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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.1~

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1月22日星空 『師弟2名』

今日までシリアス回です
夜の森は暗く、目が慣れても足元が暗く淀んでいる。急いで出たため準備がなく、それを解消する手立てもない。
魔法の火は危ういし、光は眩しすぎる。

こんなとき、カルラさんなら便利なアイテムを……いや、炎より危ないか、光より扱いづらいものを用意するのだろう。

思いだして、小さく笑うも、もう戻れない寂しさから泣きそうになる。
どうせ誰も居ない。泣いても誰が気づくこともないだろう。

「……カルラさん」

枝葉の隙間から見える星明かりは朧気で、小さな雫など気にも止めない。

ふと、辺りの違和感に気がつく。
遠く後方から、風ではない何かが近づいてくる。

今思えば森の中、冬眠期とは言え、熊がいないとは限らないのだ。
いや、熊ならまだしも、幽霊とかお化けとか妖怪だったら不味い。気絶してしまう、絶対に。

身構えていると、音は止む。
思い過ごしだと思い、ほっと胸を撫で下ろす。

「ジュラァーーー!」
「キャーーー!」

突如後ろに現れた何かに驚き、目を固く瞑って、咄嗟に出した平手をそれにぶつける。
―――パシンッ!
幽霊ではないそれには、確かに感触があった。



カルラの手の上に置かれた、指先ほどのランタンは、暗い森を数百メートルに渡って照らす。
白い光に照らされた顔には、赤々とした手の跡がくっきり残っていた。

「ゼェゼェ……。なんで殴んだよ、痛ぇじゃねぇか!」

膝に手をつき、前屈みになりながら、息も絶え絶えにカルラは言う。
目の周りを赤く腫らしたシュラは、安心と驚きから開き直り、責めるような口調で答えた。

「だって、お化けかと思うではないですか! 怖すぎですよ!」

衣服は所々破れ、足元は泥はねの跡が目立つ。額を流れる汗は、経過した時間の長さを物語っていた。

シュラは胸の底を締め付けられるような感覚を握りしめ、自分の目線の高さまで下げられた頭に向かって尋ねる。

「もしかして、走ってきたのですか?」
「ああ? 当たり前だろ、うちに馬はいねぇし」

嘘をついている風ではなく、軽くそう言った。

「ここ、すごく遠いですよ?」
「このくれぇは余裕だ。ま、最初に占い師が間違えなけりゃ、もっと早く着いたはずなんだがな。ったく、無駄に西の森に詳しくなっちまったぜ」

西の森はかなり広大だ。往復するだけでも時間は掛かるほどに遠く、くまなく回れば、半日は掛かる。到底、東の森まで来ることは出来ない。
しかし、常に走り続けていれば、その限りではない。

「……どうして」

思わず零れ出た疑問に、カルラは鼻で笑う。

「退職届けに不備が、何だったっけか? 忘れちまったよ、おい。……とりあえずシュラ、お前はまだ俺の弟子だ。だから、お前の口から理由を聞きに来たんだよ」
「そんなことで」

それを聞いたカルラは、声を低く、呼吸で体を大きく上下させながら口を動かす。

「うるせぇよ。そんな簡単に、俺の弟子を止められると思うな。俺が納得できる理由がねぇなら、地の果てだろうと、天の端だろうと連れ戻す。悪いが、俺は自分勝手なんだ」

熱くなった顔を、風がそっと掠めて通る。
思わず綻びそうになる頬をきつく引き締めて、俯いきながら、感情を抑えるようにシュラは拳を固く結んだ。

「わ、私が居なくても良いじゃないですか! カルラさんの作品があれば、お店は大丈夫です! 私なんて……私なんて……―――」
「俺の弟子を悪く言うんじゃねぇ! それは俺への侮辱だ!」

突然、響いた怒声に驚き、シュラは顔を上げる。
木々も枯れ葉も、満点に光輝く星空でさえも、ざわめき騒いでいるようだった。

ようやく呼吸の落ち着いたカルラ、膝を折り、シュラの目を見て語りだす。

「俺は、お前がどれだけ努力したかを知っている。毎日毎日、飽きもせずに俺の作業を見て勉強して、暇がありゃいつも火の前で練習してる。そんな奴の悪口、許すわけがねぇだろ」

自分を見ている人がいる。そんなことが、どこか虚しかった心を満たし、ゆらゆらと視界を揺らす。

「聞かせろ。お前が夢を捨ててまで、里帰りってのをする理由をよ」

押し込めたものは、支えを失ったように落ちていく。

「……はい」

夜の森は暗く、ぼやけて前が見えにくい。
レトロ工房……築10年の家屋。元々鍛冶屋だったものを、カルラが譲り受けた。
三叉路の角地に建っているため、人通りは多い。

辺境の町……国境に近く、旅人に中継地点として使われる町。RPGだったら大体通り過ぎるやつ。
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