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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.9~

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9月7日雨 『志願者1名』

「新しい情報だと、この下に鉱石があるんだったよな?」
「はい。とても希少な鉱石があるそうです」

 とても深い、深い地面に空いた大きな穴の側面を、カルラ達三人はゆっくりと、壁に張り付くようにして進んでいた。
 ふと、疑問に思ったカルラはシュラに尋ねる。

「……たまに思うけど、どこ情報なんだ?」
「宿屋さんです」
「なんか、急に不安が込み上げてきたな」
「今まで事実ばかりだったので、大丈夫だと思いますよ?」

 すぐ後ろを付いて歩いているシュラは、小さな体を壁に付けながらそう言った。
 カルラは顔を上げ、今まで降りてきた穴を見上げた。

「にしても、随分と深いところに来たな。ここまで来ると、落石が心配だ。気を付けろよ」
「分かりました」

 硬い岩肌は声を反響させて全員に伝わると、見上げたクリョクは立ち止まり、カルラに告げた。

「了解でありまするが、主」
「なんだ?」
「さっそく何かが落ちて来ているでありまする」

 そう言われて上を見ると、確かに先ほどまでなかった影が穴の中央に向かって落ちていく。

「……落石かっ!?」
「いえ、人のようで」
「なんだ人か」
「何故、落ち着いたのですか!? 受け止めますよ!」

 穴の中央へは、命綱があるとはいえ、深さが分からない時点で飛び込むことは難しい。それを考慮して、カルラは前の壁に張り付くクリョクに手を伸ばし、やれやれと首を振った。

「はぁ、仕方ねぇな」
「あの、主? なにゆえ拙者の首を掴んで投げっ――――」

 クリョクはその人物にぶつかり、しかと受け止めると、そのまま穴の底に落ちていく。

「カルラさん……」
「いや、ほら、アイツなら死なないし」
「私なら、魔法で速度を落とすことが出来たのですけど?」

 そう言われて見れば、確かにそのような効率的で、安全な気がするが、まあ、ねぇ。

「気にするな」
「気にしますよっ!?」

 誤魔化しきれず、シュラの声が響き渡った。



 穴の底にたどり着くと、ほの暗い地面に携帯用ランプを灯す。すると、前方には和服を汚しながら、クリョクが泣きわめいていた。

「あ、ああ主が拙者を落としたぁあぁあ~……」

 丈夫なのは知っていたが、無傷というのは驚きである。カルラは背後で怪訝な表情を浮かべていたシュラに報告した。

「ほら、無事じゃねぇか。元気に泣いてやがる」
「泣いて元気なのは赤子だけです、カルラさん」

 赤子のようなものだから、問題ないだろう。灯りを左右に振ると、クリョクの横には先ほどの人影が、踞っているのな見えた。

「うっ……うぅ……なんで死なせてくれないのぉ……」

 どうやら女性のようで、ブロンドの髪を揺らして泣いていた。

「そのお方、どうやら失恋したようでありまする。ひどく傷心の身ゆえ、丁重に」

 クリョクはそう言うが、カルラは内心面倒くさがっていた。命を助けたは良いが、命を大切にしない彼女を気遣い続ける理由はない。

 しかし、横に立つシュラが提案する。

「いま助けなければ、おそらく再び同じことを繰り返しますね」
「そうなりゃ、立ち入り禁止だな。人生相談は苦手なんだけど、やるしかねぇな」

 腕を組み、女性に近づくカルラは口を動かす。

「おい、お前。何があったのか、話してみろ。楽になるかも知れねぇぞ?」
「こっ……」

 カルラを見た途端、女性は驚愕に目を見開いた。

「怖い顔っ!?」
「ちょっとリトライしようぜ。地獄までの片道切符余ってんだ」
「カルラさん、何故自殺の助けをしようとしてあるのですか……」

 遺体を処理すれば問題ないのではないか、という問いは言う前に睨まれたため却下された。
 今度はシュラが歩みより、丁寧に尋ねる。

「よろしければ、お話頂けますか?」

 子供相手だとでも思ったのか、女性は蔑ろにすることもできずに、ゆっくりと語りだす。

「じ、実は……許嫁が浮気をしていて、その方と一緒になると言い出したのです。不要になった私は家を追い出されてしまいました。もう行くところも、生きる意味もないです」

 語れば語るほど、涙が穴の底を叩く。

「あの方が私を捨てた理由は確か、『つまらない顔』だったと思います。泣いていて、よく聞こえませんでしたけど……」

 地面に握られた拳を、彼女は音もなく自身の膝に叩きつけた。

「皆さんは、結婚相手に必要なものって何だと思いますか?」

 無気力に尋ねる彼女の問いは、彼女の存在意義を示している。誠意を込めて、本気の回答をすることが望ましい。
 カルラは口を開き、正直に答えた。

「外見と金と、あとは権力か」
「カルラさん、ちょっと黙っていてくださいませんか?」

 シュラがいつになく冷たい声で言うと、周囲は静まり返る。そして、彼女の目を見て口を開いた。

「人の魅力は、それだけな筈がありません! お金が無くても、外見が怖くても、地位なんか気にしなくても、心から尊敬できる方であれば、それが運命です」

 誰か思い当たる節があるのか、その言葉には強い信念が伺える。そして、彼女の手を取ると、汚れた足を立たせて、力強く言い放った。

「……もっと前を見てください。真っ直ぐ、前を向いて歩く貴女は、とても格好いいのですから」

 誰かに似ている気がしたが、誰かが分からない。とても頼もしい弟子の成長に、カルラは小さく笑みをこぼす。

「うん……分かったわ。頑張る……から……」

 女性は涙を拭き、それでも流れる滴に手を当てる。涙が枯れる日は遠くないのだろう。
 カルラが灯りを地面の方に向けると、なにか大きな、地面に被さるようなものがあった。

 カルラはそれを、そっと手に取る。

「ところで、この布は何だ?」
「先ほど落ちた際の、パラシュートでありまする」
「死ぬ気なかったのかよっ!」

 クリョクは不思議そうに首を傾げる

「命懸けのスポーツでありまするよ?」
火山道
……噴火によって出来た火山の大穴。地表に少ない鉱物が噴火によって排出され、出来た穴の表面には純度の高い鉱石が見られる。
魔法の世界であるため、規模も桁違い。
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