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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.5~

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5月14日雨 『黄泉にて』

「新しいヒトが、参りましたよー」

気がつくとどこか見知らぬ、霧と薄暗がりが覆う、湖とも河とも海ともつかない、どこかの畔に居て、白くて丸みを帯びた石が敷き詰められた場所にカルラは立っていた。
【よみのくに】と書かれた看板の横で、何故か呼び掛けをする人物にカルラは尋ねる。

「おいシュラ、ここはどこだ?」

弟子のシュラが、少なくともシュラの顔の人物は、いつもの愛想のいい笑顔で答えた。

「ここは、死の縁という場所ですよ。昨日、酔ったニコさんに襲われてから、カルラさんはここに来たのです」
「そうか。……思い出そうと、すると頭が痛くなるな」
「いえ、それは忘れておいた方が良いですよ?」

何か強烈に嫌なことであることは間違いないからな。その代わりに、何か気がついたカルラは、ふとシュラを見る。

「ん、そういや、何でシュラがここに居る? まさか、お前もやられたのか?」

その質問に、シュラは小さくかぶりを振る。

「いいえ。ここに居る私は、カルラさんの幻覚なので、私は大丈夫なはずですよ。……たぶん」

つまり、ここはあくまでも夢の中ということか。幻覚だから正確には分からないのだろう。
それを認識してから、改めてシュラを眺める。ゴミ袋のような黒い布をかぶり、手には小さな鎌を持っている。

「ともかく、ここが幻覚なら、その座敷わらしの格好も俺のせいか」
「カルラさん、これは死神です! ほら、鎌もありますから! こんな座敷わらし知りませんから!」
「いや、鎌、小さすぎんだろ! 草刈りでもする気か?」
「カルラさんの幻覚で、私に言われましても……」

確かにその通りではあるのだが、だからといって全て自分が悪いみたいに言われると困る。まあ、シュラに大鎌は似合わないから、代替措置として持たせたのだろうけど。

「で、俺は死んだらしいが、どうすればいいんだ? もしかして、ここから出られないのか?」
「大丈夫ですよ。しばらく待っていればかえれますから」
「そうか分かった。迎えが来たら起こしてくれ」

地べたに寝そべり、だらりと時間が過ぎるのを待つカルラに、シュラは呆れた様子で唇を動かす。

「カルラさん、自分の幻覚を信用し過ぎですよね? そこは、もっと焦る部分なのではないですか?」
「何も分からねぇのに、取り乱しても仕方ねぇだろ」
「何も分からないから、取り乱すのですが?」

そんなものか?
そんな会話をしているとシュラが、湖とも河とも海とも判別出来ない水の方を指差す。

「あ、お迎えが来ましたよ」
「ほう、どんな乗り物で来てくれたんだ? ……って、ん?」

霧の影からうっすらと覗かせる何かは、明らかに朽ち果てていて、乗組員は全員、死人のような形相で作業をしている。

「蟹工船、二百年分の乗船件です」
「地獄行きじゃあねぇかっ!?」
「天国に行けると思っていたのですか? しっかり、還ってくださいね」

天使のような笑顔で、悪魔のようにシュラは言った。いや、今は死神だったか。
蟹工船から見知った顔がこちらを呼んでいる。
ふざけんな誰が乗るか、そんな言葉はもう口から出ない。口の中からは、ズブズブと大量の沢蟹が涌き出ていて、鋏が削れる音が頭の奥で響いていた。

異様な現象に、カルラは叫んだ。

「うわぁぁぁあっ、蟹ヤベェっ!」
「あ、おはようございます。カルラさん」

リビングで寝かされていたカルラは、ようやく起床した。周囲を見回すと、料理を作るシュラが居て、傍らにはニコが座っていた。
ニコは、スンスンと鼻を鳴らしながら、カルラの胸のあたりに顔を近づける。

「カルラ、汗酷い。臭い」
「……お前のせいだからな?」

ニコの顔にアイアンクローを決めながら、シュラの方を見ると、沢蟹の料理を作っているらしく、鍋から爪を覗かせている。

違和感を感じて口を開くと、床に蟹が転がった。
シュラ(死神ver.)
特技……家事
備考……カルラの夢の中に出てきたシュラで、設定上は死神なのだが、どうみても仮装にしか見えない。大鎌を持たせようとしたら、身長が足りなすぎた。

霊界の蟹工船
……現世で人に迷惑をかけた人間たちが乗り合わせる船で、その度合いによって乗船時間が異なる。
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