雨
次の日。
でも、俺はほとんど眠れなかった。
明るくなって来たときから聞こえてきた音が、眠れなかったための朦朧としている俺の頭を覚まさせる。
ザ―――。
天気と言うヤツはどうしてこう俺の思いを裏切るんだ?
その雨は激しく降り続いていた。
早朝からやっているテレビの天気予報を見ても、梅雨のはしりが始まったとかで、今日一日はずっと雨ということを何処も口をそろえていた。
雨という憂鬱な景色も俺の心を重くさせた。とても絵なんか描けるような天気じゃない。
「美裕は……。もう起きているだろうか」
普段学校に行く為に起きる時間。
俺は美裕に電話をかけようとした。
受話器を持とうとしたそのとき。
ぴろぴろぴろ。ぴろぴろぴろ。
気が抜けるような家の電話のコール音。
逆に電話がかかってきたようだ。
「美裕……かな」
がちゃ。
「もしもし。森村です」
「……、ああ、大樹か」
「胡太郎?」
「起きていたか?」
「ああ。大丈夫。起きていたよ。どうしたんだ?こんな朝早くから」
声が小さく元気がない。なんだかいつもの胡太郎の声じゃない。
本当にどうしたと言うんだ。思い出したくないのに昨夜の事を思い出してしまう。
やはり美裕と何かあったのだろうか。
嫌な気持ちが膨らむ。
「この雨の中すまないが……。ちょっと出てきて俺と話をしてくれないか?」
「どうしたんだよ胡太郎。お前らしくない。電話じゃダメなのか?」
「ああ。どうしても会って話をしたい」
「でも、俺、これから美裕と約束がある」
「その……、霧沢さんのこともだ」
「えっ?どういうことだ、胡太郎」
「電話では言いたくない……。だから会って話をしてくれ。頼む」
「……」
「頼む」
「……わかった。何処に行けばいい?」
「なあ、あの公園……、覚えているか?」
「昔遊んだあの寂蒔公園のことか?」
「そうだ。俺は、そこに行くから」
「今からか?」
「ああ。頼む」
「わかったよ」
「すまないな……」
「ああ」
「それじゃ」
ぷつっ。つー、つー、つー……。
美裕のことで話があるってどういうことなんだろう……。
やはり昨夜のことなのだろうか。
それならちょうどいい。胡太郎に訊けばいい事だ。
でも。なんだろう、この嫌な緊張感は。
あんなふうに真面目ぶった口調の胡太郎の声を聞くのは初めてだからか?
「くそっ……。もう嫌だってのに!」
これから胡太郎に会いに行かないといけなくなった。美裕に一応電話を入れておいたほうがいいか……。
美裕が胡太郎と何かあったにせよ、昨晩のことは俺は知らないことなのだから。
数分逡巡した後、俺は美裕に電話をかけた。
ぷるるるる……。
がちゃ。
「はい、霧沢です」
よかった。今度は出てくれた。美裕の柔らかい声に少し安心する。
「ああ、美裕か?俺だよ」
「あっ。大樹……」
「なあ、今日雨降っちゃったな」
「そうだね……」
なんだかいつもの元気がない。
「どうする?美裕。今日は絵を描けそうにないよな。せっかく美裕とのデートなのにこの雨はないよな」
どうするも、俺はこれから胡太郎に会いに行くというのに。
何を美裕にごまかしているんだ、俺は……。
「……」
でも、美裕は何にも言わず、ただため息のような声が聞こえただけだった。
「美裕?」
「……。ごめんね大樹。今日ちょっと具合が悪くなっちゃって」
「えっ?具合が悪いって……。美裕、大丈夫か?」
「ううん。でもたいしたことないから大丈夫だよ」
「本当か?」
「うん。大丈夫だから」
「そうか……。それじゃ、仕方がないな。雨も降っちゃったし、今日は取りやめにするか」
「うん……ごめんね」
美裕の声が聞き取れないほどに小さい。
「美裕、本当に大丈夫なのか?」
「うん……。大丈夫だから。明日は学校にいけるから」
「本当だな?本当に大丈夫なんだな?」
「うん……。心配かけてごめんね、大樹」
「そうか。それならいいんだ」
「うん。ごめんね、今日」
「いや、今日は雨の所為にするから。美裕はゆっくり休んで。機会があればまた来週にでも行こう」
「うん……」
「それじゃ、暖かくしてな」
「うん……」
美裕の家に行ってやりたいと思うほど切ない声を出して。
「……大樹」
「ん?なんだい?」
「ごめんね……」
「えっ?なにが?」
「ううん……なんでもない」
「そうか……それならいいんだ」
「うん……。それじゃ……ね」
「ああ。無理はしないでな」
「うん……。今日はほんとにごめんね大樹……」
「気にするなって」
「うん……。ありがと」
「もう切るな」
「うん……」
「それじゃ、またな」
「…………大樹。うん」
がちゃ……。
重い受話器を置いた。
「美裕……」
美裕は具合が悪いって言っていたけれど、元気がない。というより泣きそうな声をしていた。
やっぱり胡太郎と何かあったからなのだろうか。
くそっ。何かってなんだよ!
それも、胡太郎と話ができれば何かわかるはずだ。
俺は不安を胸に抱き、胡太郎が待つ公園へと向かった。
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