軽快に開かれる。

 槌を構えて急な来客に備えるが、そこに立っていたのは、和服姿の妖刀、クリョクであった。安堵の様子でカルラが槌を置くと、クリョクは跳ねるように元気よく駆け寄ってきた。

「主、あるじ!」
「どうした、クリョク?」
「昨晩お借りした、鎚を返しに来たでありまする!」

 クリョクは手に持った金属製の鎚を差し出して、おかっぱ頭を揺らしていた。

「"鎚"?」

 差し出された鎚と、自分の手に持っているものを見比べるカルラ。そして、ようやく差異に気がついた。

「……なるほど、今まで"槌"を使っていたのか。通りで力が入らねぇわけだ」

 槌というのは、木製であり、金属を叩くようなものではなく、本来は鎚を使っていたのだが、昨日に限っては強盗が現れたため、クリョクに護身用として貸し与えていたのだった。

 鎚に得物を握り直すと、クリョクは屈託の無い笑みを浮かべる。

「主は、うっかりさんでありまする」
「今度から気を付けねぇとなぁ」

 顔を見合せて、高笑いを上げる二人の姿を見て、シュラは微笑んだ。
 いつもの風景というのは他には代え難く、変わりないという幸いに感謝することを知る。

 安堵するシュラは、再び首を傾げた。

「……え、今まで木で鉄を加工していたのですか?」

 常識などはない、そんな世界の物語。
鍛冶屋の鎚
……鉄製の一般的な鎚。丈夫で握りやすく、職人の心遣いが感じ取れる一品。三ヶ月に一度、買い求める。市販品のため、特に異形の力はない。

鍛冶屋の槌
……木製の一般的な槌。丈夫ではあるが、あくまでも大工ようであり、燃え盛る鉄を打てば焼け焦げるはずなのだが、気合いを入れたら問題ない。
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