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カジヤノキヤクビト 作者:No.

工房日誌 2017.1~

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1月8日晴れ 『旅人1匹』

「新しいの、入ったぞー」
「ほう……。見せて頂こうか」

通りがかった和装に身を包み、腰にエモノを刺した、尋常ではない剣士らしき男が立ち止まってそう言った。
立ち振舞いは毅然としていて、見るからに誰かに遣えていて当然というような、教育された礼法を備えている。
しかし、尋常でない部分はそんなことではなく、もっと根本的な部分であり、というよりはどちらかというと、常識的な部分であった。

「ああ、自己紹介が遅れた。某は、ミタマ・オオトラと申す」

向けられた好感の持てる笑みは人間のものではなく、突き出た口と尖った耳、それらを覆うように毛を生やす犬の顔だった。

「犬人族の方ですね。初めまして、シュラと言います!」

シュラは工房から顔を出すと、興味ありげに目を輝かせた。カルラは見慣れない存在に眉をひそめ、近寄ってきたシュラの小さな声で尋ねた。

「あれ、犬だよな。なんで、二足歩行しているんだ? もしかして、最近の犬はあんなことも出来るのか? こえーよ、犬に負けそうだよ。品性ありすぎるだろ……」

取り乱すカルラに、シュラは口尖らせて注意する。

「カルラさん、失礼ですよ。犬人族は遠い東の国に住む種族で、忠義を重んじる優しい方々ですよ」
「いや、構わん。そのような態度には、もう慣れている。この土地では、亜人の姿を見かけないからな。驚くのも無理はない」

……なにこのイケメン。
カルラは人知れず敗北感に打ちのめされていると、ミタマは商品を見定めている。

「どれも良い品だ」
「カルラさんは、素晴らしい名工なのです。そして、これが本日作られた品物ですよ」
「これは……どういった物だ?」

渡された円柱状の入れ物を手に取り、大きな黒目を丸くしている。ちらちらと向けられるシュラの視線に気付き、カルラは口を開いた。

「そりゃ水筒だ」
「水筒? しかし、重くて、懐に入らない。これでは使い勝手が悪いのではないか?」
「もう少し改良する予定だが、それは三重構造になってんだ。表層は鉄、次に風魔合金、空洞を挟んで鋼の入れ物を備えている。空洞部分を真空にして、温度の放出を抑えている」
「要するに熱を通さず、逃がさず、ということか?」
「そうだな。中に今朝沸騰させた湯を入れてある。貸してみろ」

ミタマの手から容器を取ると、蓋を回して開け、ミタマに返す。湯気の出る熱い液体を見て、頭の上の耳がピンと立つ。

「これは凄い。長い旅路には持って来いの品だ。頂こう」
「毎度あり」

出された金を受け取り、シュラに渡した。金庫に金を仕舞い終わるまでの間、カルラはミタマに疑問を投げ掛ける。

「お前は、何のために旅をしているんだ? 散歩にしたら、距離があり過ぎんだろ」
「……某は主と呼べる者を探して、旅をしている。自国では見つけられなかったため、海を渡り、山を越え、そして、貴殿らに会ったのだ」

一瞬、遠い目をしてから、カルラを見据える。

「カルラ殿も、来るか? 離れた土地に行けば、きっと貴殿の作品は広まるぞ」

そう言われて、国を巡り、あらゆる文化の道具を見て、気ままに鉄を打つ自分の菅を想像する。しかし、見慣れた町の風景が視界に入り、カルラは首を横に振った。

「いいや、俺にはここがお似合いさ。当分、離れる気はねぇ」
「それは残念。貴殿の道具があれば、旅も愉快になると思ったのだがな」

可笑しそうに言う声が、次には落ち着いて語りかける。

「思い残したことでも?」
「そんなんじゃねぇよ。……ただ、まだ何も残せてないだけだ」

帳簿を閉じて、笑顔で近寄ってくるシュラを眺めながら、カルラは囁くような小さな声でそう言った。
ミタマは目を細め、小さく笑う。

「シュラ殿、随分と愛されておりますな」
「ふぇっ!? えぇっ!?」

戸惑い、すぐ横でバタバタと手を振っている。

目の前の世界でも手を焼いているうちは、旅なんて出来ないだろうな。

午後の風が、まだ冷え冷えと身を殴る。
ミタマ・オオトラ(35)
好きな食べ物……ココア
備考……ここいらで、何でも切れる悪党がいるらしい。手合わせ願いたいものだ
+注意+
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