いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?
わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前はスウィートマイホームでございます。
ごゆっくりどうぞ。
俺はドアを開けた。
こちらです。
販売員は中へ入るように促す。
素敵。
家族の色めき立った声が後ろから聞こえた。
それもそのはずだ。
中はいきなり広い玄関ホール。しかも高い吹き抜け。
ゆるい螺旋の階段が二階の突きだした踊り場に向かって左右から柔らかく登っていた。
土間続きの靴用の納戸が直ぐ横にある。
かなりの広さだった。
自転車の二、三台は余裕で入りそうな奥行。その土間も大理石で貼られていて、高級感は抜群だった。
家の床に貼られているのはチークだろうか。
いい色合いだ。
俺たちは中に入った。子供達二人は、走りながら二階に行った。
俺と妻はリビングのドアを開けた。
明るい陽射しが入るリビングは、ダイニングと仕切りがなく、キッチンもカウンター付きの対面式。
エアコンや照明、テレビまでが今流行りのボイススイッチとリモコン。
そして空間が何より広く思えるのは、リビングから直接出れる義木で出来たウッドデッキだった。
妻は子供の様にはしゃぎ、キッチンのいたるところの収納を開けまくった。
子供があまりにうるさいので俺は二階に上がった。二階は三部屋あり、真ん中の部屋は大きく、十畳は楽にある広さで天窓と屋根裏収納があった。
俺はここを子供部屋にしてベッドや、本棚、机などで仕切りを作ってやろうと考えた。
そして左隣は俺たちの寝室と、奥に納戸がある。
二人で使うには十分だ。書斎も作れそうだった。
ちょっと見てという妻の声に、皆は下へ降りた。
リビングの反対側にはサニタリーと、浴室があった。
トイレ、洗面台、収納、ランドリーがコンパクトにまとまっていた。
浴室はこれもまた義木だが、桧の香りがする温泉風のレトロ調のものだった。
子供達は、湯が張ってない湯船に入りはしゃいだ。
二人が足を伸ばしてもまだ余る広さだ。
もちろんフルオートで、排水は洗濯用とトイレのタンクに使えるようになっている。
なかなか素晴らしい。
そして目玉だ。
販売員は家族全員を二階の左の部屋に招いた。
こちらが操縦席のお部屋です。
当社自慢のオプションです。
以前のタイプですと、ホバーリングタイプだったせいで、垂直移動だけでしたので、お客様の用途としてみれば、たまには夜景を見ながらくつろぐといった場合に、三十階の高さまで上がってみたり、雨の日も洗濯物を干したいという時に、雲の上まで上がったりと、その程度でした。
しかし、この度の新商品は横移動も自由自在。
しかもセンサー付きですと、接触事故を自動で回避できます。
また、べつオプションで、水面着地キットや、もしもの為のバッテリー追加なども充実しております。
俺は気にしていたバッテリーの性能を聞くと販売員は、
もちろん百年保証の太陽光対応式、充電池です。今流行りの生ゴミや、汚物などからも電気を作り出せるエコエレ装置も付いてます。
俺は関心した。
販売員は得意気に、家で少し出掛けてみましょうと、操縦席に腰掛けた。
俺たち家族は空いている席に着いた。
やがて、家は静かに浮き上がり、十階程度の高さになると、横に水平移動を始めた。
皆は歓声をあげた。
販売員は、
あまり大きな声では言えませんが、今ならまだ規制が厳しくないので飛びたい放題で、すでに買われたお客様は、家のままでオーロラ観測に行かれたと聞きました。お客様も是非今の内に。
販売員はそう言いながら、慣れた手付きで旋回を始めた。
それほど揺れはなく、皆は凄いを連呼しまくった。
着陸はある程度の位置まで来ると青いランプが付き、そこで点滅している黄色のボタンを押すと自動で行われた。
俺たちは感動し、興奮した。
妻は俺に契約を促し、迷わず俺はサインした。
今の時代は少子化の結果、五十年前より人口が激減し、集合住宅などはほとんどなくなった。
土地も安くなり、一昔前なら家を買うとは一生を賭けた買い物だったが、今はそれほどではなかった。
しかし、家もピンからキリで、地下に三階立ての秘密部屋があったり、ボタン一つで部屋数や、レイアウトが変えられるもの。
他にも様々なオプションを各業者が競い合い、家というものはかなりの進化?を遂げた。
そして今の一番の流行りが空を飛べる家だった。
唱い文句は、
支度なしで何処でも自在、だ。
面倒くさがり屋の我家族には持ってこいのオプションだった。
一応ある、運転資格も取って、いよいよ俺たち家族は空飛ぶ新居へと移ったのだった。
しばらくは引越しの整理に追われて忙しかったが、入居三ヶ月後の連休を使って、我が家もいよいよ家で旅行に行くこととなった。
家族会議の結果、行き先は海になった。
俺は良さそうな海岸を選び、着陸できる場所を検索し、プランを練った。
妻は出発の朝、早起きして弁当を作っていた。
俺も一応、身だしなみを整えて、操縦席に着いた。
操作は至って簡単だが、俺は念のため取扱説明書を読んだ。
そして、最終項の脱出の手引きを緊張して目を走らせた。
子供達が興奮して操縦室に来た時には家は、飛び立ってから少し時間が経っていた。
俺は妻が作ってくれたと、子供達が持って来てくれたサンドイッチを片手で持ちながら操縦を続けた。
空は快晴で、たまに鳥の群れとすれ違いながら、俺たちは海へ向かった。
妻と子供達は眼下に広がる景色を堪能していた。
海に着くと、俺は適当な場所に家を着陸させた。
子供達は水遊びをしに勢いよく出ていった。
俺はウッドデッキで妻とコーヒーを楽しみ、程無くして昼食となった。
弁当を食べていると、下の子がキャンプをやりたいと言うので少し家を浜辺に移動し、薪を皆で集めて準備をした。
家がテント変わりで便利だったが、子供達は少し不満気だった。
夕陽をバックに記念撮影をし、夕食はバーベキュー。そしてお待ちかねのキャンプファイヤー。 最後に花火をやってその日は終わった。
朝起きると、波の音が心地よく、気持ちいい揺れが。
揺れ?
俺が外を見ると家は海の上だった。
続いて出てきた子供達と妻はうわぁーと楽し気だった。
俺は一応付けた水上キットのオプションに感謝した。
きっと潮の関係で沖まで流されたのだろう。
俺はナビで現在位置を探したが、なかなか結果は出なかった。
そのうち前に島が見えてきた。
家は一回水に浮くと、乾くまで空を飛べない。
帰る方向を知るなら、上に飛んでみた方がいいと、その島に上陸して家を乾かすこととなった。
子供達は島に着くと、また勢いよく飛び出したので、少し待つように言った。
心配そうな俺に妻は朝食をとりあえず執るように言った。
俺はそうすることにしてコーヒーに口をつけた。
朝食を済ませた後、子供達が遊びたいとダダを粉ねはじめたので、妻は一緒に散歩にでたが、驚くものと一緒に戻ってきた。
それは犬くらいの像だった。なんでか着いてきたといい、パンのみみをやっていた。
多分、この頃流行りのミニアニマルだろう。捨て像といったところか。
子供達は、他にもいないかと探して、キリンやサイ、トラやライオンまで連れてきた。
俺は飼えないから放すように言ったが、妻も子供達も言うことを聞かなかった。
とりあえず家は乾き、飛べるようになった。
俺は操縦席に着き、出発しようとした。
その時、地面が大きく揺れた。
地震だった。
俺は家族に皆いるか確認した。
どうやら大丈夫みたいだ。
俺は急いで家を飛ばしたが、地上からの振動波のせいか、なかなかうまく家は飛ばなかった。
そしてある程度の高さまで上がると危険ランプが重量オーバーだと表示しているのに気付き、運転を自動にして下の様子を見るとなんと、玄関はミニアニマルでゴッタ返していた。
俺は家族を叱ろうと思った瞬間、家は急降下し始めた。
家族の悲鳴が聞こえた。
見ろ。
山岳考古学チームは凄いものを山頂で見つけ出した。
あれが、伝説の箱船かっ。
そこにはボロボロの家が横たわっていたのだった。
おしまい。
いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。 |