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短編集

専業主婦になりたいっ!

作者: 枝鳥

「ユリちゃん、僕と結婚してください」

 いやったあああ。

 28歳。

 タカシと付き合いはじめてから3年。

 ついにプロポーズされました!

「はい、喜んで」

 嬉しすぎて、どこかの居酒屋のような返事をしてしまった。


 友達の結婚式の二次会で出会って、メール交換してデートして、少し口下手だけど優しいタカシのことが気になって告白したのは私から。真っ赤な顔をしたタカシが、僕もユリちゃんのことが好きって言ってくれて。

 いつか結婚したいねって軽口に、告白は私が頑張ったんだからプロポーズはタカシからしてねって言ってたんだ。

 いつもより背伸びをしたレストランに誘われて、内心プロポーズかなと期待してた。

「あーよかった」

 緊張で真っ赤な顔をしたタカシが笑った。

「ユリちゃんにうまくプロポーズできるか不安でしょうがなかったんだ。うまくできても受けてもらえるかも不安で。せっかくのレストランだったのに、味もよくわからないくらい緊張してたんだ」

 ニコニコしながら、タカシとデザートを食べる。

 来週末には一緒に指輪を見に行こうか、お互いの両親にはいつ頃に挨拶するかなんて話し合う。

 ひと段落した後で、タカシが言った。

「でね、僕はできれば結婚後はユリちゃんには家にいてほしいんだ」

「……え?」

「専業主婦になってほしいんだ」


 大学を出てから6年。

 私はずっと設計アシスタントを続けてきた。設計者について資料の取り寄せをしたり部品図を描いたり。

 ストレスがたまることもあるけれど、達成感もあったし、やり甲斐も感じていた。

「……少し、考えさせて。私、専業主婦ができるってすぐ言える自信がないの……」

 少しテンションの下がった私に気付いて、タカシは言った。

「そうだね。専業主婦は僕の希望だから、二人でゆっくり考えよう。ユリちゃんがどうしてもって思うなら、専業主婦じゃなくてもいいからね」

 ああやっぱりタカシで良かった。

 それから、タカシと手を繋いで店を出た。

 今日は家族に報告もしたいから、私はまっすぐに家に帰ることにする。

「じゃ、次の土曜日に指輪を見に行こう」

「うん、帰ったらメールするね」

 駅のホームでキスをしてタカシと分かれた。



 家に帰ってお母さんとお父さんにプロポーズされたって報告したら、お母さんは喜んで、お父さんはちょっとむっとした後で「お前も嫁に行っちゃうんだな」って呟いて、今日は先に寝るって言って寝室に行っちゃった。


「お父さん、お姉ちゃんがプロポーズされたって帰ってきた時と同じ顔してたね」

 お母さんとお茶を飲みながら話す。

「そうね、あの人ってば。嫌なわけじゃないのよ。お姉ちゃんもユリのことも大切だから、ちょっとさみしいのよ」

 あらためて、ジワジワと結婚するんだって気持ちが湧いてくる。

「ねえ、タカシにね、専業主婦になってほしいって言われたんだ」

「あら、タカシさんも?」

「うん、そう」

 お姉ちゃんも専業主婦になってほしいって言われて悩んでた。

「そうねえ、ユリちゃんが専業主婦になりたいならいいんじゃないかしら」

「私、専業主婦になれるかなあ」

「やってみなくちゃわかんないじゃない」

 そう言ってお母さんはケラケラ笑った。

「そうだね、うん。やってみなくちゃわかんないね」




 それから、次の土曜日にタカシと婚約指輪を見に行って専門学校に入学を決めた。

「1年頑張って無理だったらいいからね」

 タカシも応援してくれた。

 仕事の後の18時から22時までが学校だから、職場にも学校に通う申請をした。

 上司も先輩も同僚も応援してくれた。


 年に4回ある国家試験。

 最初は入学してすぐで、腕試しに受験してみた。

 合格は90点以上。

 私は30点だった。

「まだ勉強してないからね、ユリちゃんのこと応援してるから」

 タカシに励まされて、落ち込みそうな気持ちを引き上げる。


 半年もすると少しずつコツの様なものがわかり、模試でも80点を超えられるようになった。

 タカシがいつも模試の後は褒めてくれるから、辛い時にも頑張れたんだと思う。


 入学して9ヶ月。

 一所懸命に勉強した甲斐があって、私は合格した。

 家でインターネットを立ち上げて見た合格一覧に自分の受験番号を見つけた瞬間に涙が出てきた。

「お母さあああん、合格したあああ」

「ユリちゃん凄いじゃない」

 タカシもインターネットで見たらしく、すぐに電話がかかってきた。



 結婚式の会場で、上司が祝辞を述べている。

「……新婦のユリさんはとても努力家で、いかに設計者に快適に業務を進めてもらえるのかという気配りが素晴らしいお嬢さんです。

 タカシ君からの専業主婦になってほしいという希望にも前向きに取り組み、僅か9ヶ月で専業主婦国家試験に合格した優秀なお嬢さんです」

 そこで会場中がどよめいた。

 タカシが隣で嬉しげに微笑んでいる。


 幸せな家庭を築くんだ、と私は誇らしく胸をはった。




専業主婦(夫)国家試験

少子化対策として政府が2062年に打ち出した方策。

本資格を所持する専業主婦(夫)には国から一定額(月額18万6千円)が支給され、より良い家庭を築く義務が課せられる。(よって就業の禁止を課せられる。就業する場合には支給の停止が条件となる)

本資格は一世帯につき一名と定められている。

試験科目は、料理、洗濯、掃除、冠婚葬祭、育児、家庭看護、家計管理など多岐に渡り、施行後10年目の本年度の合格率は14%、平均合格年数は3.7年となっている。

また国家資格で永久資格であるが、数年に一度の抜き打ち検査(環境の維持、家計簿の監査等)が義務付けられている。

支給期限は、民間企業の平均定年に準拠する。


尚、資格保持家庭の離婚率は0.012、平均出生率は2.68であり、近年最も注目を集めている国家資格の一つである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 思いもよらない専業主婦の切り口のお話で面白かったです。こんな制度があれば喜んで専業主婦したいですね。通学しないといけない点が子持ちママには難点ですが、少子化対策とのことなのでその点は何らか…
[良い点] 良い結末。 [一言] 大変楽しませていただきました。確かに有能な専業主婦はスゴイですよね。逆にダラ主婦は結婚できないかもしれないですね。
[良い点] あれ?アシスタントの資格?とおもっていたら…。面白かったです。 [一言] 専業主婦(夫)には外部とのコミュニケーションと情報交換が含まれると考えると、もはやパーフェクトな人しかこなせなさそ…
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