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ラブカクテルス その58
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は発明王でございます。

ごゆっくりどうぞ。


私は発明王と呼ばれている。
大したことはしてはいないが、少し人と違う発想や、こうしたらどうだろうなどの、アイデアを実際に物として作ってみた結果、一般大衆や、企業などに受け入れられる事になり、いつの間にかそういう肩書きの様なものができ、付いてきた。
代表作では、柄を彩って販売したマスク。
どれを取っても白いものばかりのマスクに、黄色や緑やピンク、それに花柄やハートマーク、水玉。
そして今ではこれを利用し、町でティッシュの替わりにマスクの表面に広告を印刷して配るものまでを考案した。
しかしこれは思っていた以上に画期的だった。
歩行者はタダでマスクを手に入れられ、企業は人の顔という一番注目を集める場所を借りられる。
ティッシュを配るというありきたりなものより、かなりのインパクトだ。
なかなかのアイデアだった。
花粉の季節などはかなりの受けようで、そのおかげもあって私は特許で得るものも大きいものとなった。
それから、今では大して珍しい物ではないが、アコーディオンカップを考えたのも私だ。
これはエコロジーの為に携帯マイカップを持ち歩くのが流行ったが、かさばるうっとうしさに良いものはないかと考えた結果、カップをジャバラ状にして、伸縮できる物を考えた。
見た目もオシャレだと、かなりのヒットになった。
それからカメラグラスなんかも私の作品で、これは超小型カメラをサングラスに内蔵した、これまた画期的な商品で、今見ているものを瞬時に、連動式ワイヤレススイッチ搭載の腕時計のボタンを押すだけで手に入れられると、今まで見てからカメラを持つまでの、普段油断していたタイムロスをなくせる好評の商品となった。
今では劇的な瞬間といった作品が、これのおかげで世に沢山出たことは言うまでもないことだ。
しかしあれこれと次々に色々なヒット商品を作ってはみたが、自分では簡単なことをしてきただけで、大した実感がない。
私自身、本当はエジソン並の発明家になれればと、つい日頃思っているのだが、
なかなか難しい。

そんなある日、私の娘の誕生日が近くなってきたため、何か欲しい物はないかと聞いてみたところ、だれも今まで見たことも聞いたこともないハンドバッグ。私だけの世界で一つの素敵なハンドバッグが欲しいと言ってきた。
わがままな娘だ。しかし、かわいいから仕方ない。
私は娘のために一肌脱ぐことにした。

さて、どうしたものか。
私は今まで、ひらめきで発明を生んできた。だから本当のところは課題を預けられての発想は意外と苦手な分野と言えた。
私は頭をヒネった。
今の若い世代が今求めているものとは何か?
とりあえず、その辺から始めてみるか。
私はなかなか天気のいい表を散歩がてらに、街へと繰り出す事にした。

人が賑わいを見せるオシャレ、流行、最先端の代名詞とも言えるこの街なら、きっと今時のものを肌で感じられる。
私は某有名デパートや、華やかなブティックやブランドショップといった、その時を色や形に表したバッグ達に注目を置いて見て廻った。
どの店を訪れても、店員はキョロキョロとした私に色々と話し掛けてきてくれたおかげで、私は今の流行りとやらをなんとなく掴むことができた。
素材はレザー、見た目は光を反射させるキラキラ感がポイント、そして丈夫でいて軽い。そんな条件を満たしているかどうか、それが若い世代の女の子達の心をグイッと掴む事ができる条件のようだ。
私はひとまず調査を終えて、書斎に籠ることにした。

街で取ったメモ書きを机に広げ腕を組む。
今の流行を取り入れ、かつこの世に二つと見ない、そんなバッグ。
形などのデザインを少しイジるだけなら誰でもできる。
私は首傾けて悩んだ。
どうしたものか。
そんなこんなで眠れない夜が続き、娘の誕生日まで一週間と追い詰められたある日、私は閃いた。
これならイケる筈だ。
私は少しニヤケてしまった。

まずは視点が違っていたのだった。
どんなバッグにするか、ではなく、バッグに何を使うかであった。
私は早速市場に行くことにした。
朝の早い時間に漂う独特なひんやりとした空気の中、私が向かったのは魚市場の大きな問屋だった。
私が今、頭に浮かべているイメージを掻き消されないように、周りの声や、匂いなどをなるべく避けるようにして、そこに並ぶ魚達を見て、第一印象のそれで目的に合ったものを探し出す。
きっとインスピレーションがくる筈だった。
無表情で並ぶ魚達。色や大きさ形も様々。しかし、いた。
とうとう見つけた。
それは見事な、傷一つないシャケだった。
迫力のある顔立ち。光に反射すると七色に輝き出すウロコ。
その大きさまでもが完璧だった。
まさに、まさに食卓、それも和食の代表、その存在感に加えて言うことがない程の知名度。
これ以上に私を満足させる魚が他にあるだろうか。
私は店主に向かって、威勢のいい声を張り上げてその凛々しいシャケを買い付けたのだった。

朝食は当然、シャケの塩焼きで始まった。しかし、皮は当然ない状態だ。
そう、その皮は革としてバッグに使用することとなるのだった。
しかし事は簡単な話しでは終わらなかった。
問題は色々、サンプルで取った皮から出題された。
まずは匂い。
なかなかバッグから匂いがしてくるのは良くない筈だ。
いや、待てよ、もしかして。
私は試しに、バラの花から抽出した液体にシャケの皮を浸してみた。
丸一日、皮はそれに漬け込まれ、翌朝にそれを取り上げてみると、やはり想像通りに、匂いが香りに変化したのだった。
なかなかの発想だ。
私は自分のそれに思わず歓心してしまう始末だった。
しかしまだまだしなくてはならない事が山積みだった。
シャケの皮は日を追うごとに縮れていくし、乾き出すとウロコがポロリポロリと落ちて、その下にある皮は大して綺麗な物ではなかった。
しかも強度もバッグに決して向いている訳ではなく、しかも濡れると表面がヌメリ出す。
かなりの難題がそれには付きまとった。
私は思わずため息をついて、頭を抱えた。
どうしたものか?
悩んで見つめたその先に、まるで花びらのようなウロコがそこに落ちていた。
私はそれを指で摘み、デスクの灯りに透かしてみた。
キラキラと輝くそのウロコは、まるで真珠のような七色の輝きを宿していた。
こんなにも小さいのに。
そこで私に、また閃きが訪れた。
そうか、ウロコだ。必要なのはウロコだったんだ。
私は無心になって、そのウロコをむしり出した。
無数に取れるウロコの山。私はそれをきれいに大きさ別に並べ分けて、そして別に、イメージとして作ってあった仮のバッグに、それらがうまく映えるように張り付けていった。
取り憑かれたようなその作業は、食事を執るのも忘れるほどに私を集中させ、そしてその翌朝の明け方間近にとうとう完成を迎えたのだった。
握る取っ手の部分意外は、バッグ全体を七色に反射するウロコに包まれたそれは、まるでワニや蛇の爬虫類の様な迫力を備え、それでいて気色悪い色ではない、その不思議なコラボレーションは、まさに発明と言っていい、満足のいく出来映えとなった。
私は、なんとか娘の誕生日に間に合った安堵さと、出来上がりまでに注いだ情熱からの疲れにやられ、身体は沈むように落ちていき、眠りへとあっという間に飲み込まれたのだった。


娘の誕生日、妻は珍しくケーキを作り、夕食のテーブルは豪勢な食卓となっていた。
シャンパンと、私と娘の大好物のフルーツポンチもそこには並べられ、それを見ただけで私は上機嫌になり、妻に注意されながらも、それらの幾つかを摘み食いして主役の娘を待った。
娘はダイニングに入るなり、ワァーっと、少し黄色掛かった声で大袈裟にはしゃいで、その食卓を喜んだ。
席に着いた娘に、私はシャンパンを注いでやると、妻も席に着いたので、そのボトルをそのまま妻の前に差し出し、あまり飲まない妻の適量である半分までそれを傾けた。
そして三人揃って用意ができたところで乾杯の号令を、私は打ち鳴らすようにグラスを重ねるのとほぼ同時で声にした。
乾杯っ!誕生日おめでとう。
娘は少し照れながら私達に礼を言うと、シャンパンに上品な仕草で口を付けた。
ご満悦な表情を浮かべて、妻の作った料理に舌鼓。どれに箸を付けても最っ高を連呼し、妻がその褒め言葉に礼を言いながら、お腹が一杯になる前にこれを出さないと、とケーキにロウソクを付けて出してくると、またもや娘は黄色い声さながらの歓喜。
私は妻を見ながら少し苦笑いを浮かべて、しかし家族で囲んでいる幸せの団らんに満足を隠せずにいた。
そんな私に娘は、少し得意気にも見える笑みを浮かべながら、手を差し出してきた。
私はワザととぼけて、なんだ、その手はと言ってみたが、そうしながら顔が弛んでニヤケているのを隠せずにいた。
娘はその私の表情から注文通りのプレゼントが出来上がったことを察して、手を叩いてそれを催促してきた。
私はジラしながらもその箱を娘に渡した。
娘は開けていいかを目で確認してきたので、私はニッコリとした笑顔のまま頷いた。
リボンをほどき、その箱の蓋を宝箱でも開けるかのように、そっと、丁寧に持ち上げて覗き込んだ娘の顔は、みるみるうちに輝き始め、それを手にしたその姿は小さい頃の面影をも思い出させて、私は少しうるっとしてしまいそうになった。
どうやら今回のプレゼントのバッグは気に入ってくれたようだ。
その証拠に娘は、それを手にすると、席を立ち、私に抱きついてきた。
その嬉しさからの勢いに、私は椅子ごと後ろに倒されるかと思われるくらいの勢いで、慌ててしまうところだった。
娘は私をこれでもかと褒める。悪い気分ではない。
そんなまんざらでもない私に、娘はバッグをどうやって作ったかと聞いてきた。
私は少しスカした感じで今までの苦労話しも交えて、それがシャケの革だと自慢気に言うと、娘はいきなり肩の力をガクッと落とし、今までに見たことのない鬼のような表情になって言った。
キモッ!


おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














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