挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

異形人外恋愛系

生贄の后が可愛すぎてつらい



 魔物を統べる魔王といえば、その真の姿はおぞましき異形であると相場は決まっている。
 この世で最も美しいと噂される大国ラポナの末の姫君を己が妻にと欲した魔王もまた、世に蔓延る負の感情をひとところに集め具現化したかのような、見るに堪えぬ醜い様相を呈していた。
 ほんのひと時ばかりの世界の平穏のため生贄として差し出されることとなった麗しくも哀しき姫君は、されどその穢れなき笑みを絶やすことなく、残された日々を常と変わらぬ安寧とした様子で過ごしていた。

 暖かな春の王宮庭園でティータイムを楽しむ姫君は、白魚のような指先を艶やかな桃色の唇にあて、ほぅ、と悩ましげな息を吐く。

「皆が揃って美しい美しいとおっしゃるから、(わたくし)も薄々そうなのかしらと思ってはいたけれど、まさか魔王まで虜にしてしまうほどであったなんて、驚いたものねぇ」
御姫(おひい)様、何を悠長なことを! 相手はあの悪名高き魔王でございますよっ!」

 彼女が生まれたその時より御付のメイドとして傍に控える、無駄に紛らわしい名前の乳母ではないウバヤが悲鳴のような声を上げた。
 主従の身ながら、蝶よ花よと姫君を可愛がってきたウバヤにとって、此度の王の決定は到底認められるものではなかったのである。
 その嘆きようは、周囲のメイド仲間を揃ってドン引きさせるほどに激しかった。

「あぁーっ、なんてお可哀想な御姫様……嫁いだ暁には、妻だなんて名ばかりの奴隷のような惨い仕打ちを受けるに決まっていますっ!
 御姫様さえうんと頷いてくださるのなら、ウバヤはいつでも御姫様を連れて逃げる準備は出来て……」
「大げさねぇ。
 お相手が誰であろうと、その後の処遇が分からないのは変わらないでしょうに」

 過保護なメイドの不穏な発言を遮って、姫君は苦笑いを滲ませた困り顔で小さく首を傾げて告げる。
 魔王の花嫁となることが確定してから、逃亡を防ぐための見張り役であろう騎士が、彼女の周囲に目立たぬ形で常駐するようになっていた。
 それに気付いているのか、いないのか、ウバヤはいかにも剣幕な態度で拳を握り力説する。

「何をおっしゃるのです、御姫様! 魔王ですよ魔王!
 人の命など、羽虫やゴミ同然に思っているに決まっています!」
「ねぇ、ウバヤ聞いて? 決め付けは良くないわ。
 私、思うのよ。例え夫となる御方が人であっても私を不幸にしないとも限らないし、逆に魔王が私を幸せにしてくれないとも限らないって」

 鼻息を荒くする中年メイドへ、根気強く説得を繰り返そうとする美しき姫君。
 分かりやすい立場の逆転現象に対し、割って入って注意できるほど精神力の鍛えられたメイド仲間はついぞいなかった。
 そもそも、姫君を取り巻くメイド達の中でウバヤが最も高い年齢と身分を有している時点で、口を出せる者などいるわけがないのだが……。

「こんな理不尽で一方的な求婚をしてくる魔王が御姫様を幸せになんて出来るわけがないじゃないですかぁーーッ!
 おぞましい化け物たちの王ですよ!
 そもそも人の気持ちなんか理解するような作りになっていないんです!」
「そうかしら。
 戯れに私を求める辺り、少なくとも人の負の感情には余程精通していらっしゃる御方だと思うのだけれど。
 要求通りに私を差し出させることで、人と魔の力量差をはっきりと知覚させ、同時に私が死ぬまでのほんの僅かな平和の為、自らの為に同種族を差し出す人間の汚さを自覚させて、その絶望や怒りや憎しみを愉しもうというのだから、中々いい趣味をしていらっしゃる御方ではないかと……」
「それが事実であれば、ウバヤは尚更心配でございますぅぅーーーーっ!」
「まぁ、ごめんなさい。不安を煽るようなことを言ってしまったわね。
 けれど、私、もう()の御方に嫁ぐと決めてしまったのよ」
「そんなっ!」

 現実を認識していながら、どこまでも冷静さを崩さない姫君がはっきりと己の意思を宣言すれば、ウバヤは絶望の表情で顔色を青褪めさせた。
 対して、姫君は邪気のない清廉な笑みを浮かべて、こう続ける。

「人ではないけれど、今、世界で一番力のある御方の妻にと望まれたの。
 これってすごいことではないかしら。
 それに、私が魔王様に気に入っていただければ、お願いして人の国への侵略も止めていただけるかもしれないわ」

 その言葉に、ウバヤはついに両手で顔を覆って、おいおいと人目も憚らず泣き出した。

「あああ御姫様ぁぁ! ウバヤには分かります!
 嘘とは言わないまでも、そのお言葉が建前であると!
 御姫様は面白がっておられるでしょう、この状況を!
 暢気に楽しんでおられるのでしょうー!」
「まぁ。さすがはウバヤね。
 皆こう言うと、けな気な姫君だと感動して涙を流してくれたものだけれど」

 図星をさされて、はにかみ混じりにポッと頬を赤らめる姫君は、場違いにも大層可愛らしかった。
 生来の美しさで皆から散々に甘やかされて育った彼女は、他者から悪意を向けられるということに酷く鈍感で、例え魔王が相手といえど自らが(なぶ)られ甚振(いたぶ)られる想像など、全くできるものではなかったのである。
 ゆえに、能天気な姫君は、魔王のお膝元という異文化はなはだしい場所での新生活を、まさかの期待と共に待ちわびていたのであった。

「ああーっ、ウバヤは、ウバヤは哀しうございますぅぅー!」

 その日、王城の庭先にはいつまでもいつまでも中年女性の嘆きの声がこだまし続けていたのだという。




~~~~~~~~~~




 そうしてついに訪れた、宣告の日。
 煌びやかな純白の婚礼衣装に身を包み、可憐な両腕に大輪の花束を抱えた麗しき姫君は、独り静かに大聖堂の中心に佇んでいた。
 やがて、彼の王からの指定時刻が経過すると、一瞬にして暗黒に染まり穢れし遥か天上の彼方より、大地に立つ全ての人々の元へと禍々しい声が落ちてくる。

【ラポナの末姫、確かに貰い受けた。
 我が后が存命の今しばらく、仮初の平穏をとっくりと慈しむが良い】

 嘲笑交じりのそれに、姫君を慕う者たちの瞳から深い悲しみが零れた。
 やがて空に青が戻り、恐怖の重圧から解き放たれた騎士たちが大聖堂内部に突入するも、そこには枯れ果てた花が一輪、さながら生贄の嘆きを代弁するかのように残されていたばかりであった。




~~~~~~~~~~




 一方の、闇と共に連れ攫われし清廉な花嫁はというと、見覚えのない絢爛な広間の中心で、これまた見たこともない巨体かつ不気味でオドロオドロしい姿の大怪物を前に、大きく目と口を開いて固まっていた。
 あえて日本の国民的ゲームで例えるならば、竜探索というよりは最終幻想のボスキャラ、その真の姿がイメージとして相応しいだろう。
 唖然とした、給餌を待つひな鳥にも似た可愛らしい阿呆面をさらけ出す姫君。
 彼女の絶望と恐怖の悲鳴を期待していた魔王は、その想定外の反応に軽く困惑しながらも、まだ状況が飲み込めていないだけだろうと考え、気を取り直した。
 そして、第一声に定めたセリフを紡ぐため、異形の喉を厳かに震わせる。

「待ちわびたぞ、我が花よ……」
「あらぁー、まぁまぁまぁ、本当におぞましい姿をしていらっしゃるのねぇぇ。
 それにドラゴンすら赤子に見える大きさですわぁ、すごいすごぉいっ」
「は?」

 魔王の語りを無視する形で、姫君が両手を合わせて場違いにもそんなことを言い放った。
 おぞましい等という単語を使いつつも、どこか感心したような声を発し、同時に彼女はサカサカと重そうなドレスを引きずって魔王の元へと歩み寄る。
 その珍行動に、さしもの怪物の王もあっけに取られた様子で、彼女に話しかけようとしていたことすら忘れ呆けてしまっていた。

「んまぁぁ、へぇぇぇ」

 未だ思考の回復しない魔王を、腕ひとつ分すらない近距離からつぶさに観察する姫君。
 無邪気と言ってしまえば可愛らしいものかもしれないが、それもここまで来れば明らかに異常者である。

「あらっ、こちらどうなっていらっしゃるのかしらっ」
「あっ、こらっ、そこは生身で触れてはいかんっ! そなたの手が爛れてしまうぞ!」
「きゃっ!
 まぁ、そうでしたの。それは危ないところをありがとうございます」
「い、いや……」

 怪物の左下方、悶絶の顔面にも似た凹凸群共の吐き出したヘドロの如き粘液を見て、その射出口に不用意にも触れようと手を伸ばした花嫁。
 ギョッとした魔王が慌てて彼女の最も近くで揺らいでいた触手を動かし、華奢な手に巻きつけ止めると、当の姫君は大きな目をパチクリと瞬かせてから、声を響かせているであろう最上部の巨大な唇らしき穴を見上げて感謝の言葉を述べた。
 魔王は混乱した。

「…………と、時に姫よ」
「はい」
「そなた、ワシが恐ろしくはないのか?」
「え?」

 それは、誰しもが抱くであろう、最もな疑問だった。
 彼の王の問いかけを受けて、姫君は己が手に絡みつく濃紺の触手を眺め、高貴な黄金の睫毛を三度ほど揺らした後、再び高くにそびえる大口を見上げて笑い出す。

「いやですわぁ。
 こんなにも恐ろしい見目をして、恐ろしくないのか、などと……魔王様ったら冗談が過ぎますわぁ。
 おほほほほ、面白い御方」
「え……えぇーー……?」

 結局、怖いのか怖くないのかどっちやねんという謎を王に残したまま、何がツボに入ったものか、世界で最も美しき姫君はコロコロと鈴のように可愛らしく喉を鳴らし続けていた。




 しばしの後、姫君の落ち着いた頃合で、ようやく婚姻の儀式を進めようかと声をかける魔王。
 興味津々といった体で己を見上げてくる彼女に、彼はどこか諦めたような遠い目をした眼球を浮かばせ、手順を告げていった。

 人族の仰々しいそれと違い、祈る神もない魔物の契りはごく簡単なものだ。
 共に定められた魔方陣の中で誓いの言葉を起動の呪文として唱えれば、互いの魂にそれぞれの印が刻まれる。
 それにより、相手の魂の存在を常に身の内に感じ取ることができるようになり、大まかな居場所や心に納まりきらぬ激しい感情や果ては心身の消耗状態まで、例え大地の裏側にいようと把握することが可能となるのだ。
 いうなれば、究極の双方向ストーカー契約である。
 力の差のある相手であれば、強引に魔力で相手を操り契らせることも容易く、いかにも弱肉強食の意識の強い魔物たちに相応しい儀式だと言えた。

 しかして、予想外に協力的な生贄の合意により、つつがなく儀式を終えた醜い魔の王と麗しの姫君は、ここに押しも押されもせぬ紛うことなき夫婦と相成ったのである。

「不束者ですが、末永く宜しくお願い致します、旦那様」
「う、うむ……?」

 気恥ずかげに頬を染めつつも、にこやかに見上げてくる花嫁に、夫となった魔王に対する忌避の感情がないことは、繋がった魂からも明らかだった。
 かくして、暴虐の限りを尽くした無慈悲の怪物王は、「ええー、ムリぃ、何この生き物ぉ超可愛いんですけどぉーっ! 心がキュンキュンするんじゃあーーっ」などという初の萌え感情に目覚め、戸惑いながらもあっさりとその甘美に身を任せてしまうのであった。




~~~~~~~~~~




 それから、夫婦は各種族の代表である異形の魔の物たちが集められし大広間の宴会場へと向かった。
 転移で現れた王を歓声と共に迎えた異形たちは、しかし、次の瞬間、困惑と共に視線をさ迷わせ始める。
 彼らの王の中心部近く、そこに、うねる触手の塊にしっかりと腰を下ろし、満面の笑みを浮かべて手を振る一人の美しき花嫁がいた。

 思いも寄らぬ光景に、ひたすら混乱にざわめく会場。
 魔王自身から何ひとつ説明の言葉が発されないことも、彼らのうろたえに拍車をかけていた。
 そこへ、王の側近中の側近として名高い屍龍鬼(しりゅうき)ゾドガが、額を流れる汗もそのままに、掠れる声で皆の心を代弁するかのような問いを投げかける。

「ま……魔王様、その御方は……」
「うむ、ゾドガか。
 知っての通り、こたび我が后として迎え入れたポラリス・ド・ラポルナガル姫である。
 皆のもの、くれぐれも粗相のないように」

 何を当たり前のことをと言わんばかりの声色でそう告げると、魔王は触手群を伸ばして新妻を己が頭上に掲げあげた。
 ちなみに、夫となった怪物が自身の名を知っていたという事実に、こっそり喜びを感じていた姫君がいたのだが、それは今この場においてどうでもいい話だろう。
 特に打ち合わせをしているわけでもなかったが、高くに据えられた彼女は心得たとばかりに笑みを深くして立ち上がり、次いで、異種族であろうと思わず見惚れてしまうほどの流麗な動作でカテーシーを披露した。

「ただいまご紹介に与りました、ポラリスでございます。
 この度は過分なる身分を賜りまして、まことに恐縮し通しではございますが、今後とも魔王妃として恥ずかしくないよう、誠心誠意励んで参りますので、皆様、どうかご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げます」

 堂々とした姫君の挨拶に、もはや絶句するしかない代表たち。
 そんな彼らを余所に、魔王は至極満足げな様子で后を下ろして、その折れそうな細腰や肢体にいやらしく触手を纏わりつかせていく。
 脆弱な人間の小娘ごときに明らかな執着の色を滲ませる王に、集められた異形たちは転地が引っくり返りでもしたかのような未知の衝撃を味わっていた。

 当初の予定では、恐怖に泣き叫ぶ生贄を広間中央の鳥牢に吊るして見世物とし、それを肴に宴を楽しもうという趣向であったはずだったのだ。

「旦那様、私、あの宝石のようなお団子が気になりますの」
「いや、アレは見目は美しいが人の身には猛毒となるものだ。
 こちらの果物など試してはみぬか。
 クドさのない甘みで、そなたも気に入るのではないかと思うのだが」
「まぁ、本当だわ。苦そうな濃い茶緑の見目に反して、とても爽やかなお味なのね。
 食感も、今までにないモチモチとした歯ざわりがとても楽しいわ」
「うむ、そうかそうか」

 それが、何がどうなれば興味深げにゲテモノ料理群を眺める花嫁に、甲斐甲斐しくも食物を集めては給餌する魔王の姿など見る破目に陥るのか、哀れな異形たちには一切の理解も及ぶはずがなかったのである。

 そんな中、ただひとつ、懸命な魔の代表者たちに分かったこと……それは王の后を軽んじれば、一族郎党皆殺しの刑に処されかねないという、信じたくはないが疑いようのない溺愛の事実だけだった。

「されるばかりでなく、私も旦那様に食べさせて差し上げたいの」
「おぉ、そうかそうか」




~~~~~~~~~~




 無事に宴も終え、恭しく魔王城に迎え入れられた姫君は、専任と付けられた異形のメイドらの特殊な能力にこれでもかと惚れ込み、しきりに感心し、無邪気に褒めちぎり、あっという間に彼女らを虜にしてしまう。
 結果、姫君が王と離れ、城の案内を受ける頃には、生贄の花嫁を監禁する予定であった牢獄にも似た一室はしたたかに封印され、正式な王妃の居室が整えられていた。
 あたかも初めからそうと定められていたかのように、人間であるポラリスは、魔王に次ぐ立場を与えられたのである。




 そして、ついに初夜。
 全身をメイドに磨き上げられ、扇情的でありながらも乙女の清純さを失わない絶妙な夜着に身を包んだ姫君が、さすがに落ち着かなげに長いすに腰掛けていた。
 と、そこへ、ノックの音が響く。
 ビクリと肩を跳ねさせ、緊張に身を硬くしながらも入室を促す声を返せば、まもなく小さな音をさせて扉が開いた。

「えっ?」

 が、そこに現れたのは夫となった魔王ではなく、彼女の記憶の欠片にもないドス黒い血色の肌をした多数の腕を持つ厳つい異形の怪物だった。

「ひっ……ぃやああぁあああッ!」

 たまらず、恐怖に泣き叫ぶ姫君。
 逃げようと腰を浮かせれば、侵入者はおよそ彼女に反応できない素早い動きで細腕を掴み、その場に押さえ付けてきた。
 そして、怯え震える乙女をじっとりと見据え、醜くしゃがれた声でこう告げる。

「今更になって我が妻となる事実を嘆くか、ポラリス姫」
「えっ、旦那様? どちらにいらっしゃるの?」
「は?」

 聞きなれた夫の声に反応して、瞳に怪物への怖れを滲ませたまま視線をさ迷わせる花嫁。
 どう考えても目の前の異形から発されたセリフだというのに、気付かず大ボケをかます乙女へ、魔王は八つの眼球を点にしてパチクリと瞬かせた。

「いらっしゃるならお助けになって! ここに狼藉者が!」

 ここで更に、夫から逃れようとして夫に助けを求めるなどというボケを被せてくる、いかにも必死な様子で暴れ続けている新妻。
 本当に本気で勘違いしているらしい辺り、なかなかタチが悪かった。
 あれだけ懐いていた后から悲鳴を上げられたことにカッとなって少々乱暴に押し倒してしまったが、彼女の思い違いを理解して冷静になった魔王は、余った腕で所在無さげに後頭部を掻いてから、改めて、幾分落ち着いたトーンで語りかけた。

「いや……だから、そなたが狼藉者と呼ぶ男がワシであってだな……」
「…………えっ?」

 途端、動きを止めてマジマジ怪物を見つめ出す姫君。

「え……けれど、その……お姿が……全然、違います、わ?」

 いまいち彼の言い分を信じきれていないらしい妻へ、ゆっくりと彼女の上から退いた夫は、次いで、近場の椅子に深く腰掛け呆れたようにため息を吐いた。

「あのような巨体を晒したままでは、城内でろくに動くことも適わぬではないか。
 加えて、常時放出される高濃度の魔素滓が部下の負担となりかねぬゆえ、普段はこちらの形態で過ごしておるのだ」
「では、ほ、本当に貴方が、旦那様……ですの?」
「そう言っておる」

 自身の説明不足を棚に上げて、魔王は尊大な態度で肩を竦める。
 言われて、徐々に心を静めてみれば、婚姻の儀式によって繋がった魂が、間違いなく目の前の異形が夫であると彼女の全身に伝えてきた。

「なっ……も、もう! 驚かさないでくださいまし!
 私っ、見ず知らずの怪物が突然現れてっ、おっ、襲われてしまうのではないかって、ほんっ、本当に恐ろしくてっ」
「あ、あぁ、その、何だ……すまなかった……」

 太ましい腕のひとつに縋りつくように掴まって、涙目で睨みつけてくる己の妻へ、威厳も何もかなぐり捨てて情けなく崩れた顔で謝罪する夫。
 そうして拗ねる后があまりに可愛らしく、衝動のままに膝に抱き上げてみれば、不思議な唸り声を発しながらも、その細腕で懸命に抱き返そうとしてくる彼女のいじらしい行動に、魔王は為す術なく撃沈した。

(あーーーー可愛いーーーーームリーーーーーー可愛いーーーーーーーっ)




 こうして、たった一日にして魔物の王をすっかり虜にしてしまった人間の姫君は、知らぬ間に王と同じだけの寿命を与えられ、三男二女の子宝にも恵まれつつ、末永く幸せに暮らしたついでに、人の世に恒久の平和という尊い奇跡をもたらしたのだった。




 めでたし、めでたし。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ