第1話ヨオイ、ドン
静かに寝息をたてる八雲先輩。
椅子に座りながらも、丸っこくなって眠り、幸せそうな寝顔を見せている。
・・本当にこの人吸血鬼なのカナ・・。
出雲に血を吸われ、瞬く間に眠りについた八雲。
千神はまだ怒り足りないようで、ぶちぶちといっている。
どこからか二個目の椅子を出して出雲が座り、足を組むと部員を見回し、
「で、今日は何すんの?」
と問う。
―出雲先輩と八雲先輩はいわば主従関係、らしい。
詳しくは知らないけど、出雲先輩は吸血鬼、八雲先輩は吸血鬼に血を吸われて、形をなす狼の眷属。
八雲先輩も血を吸うらしいが、吸うのは出雲先輩の血、のみ。
出雲先輩は前回も言った通り、八雲先輩の血を吸って生きてるし、人間の血は吸わない、らしい。
・・でも女の子を連れて来るってことは、好みの血のコを連れて来て、文字通り食べようとしてるのでは・・・?
千神は腰に手を当て、出雲を見下ろすと
「いつもどおり、たまった報告書の処理よ。」
とため息と共に言葉を吐き出す。
出雲は肩をすくめ、無月は部屋の隅から、四角の机を引っ張ってきて、その上にどこから出したのか、大量の紙をどんっと置く。
その様子から、無月がさっきの仕返しに、わざわざ音を立てて置いたことがわかる。
出雲は無月に冷たい視線を送ると、それに気づいた無月がにっこりと笑い返す。
―千神先輩は正確な種族の名前がないらしく、自分で作った種族名で<蛇の血を持つ者>と言っていた。
・・・まんまじゃないかとか言ってはいけない。
千神先輩の身体は特殊で、肌は硬く、眼は黒目がやけに小さい。
さらに舌は長くて細く、先端が二つにわかれているし、見たことはないけれど、骨格を変え
、自由に腕や足を伸ばせるらしい。
変温動物なので暑いのは全く感じないらしいが、・・寒いのは何故か嫌いらしい。
―無月くんは、鬼。
といっても角の生えたアレではない。
どちらかといえば、吸血鬼に似た種族で、人間の血肉を食べて生きていたらしいが、今は動物の身体しか食べず、長寿といえど、吸血鬼よりも長く生きることはできないらしい。
前に無月くんに何歳なのか聞いて見たところ、にっこりと笑顔で”本当に聞きたいんですか”と言われてしまい、何歳なのかわからずじまいだ。
「さぁセンパイ?たまってるのは貴方の判子の所だけなんですから、さっさと終わらせて下さいね。」
無月はわざとらしく念を押すと、自分は傍に椅子を持ってきて座り、自分の鞄からノートパソコンを出して開く。
出雲は苦虫をつぶしたような顔になり、眠る八雲を眺めた後、仕方なくと言う雰囲気で立ち上がる。
それを見て、千神は棚からファイルを取り出し、整理を始める。
・・皆、本格的に仕事を始める様だ。
これで風紀部は1、2、3、4、5・・あれ?一人足りない。
「あ、あの・・明くんは?」
「ん?・・ああ、明はパトロール中。」
久那の問いに答えたのは出雲。
大して興味なさそうに言っているのは、その部員が男だからか。
―明くんは、自分自身をよく知らないらしい。
けれど、出雲先輩から”見た”ら明らかに普通の人間ではないらしく、出雲先輩の見解では、明くんは龍。
それも異国専門のもので、よく歴史とかに載ってるああゆう物ではなく、翼の生えた蛇のような物らしい。
それが人の形を取って、生きているのだからそれなりに力があるのかといったら、特になく、人外の力は存在しない。
・・無口、無表情の明くんにそこまで聞きだすのが大変だったというのは余談だ。
これで全員の紹介は終わったかな?
あとは僕だけのはず・・。
―この部にいるということは、僕も人ではないわけだね。
正確には僕は人間だった。
僕は六歳の頃、月に憧れていた。
小さい頃のころころと変わる将来の夢、僕ずっと心の中で宇宙飛行士になると言う夢を掲げ続けていた。
でも、それができなくなったのは、満月の夜の日。
自分にしか見えてなかった、狼に噛み付かれた。
その日から、月を見るたびに気持ち悪くなり、病院にも行ったが原因はわからず、両親にも煙たがれた。
幼馴染のある異性のコがいなかったら僕は自殺していたかもしれない。
・・そのコは引越して何処かに行ってしまったけど、もう平気だった。
ここに入ってからはまた僕の事を話せる友人もできたし、風紀部だってある。
―コンコン。
突然、部室のドアを叩く音が響いた。
・・ってあれ?もう僕語り無しなのかな??あ、長い?・・そう・・。
千神はそのノックに”入って”、と返し、ドアが控えめな音を立てて開く。
「失礼します。」
入ってきたのは、小柄な男子生徒だった。少し緊張した様子だ。
下級生なのか、久那には見覚えのない生徒だったが、無月が生徒の声を聞いて振り返り
「あ、坂田。」
生徒―坂田の名を呼ぶ。
坂田は無月の姿を認めるとほっとした顔をした。
どうやら無月に同級生らしい。
無月はノートパソコンを閉じ、坂田に向き直ると”どうした?”と聞き、坂田は心底困った表情をし
「助けて欲しいんだ。」
と言った。
・・間違いなく、今全員が坂田の声に反応して肩を跳ねらせただろう。
つまらなさそうに判子を押していた出雲先輩が、ニヤリと笑ったのを僕は隣で見た。
「・・話を聞かせてもらおう、坂田クンv」
「え?さ、真田先輩?」
何故か、パソコン室で使うような座る、回る椅子に座り直していた出雲は、くるりと椅子ごと振り返り、坂田の方を向いた。超さわやか笑顔で。
−ここからが事件の始まり。
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