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清美編の次の日、織田と大神は新たな暇つぶしを見つける……。
迷路デイ
作:伊東 光



太陽編


 六月、日曜日の喫茶店で一人、推理小説を読んでいるときだった。
 「陽介くんじゃないか」という声に振り向くと、そこには同じテニスサークルに所属している一年上の先輩である大神が立っていた。ハッと息を呑む。
 「どうも、先輩。最近サークルに来ないですけど、どーかしたんですか」
大神はいつの間にか陽介と向かい合うように椅子に腰掛けていた。
 「大したことじゃないよ。それにその問題はあっけなく昨日、解決した。いや、三日前かな」と大神がほほえみながら喋るのをよそに、陽介は考えていた。
 大神はとにかく不思議な男だった。キリリとした瞳、高い鼻、整った顔、痩せ型の長身で染めた金髪が良く似合う。かっこいい、のではなく「美しい」。周りを虜にしてしまうオーラを持っている。こういう人間こそ人間国宝にふさわしい。いや世界遺産として残すべきだ、と半分本気で思う。
 女性からも人気が高いらしく、ファンクラブが結成され、彼のためならなんでもすると豪語する会員もいると聞く。彼がテニスコートに立った日にはあたりを他の野次馬が近寄れないようにしてしまうことがあるほどだった。
 ただ、大半の学生が疑問視していることがある。それは、彼が女性と交際しているとの噂が一切ないことだった。同じ学部の女子によると彼の交友関係は極端に狭く、友人として上げられるのは大神と同級生の「織田茂」ただ一人だそうだ。眉唾ものだが、彼女が「大神仁ファンクラブ」の副会長であることと、彼とサークル内で頻繁に会話するのは自分ぐらいだということに気づき一応信じている。
 「ところで陽介くん、今日ひま?」と大神が尋ねてくるので、
 「はい、ヒマッすよ」と答えた。実際午後からあるはずだった講義は、学会の準備とやらで潰れてしまっていた。
 「良かった、一緒に来てくれ。君を待っている奴がいるんだ」

 そういわれて大神に連れて行かれたのは、駅前にあるファーストフード店の二階だった。
 「よぅ、案外早かったな。もっとかかるかと思ったぜ」
窓から最もはなれた席に座っている男がハンバーガーをほおばりながら、大声であきらかに大神を呼んできた。
 「やあ、食事中なのに悪かったね。」
 「気にすんなっての。もともと俺から持ち掛けたんだからよ。そいつがか?」
 「あぁ、そうだよ。彼が日野陽介くんだ。陽介くん、こいつは織田茂だ」
大神は確か自分を待っている人がいると言っていたよな、と陽介は考えた。なぜ面識のない織田が自分に会いたがったのだろう。考えられるのは大神が自分のことを織田に喋ったから、だろう。陽介は自分の考えを否定した。友人から話を聞いただけで、その相手を呼び出す人間などあまりいないだろう。が、違った。
 「いやー仁から話を聞いたときピーンときたぜ。お前に会うべきだってな」
 「は?」なんで。
 「うんうん、いいねぇ。悩んでる男の顔は」
 「え?」いったい。
 「お前の片思い、俺が成就させてやるよ」
 「………」知っているんだ?

 織田が大神から日野陽介の話を聞いたのは昨日の晩、携帯電話からだった。
 織田はその日、半年かけてきた計画を失敗していた。自分に責任の一端があるわけでない失敗だった。それゆえに失意の中で希望をなくしていた。
 そんなときだった。大神から電話がきた。最初はシカトしようかとも思ったが気が変わった。理由はなんとなく、だ。
 「へこんでるかい」と、大神は尋ねた。
 「そんな会があったら、俺は名誉会員だ」
織田が適当に返す。
 「俺は今、迷路の中でメロメロになって迷っているんだ」
くだらない洒落が続くな、と大神は思いつつ「迷路かい?」と、聞く。
 「いいか、大神。よく聞けよ」
 「なんだい?」
 「その通り。人生は迷路なんだよ、真っ暗いな。しかも超がつくほどの難題だ。みんな楽して最短ルートでゴールしようとしやがる。ただな、どうしたって誰もが何回も行き止まりにぶつかってしまうんだよ」
大神は苦笑してしまう。が、織田は気にしない。
 「でもな、迷路なんだから行き止まりにぶつかっても引き返せるんだよ。間に合うんだよ…。そうだろ」
と言ったきり織田は黙りこくった。
 「茂、大丈夫かい」「………」「なんなら、いっしょに迷路を進もうか」「………」「おもしろい話、あるけど」「………!」少しだが反応があったので大神は日野という後輩の片思いの話を聞かせた。
 大神が話終わると織田はさっきまでとは打って変わってテンションがあがっていた。
 「仁、ナイスだ。今度はそいつがターゲットだ。明日そいつに合わせてくれ。絶対くっつけてやる。お前の部下共も総動員するぞ。明日が楽しみだ」
 「部下って…」
大神は陽介には悪いと思っていなかった。まあ、いいかな。そんな気分だった。

 「…というわけで話した」
大神が言うと、陽介が「そりゃないっしょ」と文句を言った。
 「じゃあ俺の恋愛話はそこのへこんでいた織田先輩を笑わせるのために使われたんですか」
 「ただ笑わせるためじゃない。茂が調子を戻せるように有効利用したんだよ」
 「変わりませんよ」
 「それにしても、お前は大学生にもなって恋愛ぐらい一人で出来ないのかよ」
織田に指摘されると、陽介が「ちがうんですよ」といった。
 「俺が好きになった人の名前、大神さんに教えましたっけ」
 「いや、聞いてないけど。誰なの?」
 「月山兎つきやまうさぎさんというんですけど…」
陽介が喋るのを遮るかのように織田が声を上げた。
 「ほう!それはいい!!お前たち名前の相性はこれ以上ないってくらいバッチリだ。日野陽介と月山兎、太陽と月。両方あるからすばらしい。お前らは間違いなくくっつくぞ、日食や月食のようにな」
 「何言ってんですかこの人は」
陽介が大神に尋ねると
 「許してやってくれ、茂はこういうやつなんだ」
と、大神は嫌がるのでも友を馬鹿にした眼で見るのでもなく、織田を愛おしそうにみつめた。
 「ごめんね陽介君。で、話の続きは?」
 「その月山さんに本当は今日、告白するつもりだったんですよ」
と陽介が言うと、大神と織田の二人が同時に口を動かした。
 「それはおめでとう」
 「それはないだろう」
 陽介が、「月山さんは―という居酒屋で働いている」と言うので、一旦は解散して店の開く午後六時にその店に集合するようにと織田は言った。
 陽介が断っても織田は聞く耳を持たず、挙句の果てに大神までノリノリだった。












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