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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.8~

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8月7日晴れ 『鬼1名』

「新しいの、入ったぞー」

 カルラがそう言って店の前で立っていると、白いワンピースに褐色の肌が目立つ、紫色の長い髪の隙間に二本の角を生やした、少女が走ってきて、店の中を楽しそうに見つめて、元気な声で言った。

「アッハハ! 鍛冶屋だ鍛冶屋だ! 武器や防具、その他日用品も売ってるよっ!」
「知ってる」

 未だに差別なんてものがある国で、魔族がこれほど簡単に姿を見せるのは珍しい。しかし、どちらかというと、危ないのはこの少女の方だと思わせるくらいに、狂気染みた目をしていた。

「シュラ、久々に危ない奴が来たぞ。構えておけ」
「カルラさん、勘で武器を手に取らないでください……」

 隣に立つシュラに注意され、仕方なく鎚を仕舞う。少女はそれに気がついていない様子で、明るい笑顔をこちらに向けた。

「ねぇねぇ、カッコいい兜は売ってないの?」
「ああ? たくさん有るだろ。ほら、この~、よく分からない芸術的なものとか」
「それ、自分で作ったものですよね?」

 自分で作っていても、たまによく分からない物が出来てしまうものだ。未知の生物とかが生まれるときは、大体そういうときである。
 少女は不服そうに唇をとがらせ、熱心に主張する。

「もっと、情熱的な、爆発的な奴が欲しいのっ! ねぇ、無いの? 有って然るべきでしょう!?」
「瞳孔を閉じろ。交渉はそこから始まる」
「どんな交渉ですか……?」

 呆れた声でシュラが言う。しかし、それでも赤い瞳は全てを見透かすように、大きく開かれていた。
 シュラは口元に指を当て、疑問を含んだ声を漏らす。

「えと、兜だと、倉庫にたくさん有りますが、全て持ってくるのは大変ですよね?」
「大丈夫だ。とっておきの奴がある」

 そう言ってカルラは倉庫へと歩き、いくつか在る中から、一つの兜を持って店先へと戻ってくる。
 手には、赤と黄の目立つ外観を持つ、奇妙な形の兜があった。

「ほら、これがお前の身の安全を完全に守りきる……」

 額に付いた、丈夫そうな六角形のエンブレムを指してカルラは説明する。

「"頭突き用ヘルメットだ"」
「明らかに攻撃用ですよね!?」

 防具だからといって守るばかりではいけない。そんな適当な目的で作った売れない商品だった。

「最近は物騒だからな。頭の防具も攻撃用じゃなきゃ、やってられねぇだろ?」
「そういうものですか……?」

 カルラは人差し指を天に向け、目を細めて面倒くさそうに語り出す。

「気に食わない上司とか、気に食わない旦那とか、そういう奴を蹴散らせる」
「むしろ積極的に物騒な世の中を作ろうとしてますよね?」

 シュラがやれやれと溜め息を吐いていると、兜を見た少女が小刻みに震えだしていた。

「これ、イイっ!?」

 唐突な声に驚いていると、少女は兜を手にとって口を動かす。

「独創的、野性的、まるで神々のシンボルのようなイメージ! アッハハ、最高じゃないかっ!」
「……あー、そうだな。確かにそんな感じだ」
「カルラさん、もっと日常的なことを言っていましたよね?」

 そこまで日常的でもないけれど。
 需要に応えられたカルラは、どこか満足げに一息吐いた。しかし、少女はゼンマイの切れた玩具のように、突然静かに黙りこむ。

「あ、でもお金無いや」
「買わねぇのかよっ!」

 返された兜を抱えて、カルラは言った。
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