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異世界迷宮の最深部を目指そう  作者: 割内@タリサ
2章.聖誕祭の終わりに
29/518

28.昼食、4人で



【ステータス】

 名前:マリア HP92/92  MP102/102 クラス:奴隷

 レベル7

 筋力2.92 体力3.12 技量2.25 速さ1.75 賢さ3.07 魔力4.91 素質1.52

 状態:混乱0.28

 経験値:221/6400

 装備:鉄のナイフ

    丈夫な外套

    軽皮の鎧

    皮の小手

    絹の服



「レベル7だと言われました……」

「うん、おめでと」


 多くの実験を経て、地上に戻った僕たちは、まずレベルアップ作業を行った。


 その結果を知り、マリアは自分の両の手のひらを見つめながら、わなわなと震えている。

 僕は味の薄いスープをすすりながら、適当に祝福の言葉を送った。


 いま僕たちは酒場の隅の席をとり、軽い食事をとっているところだ。教会に寄ったあと、時間が丁度良かったのだ。


「でも、私……。何もしてませんよ……?」

「そういうスキルを僕が持ってるんだ。一緒に連れてる仲間のレベルを上げるスキルだね。だから、マリアを迷宮に連れていったんだよ」


 僕の行動に呆れかえっていたマリアだったが、これで僕の行動の正当性を理解してくれるはずだ。


「おかしいですよ! 村の大人でもレベル5前後でしたよ!? なのにたった一日で、こんなに簡単に! レベル7まで上がるはずなんて――!!」


 実際にレベルが上がったのを確認しても、その事実をマリアは信じられないようで、声を荒げてテーブルを叩いた。


「静かにして。人に知られたら面倒くさい」


 僕は口に人差し指を立てる。


 正直、人には知られたくない力だ。

 例えば、このレべリング能力が国の権力者に知られたら、間違いなく僕には拘束命令がかかるだろう。

 ただ、もしそうなったとしても、もう易々と捕まる気はない。僕のレベルは初日から成長し、文字通りの意味で桁違いに強くなっている。


「す、すみません。取り乱しました、ご主人様……」


 マリアは僕の様子を見て、すぐに謝罪と共にしおらしくなる。


「だから、ご主人様はやめてって……。とにかく、僕の能力を使えば、マリアも迷宮探索できることがわかったでしょ。この数時間で、マリアはそこらへんの大人よりも強くなった」

「反則ですね。そのスキル……」


 しおらしくなったマリアは食事を始めながら呟く。


 ――反則。


 マリアの持つ『炯眼』が、これを反則と判断した。


「そうだね。同感だよ」


 僕も同意しながら食事をとり続ける。


 このパーティーシステムがあれば、一日に一人熟練の探索者が生産されてしまう計算になる。これから僕のレベルが上がれば、いつかは一日に何人もの規格外の人間を生産することだってできるようになるだろう。


 実験は成功と言っていい。

 このシステムを理解したことで、選択肢の数が一気に増えた。


 僕は『表示』や『システム』を理解することの重要性を再確認する。

 細かな実験を重ねていくことで、これを用意した誰か(・・)の思惑を超えたい。そうすれば、迷宮の『最深部』に到達する時間は一気に短縮されるはずだ。


「いらっしゃいませぇー」


 マリアと僕が静かに食事をとっていると、店員リィンさんの元気な挨拶が響いた。


 昼間は閑散としているはずだが、珍しく客が入ったようだ。僕は昼間に酒を飲みに来た客の顔を見ようとして、それを認識した瞬間に顔が引きつった。


「――っ! マリア、不自然でない程度に顔をふせろっ」

「え? あ、はい」


 僕は小さな声でマリアに指示する。

 マリアは急な指示に驚いたものの、すぐに顔を俯けてくれた。


 僕は息を殺し、来店した客をやり過ごそうとする。


 それをマリアは不思議そうに見つめながら、静かにスープをすすっている。そして、マリアの目が動き、何かを捉える。その目の動きは、僕の背後で止まっていた。


「やあ、キリスト。奇遇だ」


 僕の願いも虚しく、背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「…………」

「呼んでますよ?」


 マリアは手に持ったスプーンを揺らして、僕に対応を促す。


 本当は気づかない振りをしたかった。だが、マリアが反応してしまったからには、それを継続することはできない。


 仕方なく後ろを振り返る。


「アルティ、何の用だ?」

「冷たいな。協力し合っている仲じゃないか。――ああ、そっちの可愛い子、悪いけど相席させてもらうよ」


 振り返った先にいたのは、エルトラリュー学院の制服を着たアルティ(どうやって制服入手したんだこいつ……)だった。さらに、連れ立っている女性が一人。


「え、え? キリスト様ですの! 本当に!?」


 フランリューレだった。


「ひ、久しぶりですね。フランリューレさん……」

「感激ですわ! アルティが良い所に連れていってくれると言うから、何かと思えば! まさか、こんなにも早くっ、キリスト様と相見あいまみえることができるなんて!!」


 本当にまさかだよ。

 なんで、こんなに早いんだ。

 連合国北西のエルトラリュー学院にいるはずだろ。


「ほら。詰めてくれ、キリスト」


 アルティは当然のように相席しようと、僕に声をかけた。僕は嫌々だが、マリアの隣に移動して、二人が座れるスペースを作る。


 二人は意気揚々と席に座り、リィンさんに注文し始める。


 何とも心の休まらない四人で、テーブルを囲むはめになったものだ。

 僕は注文する二人の顔を窺いつつ、いかにしてここから抜け出すかを思案し始める。


 そして、顔を窺っているうちに、アルティがマリアを気にしているのがわかった。名前を知らない子だから、自己紹介のタイミングでも窺っているのだろうか。フランリューレは……うん、マリアは眼中にないようだ。


 とりあえずは、自己紹介をしておいたほうがよさそうだ。


「あぁ、こっちはマリアだ。迷宮探索の仲間になった」

「どうも、マリアです」


 異様な存在感を持った二人に引くことなく、マリアは毅然と礼をした。


「アルティだ。よろしく頼む」

「ヘルヴィルシャイン家七女、フランリューレですわ」


 アルティが軽く礼をして、フランリューレは踏ん反り返って名前を告げる。


「それでアルティ、何の用だよ。僕は忙しいんだけど」

「ふふ、ここで会ったのは偶然さ」

「そんなわけないだろ。偶々昼食をとっているときに鉢合わせなんてありえないし、君にはこの酒場のことを言っていない。君の何かの能力で僕の居場所を知ったんだろ?」


 僕がこの酒場の店員であることを、アルティは知らないはずだ。

 知っていたとしても、この時間帯に来るのはおかしい。つまり、アルティは僕の居場所を探れるスキルを持っている可能性が高い。昨日の口ぶりからすると、炎のあるところならば聴覚を拡げられるといったところだろうか。


「ご明察通りだ。私は炎で知覚範囲を増やせるからね。といっても、今日、君の行動を把握できたのは運が良かっただけだよ。そう、これは運命さ。そして、その運命こそが私の用でもある。わかるだろう、キリスト」


 運命こそが用。

 つまり、恋の成就のためにフランリューレを連れてきたということだろう。


 僕はできるだけ冷たくアルティに対応する。これに関しては、決して僅かな望みも持たせてはいけない。


「その運命、自分で芽がないと言っていただろう? 大人しく他の子を当たれ」

「ふふ、それでも試したいものなのさ」


 僕たちは抽象的な表現を使って、恋の依頼の話をする。

 フランリューレとマリアは何を話しているのかわからないといった顔をしていた。


「アルティ、いいからのんびり待ってろ。僕は僕でやることがあるんだよ。急かすな」

「仕方がないな。君の邪魔をするのは私の本意ではない。これ以上は黙っておこう」


 そう言って、アルティは静かになる。

 そうなれば機会を窺っていたフランリューレのターンだ。すぐに身を乗り出して、質問をしてくる。


「キリスト様!! お聞きしたいことがあります!! ええっと、まずですね――」


 フランリューレは物凄い勢いで――どこに住んでいるか、どこで食事を取っているか、どこがお気に入りの場所か、などなど――ここぞとばかりに、僕の所在を把握しようとしてくる。


「ああ、僕はいつも適当なところに泊まっているよ。食事も大体は適当で――」


 それに対して僕は、決まった場所に住んでいないという大嘘をついた。フランリューレには僕の情報を与えないように徹底しながら、質問に答えていく。


 こうして、フランリューレと談話していくうちに、自然と話題は迷宮に偏っていく。僕が迷宮にしか興味がないというのもあるが、フランリューレも迷宮の話が嫌いではないようだ。


 少しでも有意義な時間にしようと、僕は食事をとりながら情報収集していく。

 その途中、アルティは何かに気になったように口を挟む。


「――え、走ったのかい? 迷宮の5層まで、わざわざマリアちゃんを背負って?」


 アルティは不思議そうに、僕の迷宮探索方法を聞き返した。


「そうだけど、いけないのか?」


 フランリューレの会話にはできるだけ入ってこないようにしていたアルティが口を挟んだので、僕は気になって問い返す。


「いや、意外だと思ってね。キリストは次元属性の魔法使いだろう? なら、空間転移の魔法が使えるんじゃないのか?」

「ちょっと待て。なんで、僕が次元属性の魔法使いだと知っている」


 他にも気になる単語は出てきたものの、まずそこが重要だ。

 僕はそんなことを口にしたことはないし、アルティの前で積極的に魔法《ディメンション》を使ったことはない。


「ああ、隠してたのか。それなら、すまない。君の戦い方と魔法はよく知っていてね、昔の知人とそっくりだった。その知人は空間転移をしていたような……。確か、していた、……はず」


 アルティは言葉を尻すぼみにする。

 自分で言って、自分の言葉が信じられないといった様子だった。


「なんだよ。はっきりしないな」

「いや、急に思い出したんだ、昔のことを。なんでだろう……。とにかく、次元魔法には迷宮の移動を短縮できるものがあるんだ。――だよね? エルトラリューで座学トップのフランちゃん」


 そこでフランリューレに話を振る。アルティは彼女に花を持たせようと振ったつもりなのだろうが、彼女は困ったような顔を見せる。


「えっ。じ、次元魔法ですの……? 確かに、そんなマイナーな属性もあったような気はしますわ……。けど、流石のわたくしも、テストに出ないような属性の魔法一つ一つまでは……」

「あれ? この時代だと次元属性ってそんなにマイナーなのかい?」

「ええ、学院に一人もいないレベルの属性ですわ」

「うわぁー。ジェネレーションギャップを感じるなぁ」


 アルティは心底驚いたような表情をするが、僕としてはさっきから彼女が老人のような表現を遠慮なく使っているのが気になる。

 話しぶりからすると、自分が年相応でないことをフランリューレには話しているようだ。アルティが彼女とどういう関係を結んでいるのか気になったが、深入りしたくないので黙っていることにする。


 アルティはフランリューレが知らないとわかり、自分で説明を始める。


「フランちゃんが知らない以上、私が説明しようか。次元魔法の特性は、空間を支配することにあるね。それは空間を理解し、操り、繋げるということ。最終的には空間を創り、破壊もする。その魔法の中に、空間と空間を繋げるという魔法があるんだ。確か、《コネクション》だったかな。それを使えば、マリアちゃんをおぶって走るなんてことはなくなると思うよ」

「そんなことが本当にできるのか……?」


 僕は空間を破壊するといった表現に驚く。

 レベルが上がっていけば、魔法も規格外なものに変貌していくとはわかっていたものの、空間を破壊すると聞くと身体が震えた。


「できるできる。ほら、魔法をイメージしてみて。空間と空間を繋ぐ扉のイメージ、ちょっと魔法《コネクション》を創って(・・・)みようか。きっとキリストならできると思うよ。――キリストならね」


 わくわくした様子で、アルティは魔法を創れと言う。


 僕は半信半疑で、アルティに言われるがままにイメージを構築しようとする。

 ただ、それを見たフランリューレとマリアが大声をあげる。


「って、アルティ! 魔法なんて創れるわけないですわ!」

「そ、そうですよ! 魔法を創るなんて、おとぎ話の中だけです!」


 二人の声に驚いて、僕はイメージを霧散させてしまう。

 僕とアルティは、顔を見合わせる。


「え、キリスト。この時代って魔法を創れないのかい?」


 アルティは二人の剣幕に後ずさり、僕にパスを回す。


「僕に聞かないでくれ。レベルが上がれば勝手に覚えていくのかと思っていた程度にしか知らないんだ、こっちは」

「いや、私もそんな感じだよ。魔法は才能と発想で編み出すのが普通だと」


 僕とアルティは思わぬところで意見が合った。

 そんな僕とアルティの意見を聞いて、まずマリアが口早に反論する。


「そんなわけないです。基本的に魔法を独学で使えるようにはなりません。例外として魔法使いの家系の子供が、先祖の魔法を想起して使うことがありますが、『創る』とは程遠いです。先人たちの叡智をその血に刻み付けることでしか、魔法は得られないんです。何もないところから魔法は生まれません」


 マリアの反論に合わせて、次はフランリューレが言葉を続ける。


「正確には、魔術式を刻んだ魔石を飲みくだし、身体にめぐる血に覚えさせるということですわね。血に記憶されるわけですので、魔法使いの家系には生まれたときから魔法を使える子供が出てくるわけですわ。ただ、それも魔石を飲んだ親がいるという前提ですわ。つまり、魔石を飲む以外、魔法を使えるようになる方法はありませんの。二人の考えているような魔法は存在しませんわ」


 フランリューレは学院で学んだであろう用語を使ってマリアの話を補足する。

 探索者たちの談話からでは得られなかった初耳の情報だ。


 どうやら、マリアとフランリューレは魔法についての造詣が深いようだ。

 少しばかり怒気の含んでいる二人を、これ以上刺激しないように僕は答える。


「わ、わかったよ……。魔法について教えてくれてありがとう。えっと、つまり、魔術式の入った魔石を飲むのが、正しい魔法の覚え方……でいいのかな?」

「そうなりますわ」

「そうです」


 マリアとフランリューレは同時に頷いた。

 どうやら、僕の答えに間違いはなかったようだ。僕は良い切っ掛けができたと思って、魔石について話を続ける。


「それじゃあ今日は、その魔石というやつを買いに行こうかな……?」


 マリアと僕の食事が終わったのを確認して、ここから抜け出す口実を作りはじめる。

 マリアも知らない人との食事を長引かせたくないのか、それに同意する。


「それはいいですね。お腹も膨れましたし、行きましょうか」


 僕とマリアは買い物のために席を立とうとする。


「で、でしたら! キリスト様、わたくしがご案内いたしますわ! 最高級の魔石を取り揃えたお店を知っていますので――」

「おいおい、フランちゃん。今日は用事があるだろう? ここに寄ったことで時間もギリギリだ。それは諦めたほうがいい」

「ぐ、ぐぬぬ。そうでしたわ……。今回は諦めるしか……」


 どうやら、二人に時間の余裕はないようだ。

 僕たちについてこようとしたフランリューレをアルティが引き止める。


「じゃあ、僕たちは先に失礼させてもらうね。二人はご飯をゆっくり食べてるといいよ」


 僕は一秒でも早く離れるため、リィンさんにお金を払って店から出ようとする。

 マリアも二人に礼をして足早に離れようとする。


「では、また会おう。キリスト、マリアちゃん」

「キリスト様。機会がありましたら、またお会いいたしましょう!」


 最後に別れの挨拶を済ませて、僕とマリアは店から出る。


 僕は記憶の中にある魔法に関わるお店を思い返し、歩き始める。

 歩き始めた僕に追いすがって、マリアが話しかけてくる。


「あれ、本当に行くんですか?」


 マリアは魔石云々を逃げるための口実としか思っていなかったようだ。


「一応ね。興味が出てきた」

「興味ぐらいならいいですけど、魔法の刻まれた魔石は高いですよ。学院に通っているような人にとっては、ただの買い物ですけど、一般人にとっては恐ろしい値段です」

「大丈夫さ。お金はある」


 どうやら魔法を覚えるためには大金が必要なようだ。だが、まだまだ僕の残金はある。

 新居に金貨十枚、マリアに金貨四枚使ったものの、まだ金貨は七枚も残っている。手を出すつもりはないが、ディアの取り分である金貨二十枚も僕が所持しているため、お金が尽きるということは、まずない。


 金貨一枚あれば当面の生活に支障は出ないのだから、魔法習得に関しては金貨六枚ほどの予算があることになる。


「とりあえず、見に行こう。できれば、マリアに魔法を覚えさせたいからね」

「え?」


 優先順位は僕よりもマリアのほうが高い。

 僕は剣のほうが攻撃力も高く、勝手がきくし……仮に新しい魔法を覚えたとしても、MPのほとんどは次元魔法に回すことになるだろう。普通の魔法で、魔法《ディメンション》の応用力を上回れるとは到底思えない。


 だから、僕はマリアに魔法を覚えさせると言った。

 ただ、マリアは信じられないものを見るような目で答える。


「私に魔法を?」

「マリアにも迷宮探索をさせようとしてるんだ。そのくらいの出資はするさ」


 レベルが7になったので、簡単な戦闘も手伝わせようと思っている。

 ステータスを見る限り、マリアは魔力が突出している。魔法さえ覚えてしまえば、並の探索者を超えてしまうだろう。


「魔法を覚えた私が、そのまま逃げるとは思わないんですか?」

「……思わないよ。というか、マリアには逃げる先がないんだろう?」


 マリアは乗り気ではないようだ。

 それどころか、魔法を覚えてしまえば逃げてしまうかもしれないと僕に示唆する。

 それを軽く僕は否定した。


「それは、何の力もない場合の話です。こんなにレベルが上がってしまって、さらに魔法も使えるようになったら、話は別ですよ。もし私が逃げて、ご主人様の能力の情報を売って、そのお金で一人立ちしようとでも考えていたら……どうするんです!?」


 マリアは僕の軽い態度に対して、声を荒げた。

 確かにマリアの言うことも尤もだ。

 だが、そうなったとしても僕は構わない。


「逃げるのはいいけど、僕の情報が漏れるのは嫌だな……。そのときは、情報だけは黙っててくれないかな。頼むから」

「……に、逃げてしまえばご主人様のことはワタシに関係ないんですよ!?」

「マリアはそんなことしない気がするよ。……たぶんだけど」

「……っ!!」


 そんな僕の軽い口調にマリアは言葉を失った。


 これは意識の差だ。

 僕はどっちでもいいと――どう転ぼうと許容しきれる問題だと思っている。だから、適当な事ばかり言っている。


 マリアは奴隷が主人に逆らうのは大罪――自分は主人に尽くすのが当然だと思っている。だから、真剣に事を考えている。


「…………」

「…………」


 マリアは沈黙をもって、僕のことを非難し続ける。


 またマリアの自由について長々と話してもいいが、それでは昨日の繰り返しになる。

 そもそも『炯眼』持ちのマリアならば、僕の言いたいことなんて、この沈黙の間に察しているはずだ。だから、僕は何も言おうとは思わなかった。


「はぁ……、もう……。そこは自信をもって言い切ってくださいよ……」


 先に沈黙を破ったのはマリアだった。

 予想通り、『炯眼』で僕の言いたいことを察した様子だ。そして、僕の「たぶんだけど」という自信のなさの方を咎めた。


 僕と同じく、意識の差については議論しても無駄だと判断してくれたようだ。


「言い切れるほど、僕はマリアのことを知らないからね。ただ、そもそもそんなこと言うような子は、そういうことをしない。……しないはずだと思う」

「なんですか、その理論。甘々ですね」


 元の世界での映画や漫画の知識だ。

 物語のセオリーではそういうものが多い。


「甘いのはわかってる。けど、方針は変えないよ。いまからマリアの魔法を買いに行く」

「甘いです……。本当に甘い……」


 マリアは呟き続けながら歩き出す。

 文句は多いが、とりあえず僕の方針に従ってくれるようだ。


 この様子ならば大丈夫だろうと推測する。


 けど、正直なところ、そんな推測は当てにならない。だって、僕に人を見る目なんてものはないのだから。

 人のステータスを『表示』で盗み見て、数字ばかりで判断する僕には、一生身につかないものだろう。


「ははっ」


 そんな自分自身の(サガ)を恨みながら、僕はマリアに笑いかけ、二人で並んでお店まで歩き始めた。


 


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中途半端に根が善人な小物主人公、、、尊い
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