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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.7~

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7月2日雨 『王者1名』

「あ――――」
「チャァァアーーーーンピォォオオンッ!!」
「うるっせぇっ!!」

 雨が降りしきる中、曇天の下で一人、おかしな風貌の男が堂々たる佇まいで立っている。ほとんど裸で、顔を隠したその男は、冗談でも聞いたような笑みを浮かべて口を動かした。

「おいおい、俺のことを知らねぇのか?」
「知らねぇよ。知っていたとしても、街中でパンツにマスク姿の男は基本的に犯罪者だ。警備隊を呼ぶぞ?」
「警戒の早さは褒められるが、ちょっと待ってくれても良いんじゃないか?」

 野太い声を小さくして、男はカルラを宥める。
 そこに、店の奥の扉が開き、帳簿を持ったシュラが顔を出した。そして、こちらに気がつくと、目を丸くして声を張り上げた。

「か、カルラさんっ!? ……えと、お友達ですか?」
「そのとおぉぉおり――――ゲフゥウッ!」

 近所迷惑である。
 回し蹴りを横顔にぶつけると、筋肉で武装した男は意図も容易く地に伏せる。痛そうに顔を押さえる男は、泥まみれになりながらこちらを見た。

「何すんのさ、マイフレェンドゥ……」
「次、嘘言ったら、その口に針千本飲ませるからな?」
「め、目がマジだぜ、ブラ……――――」
「あぁ?」
「……アイムソーリー」

 カルラの気迫に圧され、男は弱々しく口を閉じ、黙ってゆっくりと立ち上がる。膝を叩いて、あまり落ちない泥を弾く男に、カルラは怪訝な目で尋ねた。

「で、何なんだテメェ? 変態か? また変態なのか?」
「オレは今年、王都の武闘大会でチャンピオンになった者で……そんなに変態居るのこの辺?」
「今も目の前にな」

 何故か怯える男は気づかないようだ。腹立たしい。
 シュラは何かを思い出したようで、小さな唇を動かして、言葉を紡いだ。

「そういえば、クリョクさんが言っていましたね。確か、人族最強だとか」
「よく知っているね、お嬢さん。ほぉら、サインだよぉっ!」
「え、えぇ、あ、あり……がとうございま……す」

 パンツから出された色紙を迷いながら受けとると、シュラは端の方を持って、その辺に置く。

「ま、それはどうでも良いとして」
「良くないからね、重要だから」
「そのチャンポンが何の用だ? 飲み過ぎたのか?」
「"チャンピオン"ねっ! あと、オレは元気なだけだからっ!」

 こんな格好でシラフなんて、世界は狂ってやがる。そんなことを思いながら、カルラはため息を吐いた。
 雨はまだ、止む気配を見せない。
 男は自信満々に、歯を見せて笑うと、店を指してこう言った。

「オレがここに来たのは、ちょー強い装備がありそうな方角に走って来たからだ。それで、行き着いたのはココっ!」と。

 ここに来たのは、一応間違いではないようだ。

「……勘が良いんだな」
「カルラさん、あまり危ないものを売らないで下さいね?」

 シュラの言葉の何を勘違いしたのか、男は満面の笑みで首を横に振る。

「チャンピオンはっ、どんな武器の扱いにも慣れているぅ~。だから、何でも強いものを売ってくれて、構わないゼェ!」

 それを大人しく冷静に聞き入れて、しばらく黙ってから、カルラはシュラに言う。

「だとよ」
「それでも、命に別状の無いものを選んで下さい」
「……ここ、街の鍛冶屋だよな?」

 急に不安を感じる男は、弱々しくそう呟く。
 その数分後、商品を選んでカルラが男の前に立つ。
 店の中から選び抜いた商品は、革製の、あまり特別な様相が見られないものだった。

「何だこれは? チャンピォオンベルトゥにしては、貧弱そうだな」

 疑念の籠った視線に、カルラは淡々とした説明で返す。

「コレが"分身を作るベルト"だ。自分と同じ姿の実体を作る装備だ。使いこなせば、かなり強いぞ」
「なるほど。これなら練習が捗りそうだなっ! よし、買ったっ!」

 財布から金を出し、カルラからベルトを受けとると、パンツのところでそれを留めた。
 そして、使い方も分からないのに、男は大きな声で叫びだす。

「カモン、ぶんしぃぃ――――……ベフゥッ!」

 現れた黒い分身は、チャンピオンの顔を殴ると、すぐに消え去った。それから静かになった変態チャンピオンは首を傾けて、地面で寝てしまう。

「因みに、使い手より強い分身が現れる仕様だ。強いだろ?」
「……カルラさん、簡単に人類を超えないであげて下さい」

 今日も雨が降る。
グレート・オブ・マスクマン(24)
特技……ダイナマイト・グレート・ビンタ
備考……声の煩い格闘家で、王都の大会で優勝した男。普段は酒屋を営んでおり、マスクを外すと静かで謙虚。不意打ちには弱い。
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