出会い
胡太郎の言っていた転校生はいきなり今日やって来た。
「えー、皆ももう知っているように、今日からこのクラスに転入になる生徒だ」
先生の隣に、俯いて所在なげな女の子が立っていた。
大きめの黒ぶち眼鏡をかけた、肩くらいの黒髪の女の子。
俯いているからか?クラスの女子達よりもやや小柄に見える。
おとなしく、地味な感じを受けた女の子だった。
「『霧沢美裕』です」
声も容姿に似つかわしく儚げだ。声は小さくて、かすかに一番後ろの席にいる俺のところにまで聞こえるくらいだった。
「えー、こんな時期だけど、皆、仲良くやるように」
女の子ということで期待していた男どもがいたようだが、そいつらを見てみると、当てが外れた、みたいな表情をしていた。興味をなくしたようだ。
俺から見ると、そんなに悪くはないと思うけどな。
「一番後ろの窓際の席が君の席だ」
「はい」
一番後ろの窓際?って、俺の左隣じゃないか。空席だったけど、なんてお決まりな設定なんだ。
あ、そうか。やっとわかった。きっと胡太郎のことだ。ここまで知っていたのかもしれない。だからあえて俺にあんな話をしたのだろう。
俺の席から右に桂馬に飛んだ位置にいる胡太郎を見てみると、俺に向かってぴっと親指を立て、真面目そうな顔をして俺に、『そうだ』と言うように頷いていた。
やっぱりか。
俺の隣では、俯いて肩を落としながらさっきの女の子が席につく。この女の子の名前は確か、霧沢さんと言ったな。
席についた霧沢さんを見ていると、霧沢さんのさらさらした黒髪が窓の光に溶けてきらきらと輝いていた。光に溶けてもその色は薄まる事がないほど漆黒だ。こういうのを緑の黒髪というのか?クラスの他の女子達は髪を染めていたりしている子が多いので、これほどの黒髪を見るのは新鮮だった。
リサの髪は、実際だとこんな感じなのかもしれない。霧沢さんの瞳は緑ではなく、髪と同じ漆黒だったけど。
ああ、でも、綺麗な髪だな……。
「あー、それでは授業を始める……」
先生の眠くなりそうな声を聴いて、我に返った。
霧沢さんの髪に、女の子に見惚れていたなんて……。胡太郎をばかに出来ないな。
俺は少しだけばつが悪いような気持ちになって、あたまをかきながら授業に集中しようと正面を向いた。
「あっ……」
ふと、俺の隣から、俺にかすかにとどくような声が聞こえてきた。
女の子の声だ。
俺の隣の女の子は霧沢さんしかいない。
左を向き、霧沢さんの方を見ると、心配げに俺を見ていた。軽く握った左手を胸のあたりにおいて。
「どうしたの?」
彼女の表情を読み取った俺は、教壇にいる先生に聞こえないような小さな声で霧沢さんに言ってみた。
「あの……」
霧沢さんが俺の足元に視線を落とす。
俺もつられて見ると、俺の足元に、消しゴムが転がってきていた。
「ああ、これか」
ひょいと消しゴムを拾い、霧沢さんに手渡す。
「はい」
「あ、ありがとうございます……」
ほんのちょっとだけ、霧沢さんは笑顔を見せた。
「ああ、俺、『森村大樹』。隣の席だから、よろしく。これも何かの縁だと思うし、困ったことがあったら何でも言ってくれ」
どうしてなのかわからない。でも、自然にそんな言葉がでていた。
「もりむら、たいき……?」
ふと、俺の顔を見てびっくりしたような顔になる。
「え?どうしたの?」
「あ、はい、なんでもないです。ありがとうございます」
「あ、うん……」
でもそれも一瞬だった。かすかにお辞儀をするような格好で、俺に笑顔を向けてくれた。気のせいだったか。
「……」
窓の光に煙る霧沢さんの笑顔に、俺はしばし惚けてしまった。霧沢さんは、こんないい笑顔も持っているんだな。
俺は自分でもよくわからないこの慣れない感情に、当惑していた。
――――――
「よ、大樹」
「……胡太郎、なんだよ」
授業が終り、休み時間が始まるや否や、胡太郎が俺の席に来て話し掛けてきた。
ニヤニヤしていて、さも何かたくらんでいるという表情だ。
胡太郎は一瞬霧沢さんを見て、俺を見る。
「どうだ、あの子」
「胡太郎、声が大きいぞ。彼女に聞こえるぞ」
俺も胡太郎につられて霧沢さんを見たが、俺たちの会話は聞こえていないようで、霧沢さんはずっと右手で頬杖をつきながら窓の外を見ていた。
「さっきまでちょっと調べたんだけどさ。あの子のことは、他の男達はあまり興味がなさそうだぞ」
「さっきって、霧沢さんが来たのはついさっきじゃないか」
「ふふん。俺の情報網は早いのだよ、森村君」
「ああ、そうかい」
まあ、さっきの皆の表情を見ればそれくらいの事はわかる。
「皆は、突然の転校生ということで気にはなっているのだけどな。このクラスには桜井さんや佐山さんを始め、芸能人、モデルレベルのかわいい女の子が多いだろ? だからあえて無理をして新しい所を攻めるよりも近いところをまず攻めておきたいというのがやつらの見解だ」
「そうなのか?」
「ああ。それに彼女のファーストインパクトがそれほどじゃなかったからってところもある。とりあえずは様子見ってところか。よかったな」
俺の肩を叩きながら喜んでいる。
「何がよかったんだよ」
「だから、あの子はお前」
「なんでそんな話になるんだよ」
「さっき、なんかいい雰囲気だったじゃないか」
「いい雰囲気?」
「ちゃんとチャンスを生かす術を心得ているじゃないか。そのチャンスを上手く生かしたから、彼女がお前に笑顔をむけたんじゃないのかよ」
……さっきの霧沢さんとの消しゴムのやり取りは胡太郎に見られていたんだ。まったく。胡太郎のやつそれをネタに俺をからかっているんだな。
「あんなこと、だれでもするだろ?」
「まあ、そうだけどな。転入早々不安な時に優しくされるっていうのがポイントなんだよ森村君。キミのそうしたささいな態度から彼女の心のベクトルをキミ向けさせるという方法がね。いや、それにしても、今回のは見事だった。さりげなくそのチャンスを生かし、あまつさえこれから話し掛けるきっかけを作った。こんなに抜かりないなんてさすがだな。お前がこんなに手の早いヤツだったとは知らなかったよ。いや、我が弟子ながらあっぱれ」
「……俺が話していたことまで、聞いていたのか?」
「もちろんだとも、親友」
あの位置から俺たちのあの声を聞き取るとは……。胡太郎って、なんてすごいやつだ。
「その調子で、彼女のハートをゲットだな」
俺に向かって親指を立てた右手を突き出した。
ああ、もうこうなっては胡太郎に何を言っても無駄だろう。
でも、まあ、霧沢さんの髪すごく綺麗だし。特に窓から漏れる光に溶けて輝く彼女の黒髪は絵になる。霧沢さんを描いてみたい……なんて思ってしまったことは確かだ。
「そうだな……。ハートはともかく、霧沢さんには興味があることは確かだけどな。正直な所」
ぽつりと、霧沢さんに聞こえないように胡太郎にそう言った。
「おおっ!大樹の口からそんな言葉が出てくるなんて……。本気だったんだなっ!ああっ、俺はうれしいぞっ!」
いきなりわめきだす胡太郎。
「なんだよ、それ」
「よかったよかった。うん。大樹も普通の男だったんだなってわかってさ」
ばしばしと俺の肩を叩く。
「いや、俺はそういう意味じゃなくてだな……」
「いや、それはそういう意味だよ森村君。いや、ほんとうによかった。これで小生は不詳の弟子にレッスンをする必要がなくなったというわけだ。いや、めでたい。これで森村君は卒業だ。これからは今まで教えてきた小生の教育を糧にがんばるのだぞ」
「ちょ、胡太郎」
「それじゃ、またな、親友」
授業が始まるチャイムが鳴ると同時に、俺に手を振りながら胡太郎は自分の席へと戻っていく。
まったく、俺の話を聞こうともしない。
結局の所、俺が霧沢さんに興味を抱いても、決めるのは彼女なわけで、俺から何かできるということじゃないと思うのだが。
俺はただ、霧沢さんの髪をモデルとして、これからリサのような絵を描きたいと思っただけなんだ。まあ、霧沢さんをモデルとして連れて来て描くというわけじゃなく、見たことを想像で描くつもりなんだけど。
でも、霧沢さんに対しては少しだけ妙な感覚が残っている。何か大事な事を忘れているような、やらなければならないことを忘れているような……。
なんだろう、この感覚は。霧沢さんに関係があることなのだろうか。
まあいいや、そんなに気にすることでもないだろう。
「………」
霧沢さんの方を見ると、ずっと窓の外を見つめたままで、彼女の表情を伺う事はできなかった。
――――――
その日の昼休み。
胡太郎は俺に、霧沢さんとうまくやれよ、との捨て台詞を残して、そそくさと昨日言っていたC組の女の子と一緒にどこかに消えてしまった。
まあ、胡太郎はいつもの事だが、さて、俺はどうしよう。
隣を見ると俯いて所在なげな霧沢さんがさっきの授業で使った教科書やノート等をかばんにしまっている。
霧沢さんはこの学校に来るのは初めてだから、お昼をはじめ、色んなことをどうしたらよいのかわからないと思う。
誰か同じクラスの女子とかが誘ってくれればいいと思っていたのだが、どうやら教室に残っているのはカップルとか決まった友人達などのグループだけだ。既に弁当やら購買品やらおもいおもいの昼食を取っている。皆霧沢さんには興味を示さず、誰も話し掛けようともしてない。ここまで露骨とはさすがに面食らう。
まったく……。薄情なやつらばかりだな。しかたがない。さっき困ったことは俺に言ってくれと言った手前、何にもしないと言うのもちょっとだけはばかりがある。
でも女の子と話すのはちょっと恥ずかしい気もある。
ま、いいか。人助けだと思えば。
少しだけ躊躇した後、俺は霧沢さんに話し掛けた。
「あの、霧沢さん」
「あ、はい。あ、森村君」
霧沢さんは俺の方を見る。視線が俺のとぶつかる。その眼鏡越しの瞳に俺はちょっとどきっとした。
「あ、あの、霧沢さんさ、お昼とかどうするの?」
「お昼?」
「ああ。霧沢さん、この学校初めてだろ?だからさ、色々教えてあげようと思って」
「えっ?」
「霧沢さん、お弁当とか持って来た?」
「ううん……、何も」
「それじゃ、何か買ったりしないといけないか」
「うん……」
俯いて寂しげだった。どうしようと思っていたのだろう。
「それじゃ、いっしょに行かない?学食とか購買とかを教えるよ」
「いいの?」
「俺のことか?見ての通り俺だけあぶれているから、気にしなくてもいいよ。霧沢さんは転校初日なんだし、色々教えてあげるよ」
なんだか胡太郎みたいなことを言っているな、俺。
「そうね……。それじゃ、お願いしようかな……」
ちょっとだけ俯いて考えた後、そう言った。
なんだか少し嬉しかった。
「よし、それじゃ、手っ取り早いところで学食に行こう」
「はい」
最初ちょっとドキドキしたけど、女の子と話すことって、こんなに簡単なことだったんだな。色々考えて損をした気分だ。
学食に行くと、かなりの生徒でごった返していた。
「うわ、やっぱり遅かったからだめだったか」
「たくさんいるのね……」
空いている席を探そうと机を見渡したがさすがに全て埋まっているようだ。
「まいったな、学食は無理か」
「空いている席……ないみたい」
霧沢さんも辺りを見回して空いている机を探していたようだ。
「仕方がない。購買にしようか」
「そうですね……」
俺たちが学食をあきらめて購買に向かおうとしたそのとき。
「おっ。そこにおわすは我が親友ではありませんか」
この声は。
「胡太郎。こんなところにいたのか」
目の前の席に胡太郎が座っていた。
「おおっ。大樹君、抜かりなく彼女を誘っているじゃないか。うんうん。さすがに俺が見込んだ男だ」
「なんだよそれ」
「森村君?」
「あ、ああ、こいつは吾妻胡太郎っていって、俺の友人なんだ。同じクラスメイトだよ」
「クラスメイト?」
「ご紹介にあずかり光栄。私は吾妻胡太郎。この森村大樹君の友人をやらせていていただいております。よろしく、霧沢さん」
「は、はい……」
胡太郎は立ち上がって大仰に恭しく霧沢さんに挨拶をする。霧沢さんはいきなりそんな行動に出る胡太郎に当惑しているようだ。この普通とはかなり違う胡太郎だ。無理もない。
「で、大樹は霧沢さんと学食に食べに来た、と言うわけだな」
「他にここに来る理由なんかないじゃないか」
「くっくっく。そう照れるなよ。それにしてもちょうどよかったぞ。俺たちは今飯を食い終わった所なんだ。な」
「ええ……」
胡太郎が視線を向けた先の席にはさっき胡太郎と出て行った隣のクラスの女の子がいた。
胡太郎はいつものことだが、この女の子には迷惑じゃないのだろうか。その子は何事が起こったのかと不安げな表情をしている。
「というわけで、森村君達にこの席を譲ろうと思う」
「えっ?いいのか、胡太郎」
「いいのですか?」
「もちろんだとも。もう飯は食い終わったし、俺たちはこれから用事があるのでなナ。そうと決まれば、善は急げだ。というわけですまないな、俺の親友なんだ」
「もう、仕方が無いわね」
胡太郎と同席していた女の子も胡太郎の事をよく知っているようだった。胡太郎の行動から話をあわせていた。少し安心する。
「それじゃ、森村君。上手くやるんだぞ」
「何を上手くやるんだよ。でも、サンキューな、胡太郎」
「ありがとうございます」
「ああ、いいって。それじゃ、ごゆっくり」
胡太郎はいっしょにいた女の子とともに学食を出て行った。
俺たちは胡太郎に感謝しつつ、席についた。
「よし、それじゃ俺が何か買ってくるよ。霧沢さんはどういうものが食べたい?」
「うん。わたしは何があるかよくわからないから、森村君に任せる」
「苦手なものとかない?」
「うーん、大丈夫」
ちょっと人差し指を唇に当てて考える仕草をした後、そう言った。
「よし、それじゃ、他の人に座られないようにここで待っていてね」
「あ、うん。森村君、ありがと」
「いやいや」
なんだかコロコロと表情が変化して、最初に見たような暗くておとなしいイメージの霧沢さんとは違い、明るい印象を受けた。
もしかしたら霧沢さんは、元々はこういう明るい性格の女の子なのかもしれない。最初から霧沢さんがこうだったらきっと他の男子生徒がほうっておくはずがないだろうに。そのくらい霧沢さんがかわいく見えた。そんな霧沢さんと俺がいっしょにいられるなんて、なんだか嬉しいような恥ずかしいような不思議な気分だ。
とりあえず、俺は日替わりランチを持って来た。
一人で生活している俺は弁当を作って持ってくるなんて事はないし、購買は面倒なのでほとんど毎日ここを利用している。おかげでここの全てのメニューを食べてしまったものだから、すっかり飽きてしまって、こういう日替わりのような毎日違った献立のものを食べるようになっていた。
「お待たせ」
「あ、ありがとう、森村君」
「あそこの厨房の隣にある自販機で食券を買って、厨房のおばちゃんに渡せば出してくれるから簡単だよ。こうして席を取るのが一番の問題だけど」
「ふーん……」
「いろいろメニューがあるけれどオススメはこの日替わりランチかな。こんなにあっても結構安いし」
「なるほどね」
今日の日替わりランチはチキンカツ定食。メインのチキンカツに味噌汁とお新香、ご飯とサラダがつく。これで350円なのだ。
「森村君はここを良く使うの?」
「ああ。ほとんど毎日かな」
「そうなんだ」
「弁当は作ってくれる人がいないから持って来られないし、購買って結構面倒なんだよな。並んでも食べたいのが売り切れにすぐなってしまうしさ。それに購買で買ったものを教室で食べるにしても、教室じゃあんな感じだから居心地が悪くて」
教室はカップルばかりで、目のやりどころに困る。
「くすっ。本当にそうね。わたしもお昼のときどうしようかって思っちゃった。この学校ってみんなこんな感じなの?」
「そうなんだよ……。俺は結構さっきの胡太郎とよくお昼を食べるのだけど、あいつはあいつであんなふうにたいそうもてているみたいだから、よくこうして俺一人であぶれる事がある。一人身としてはつらいな」
「そうなの?森村君って優しいし、もてると思うんだけど。彼女とかいないの?」
「そ、そんなことはないよ。大体、こうして女の子と話すことだって稀な事だし。なんていうか、女の子と話そうとしても恥ずかしくてなかなか話し掛けられないんだし」
「本当に?わたしにはこうして話し掛けているのに?」
「えっ。あ、なんていうか、霧沢さんこの学校初めてだったし、霧沢さん一人でいたから、なんとかしてあげたいなって思ったらそんなことどうでもよくなっちゃって」
「くすっ」
「えっ?」
「あ、ごめんなさい。森村君、面白いひとなんだなって思って」
「そ、そうかな……」
「うん、そういう人、わたし好きだよ」
「そ、そう?ありがとう」
霧沢さんはにこにことしながら言う。どういう意図でそう言っているのだろう。変なことを想像して意識してしまうじゃないか。女の子ってみんなこんな感じなのだろうか。
ああ、もう、何を考えているんだ、俺は。
俺はとりあえず目の前のランチセットを片付ける事にした。
霧沢さんもランチセットに箸をのばしていた。
「うん、このランチセット美味しいね」
「気に入ってくれると進めた甲斐があって嬉しいよ。俺が作ったわけじゃないけど」
「くすっ。もう、森村君、食べてる時に笑わせないで」
「そういえば霧沢さんってさ、本当は結構明るい人なんだね」
「えっ?明るい?」
「さっき初めて見たときはおとなしい女の子なのかな、なんて思ったんだけど、こうして色々話をしてくれるから」
「うん、でもあの時はこの学校に初めてですこし緊張していたからかな」
「ああ、なるほど」
「それにね。わたし、昔からこうして転校する事が多くて、友達が出来てもすぐに別れてしまうから、最初から積極的にみんなと溶け込もう、なんて思わないようになっちゃったの。そのせいかもしれないね」
「それじゃ、また転校してしまうことってあるの?」
「ううん……。今度はずっとここにいると思うよ」
「本当に?」
「うん。わたしの実家がこの街にあるから。それにね、もうどこかに旅をするなんてことがなくなったから……」
霧沢さんは俯いて、何故か少しだけ寂しそうな瞳をした。何か辛いことがあったのかもしれない。
「霧沢さんの実家がこの街だったの?」
俺はさりげなく話題の方向を変えた。
「うん。小さい頃はこの街に住んでいたんだよ」
「そうか。俺もずっとこの街にいたから、もしかしたら小さい頃霧沢さんと会っていたかもしれないな」
「えっ?森村君、憶えてないの?」
「えっ?」
「わたし、森村君のこと知ってるよ。昔よく公園とかでわたしと遊んだじゃない」
「えっ?本当に?ほんとうに?」
「くすっ。やっぱり森村君面白い」
「ああ、もう、どっちなんだよ……」
「そうね、昔遊んだ仲だったらよかったかもね」
「そうだな。人の縁なんて遠いようで近いのかも。そんなことがあってもいいかな」
「うん。そういうのって、いいよね」
霧沢さんはコロコロと表情が変わって、ニコニコと話をしてくれる。とても話しやすくて、楽しくて。お昼を食べ終わっても、霧沢さんと時間を忘れてずっと話をしていた。
それにしても、俺自身、こんなに自然に女の子と面と向かって話せるなんてどうしてしまったのだろう。
確かに恥ずかしいと思うのだけど、嫌じゃない恥ずかしさ。そのおかげで、いつもの自分を忘れずに、相手に作ることなく接することができている。今までの女の子に対する接し方と明らかに違う。
どうも複雑な気分だ。なんだか自分の知らないことを知って、自分に驚いているような気分だった。
でも、こんな気持ち、悪くはないかな。
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