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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.8~

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8月21日雨 『英雄王1名』その2

「新しい馬車を出せ! 試作品でも構わない!」
「急げっ! 争う暇もない。誘導に従って、順序よく動んだ!」

 城門を潜る前から聞こえていた喧騒は、すぐ近くで発せられていて、来るときとは異なり、町中が慌ただしく身仕度を急いでいた。
 その変貌に驚くカルラは、城門付近に立っていた兵士に尋ねる。

「どうした、何の騒ぎだ?」

 兵士の男は、指示を出していた手を止め、カルラと、横に立つシュラを見比べてから、愛想の良い笑みを浮かべて口を開く。

「おお、昨日の冒険者か。うちの部下達も称賛していたぞ。クラーケンを見て、よく死ななかったな、と」

 騒ぎのせいで質問が聞き取れなかったのか、男は検討違いのことを口走る。
 今にして思えば、クラーケンはこちらの様子に気がついていたが、食料として見てはいなかったように思う。おそらくは、気にくわないことではあるが、先駆者のおかげなのだろう。

「……まあ、クラーケンにも嫌いな食い物があっただけだ」
「ほう、あの怪物にも、苦手なものがあるとはな。出会ったときの参考までに、聞かせてくれるか?」

 興味深そうに尋ねる兵士に、カルラは長く考えてから、曖昧に答えた。

「ダメ人間……か?」
「うちの女房みたいな好みをしてるんだな」

 別に結婚相手というわけではないのだが。
 それ以上の言葉を飲み込んで、カルラはもう一度、町の景色を視界に収めてから兵士に尋ねた。

「それで、今は何をやってんだ?」
「ん、聞いていないのか?」

 何のことなのかと思いながら黙っていると、やれやれと首を振りながら兵士は説明する。

「避難命令が出たんだ。前々から王が懸念していて、災害級の魔獣が出ていた場合は、区画ごとに別の国へと移動するように仰せつかっている」

 確かに、国王は事前に予測していたらしく、その際の誘導を視野に入れていても不思議ではないのだが、だからと言って、昨日の今日で始めるのは妙である。
 シュラも同じ事を思ったのか、兵士に疑問を述べた。

「これだけの人数……国中の人々が、移住を決意したのですか?」
「国王陛下が当面の生活を支えてくださると、我々に約束してくれた。だから全員、迷うことなく動いてくれる」

 国民全員を養えるほどとは、流石に優秀な王だったのだろう。

「随分と気前の良いこった……」

 そう呟くカルラは、国王の言動を思い返す。全く、些細な動揺もなく、躊躇もなく、国土を捨てる決断をした、あの王はどこにいるのか。

「お前らも早く逃げるといい。この国は直に、戦場となる算段だからな」

 全て、折り込み済みだったらしい。諦めも、犠牲も、国王は全て知っていた。

「……下らねぇ」
「カルラさん?」

 困惑するシュラに、カルラはいつになく険しい表情を浮かべ、唸るように低い声色で言う。

「シュラ、早くクリョクと荷物を回収しに行くぞ」

 右往左往に散る人混みを縫うように、カルラはシュラの手を引き進みだした。
門番(45)
家族……妻と息子と娘の四人家族。
備考……子供が自立して、少し寂しくなった兵士。犬や猫を飼おうかと思ったが、アレルギーが発覚して断念した。間を取ってアルパカを検討中。
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