挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.6~

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

165/338

6月8日曇り 『魔導騎士1名』

「新しいの、入ったぞー」
「かかか、カールラ~! へへへ、ひっしぶり~」

 店には、酒瓶を片手にふらふらと千鳥足を見せる女が立っていて、焦点の合わない目がこちらを見ている。
 正直、誰だか分からないのだが、酔っぱらいの前で否定するのは面倒くさそうだ。

「カルラさん、この方はどなたですか?」
「知らん。たぶん詐欺師だ、気を付けろ」
「またカルラはぁぉぁ……!」

 予想通り、女は目立つ位置で膝をつき、大粒の涙を……いや、ヨダレを垂らしながら泣き崩れた。汚いから帰ってくれないかな。
 そんなことを思っていると、女は立ち上がる。

「アタシゃあなー、十二騎士団魔法部隊ちょーのぉ、くれぉあ・かううてぉあー……!」
「いや、なんて言った? まともに喋れ、この酔っぱらいがっ!」

 何も話しそうにない女に、カルラがそう言うと、シュラは何かを思い出したようすで口を開いた。

「たぶん、十二騎士団のクレオラ・カルステトさんでは無いでしょうか。文献で見たことがあります」

 聞かない名前だ。そもそも、前線に出て戦う兵士と、サポートする魔導師では管轄が違うのだから、話す機会も少なかったはずだ。

「クレオ……だったか? お前、何の用だ?」
「用が無くちゃ、来たらダメなの~!?」
「気持ち悪ぃな! お前は俺の恋人かっ!」
「うん!」

 クレオは満面の笑みで頷いた。しばらく、静な時間が流れ、そして次に声を出したのはシュラだった。

「ふざけないで下さいっ! 何故、カルラさんに恋人がいるのですかっ!」
「いや、居ても良いよね? 俺は悪くないよね?」

 確かに、甲斐性は無いし、趣味が仕事だし、友達は変な奴ばかりだけど、恋人を作ることくらい……許されるか?

 まあ、それはともかくとして、クレオという人物を、というよりは、恋人を作った記憶がない。酒の勢いでも、普段からあまり酔わないから、告白なんてするはずがない。

「なあ、勘違いじゃねーか? 俺はお前に告白なんかしてない」
「嘘だ! ちゃんと『好き』って言ったもん! 酒場で!」

 酒場で告白をするとは、なんて愚かな。
 そういうのは景色の良い場所で夕日を見ながらやるもんだ。だって、そこまで行ったら断る奴いないから。

 しかし、酒場……。王都での話というと、一度だけ、酔っぱらいに絡まれたことがある。確か、そのときーー。

「あっ」
「何か思い出されましたか?」
「いや、まあ……」

 歯切れ悪く、曖昧な返事をしてから、カルラは昔のことを語りだす。

「あのな、俺は昔、酔っぱらいの女を介抱したことがあったんだ」
「カルラさんなのに?」
「カルラさんでも、だ。俺だって人に優しく出来るんだ」

 不安げなシュラに、カルラは言う。信用が無いのはいつものことだ。

「それで、そのときの女が酷くてな、俺のことを見間違えるんだ。【スキ】と」
「……え、では、もしかして」
「もしかしなくても、『それは俺じゃねぇ、鋤だ』を勘違いしてるんだろ?」

 酔っぱらいの妄想女が、吐きながら聞いた言葉なんて、大体そんなものだ。
 横に立っていたクレオは、わなわなと震えだし、膝をついた。

「勘違い……三十路……独り身」

 青ざめた様子で、そんな言葉を繰り返すクレオ。
 昼間から酒を扇いでいれば、恋人が出来ないのも頷ける。しかし、どこか可哀想になって、カルラは言った。

「諦めんな。テメェの魅力くらい、テメェで自信を持ちやがれ」
「カルラ……」

 そっと頭を撫でてやると、クレオは酒のせいか頬を染めていた。
 外見も悪くないし、胸も大きいのだから、酒さえ飲んでいなければ、引く手あまたの女なのだろう。
 カルラは小さく笑う。

「大体、騎士の癖に隙だらけなんだよ」
「あ、カルラさん」
「ん? あぁっ!?」

 カルラの手の下にある顔は、幸せそうに笑っていた。

「"スキ"だらけ! やっぱりアタシのことが好きなんだぁ! ダーリィィィイン」
「やめろっ! ……臭い! テメェ、吐きやがったな!」

 抱きつくクレオを引きはがそうと、それから三時間ほど格闘しました。
クレオ・カルステト(28)
特技……広域攻撃魔法
備考……十二騎士団魔法部隊長をしている、魔法使い。かなり優秀ではあるのだが、酒癖が悪く、妄想癖があるため、あまり評判は良くない。飲む酒によって、泣いたり怒ったり笑ったり甘えたりする。一粒で何度も美味しいね!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ