タケちゃんは本屋の事務室でしぼられていた。万引きしたのだ。
「コラッ。黙ってちゃわからないだろ。なぜ盗んだんだ」
テーブルの上に置かれてあったのは、「大日本帝国の真実」というタイトルの本。明治維新から終戦までの我が国の興亡を検証した約350ページの大著で、川上成夫氏による装丁が美しい。作者は台湾出身の評論家、黄文雄氏。扶桑社刊で定価2415円(本体2300円)もする。
確かに小学生のタケちゃんには少々高い。しかも、タケちゃんの家は貧乏だ。小遣いもらってないから買えるわけがない。
「まったく勉強もしないで万引きなんて」
店長はカンカンだ。タケちゃんはじっと黙ってる。
「おい! 何とかいえ! 親に連絡するぞ!」
店長は電話して親を呼んだ。
「どうなってるんですか、お宅のお子さん。勉強もしないで万引きなんかして」
「すみません。すみません。ほらタケお前もあやまれ」
タケちゃんの父さんはムリヤリタケちゃんの頭を上から押した。
「まったく反省しとらんですな。これはもう警察を呼びます」
「そんな、そんな」
警察が来た。
「どうしました」
「いやね、この坊主。小学生のくせに勉強せんで万引きしとるんですわ」
「むぅ。それはけしからんな。ボク。小学生なら万引きなんかしないでちゃんと勉強しなきゃダメだよ」
タケちゃんはうつむきかげんでうなだれている。
父さんも言った。
「そうだぞタケ。小学生はちゃんと勉強することが仕事なんだ。万引きなんてしとる場合じゃないんだ」
「まったく最近のガキはほんと勉強もせんで万引きとかそうゆう悪いことばっかり」
店長はずっとプリプリしてる。
「なあ、タケ。本なら買ってやるよ。ただし、勉強の本だぞ。どんなのがほしい?」
タケはぼそっと答えた。
「・・・・・大日本帝国の植民地経営に関する著作か、あるいは日本近代史を検証した著作」
「は?」
父さんが目をパチクリさせた。
「なんて?」
タケは答え直した。
「社会の本」
「あ。社会か。ねェ店長さん。社会の参考書ありますか?」
「ああ、ありますよ。「中学受験で勝てる小6の社会」とかどうです。でもお宅のお子さんには少し難しいかなぁ」
「いくらですか」
「860円です」
「じゃーそれください」
タケの顔はどんよりどんよりする一方だった。(了)
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