彼はいつも耐えていた。
何年も土の下で、夢を見ていた。
巡り行く季節の中で、何度見ただろうか。
光が差す地上を飛ぶ自分の姿と、そこから見える景色を。
辛いと思うたびに、「もう少しで太陽が見える」と、自分を騙し続けてきた。
うん、きっとそうだ、ひょっとしたら明日かもしれない。
彼はだけど知っていた。
太陽というゴールのすぐ後に、死と言うもう一つのゴールが存在する事を。
だから、彼は自分に問い続けた。
「自分は一体何のために生まれてきたのだろうか」と。
誰からも賞賛されることなく、暗い土の下で何年も過ごし、そして地上へ出たらほんの数日で死んでしまう。
そんな僕の一生に何の意味があるのだろう。
彼はそれでも喜んだ。
何年も、何年も夢見た地上だ。
明るい地上、音が聞こえる地上、暖かい地上。
なんて素晴らしい世界なんだ。
風が気持ちいい、早速飛んでみよう。
……あれ、結構難しいぞ。まだ慣れていないからかな、頑張らないと。
彼は無邪気に飛んでいた。
地中で想像したほど高くは無かったが、彼にとっては十分だった。
ついさっきまで地中にいたとは思えないほどの清清しさが彼を包んでいた。
すごい、すごく広い。これが地上か。
長い間我慢した甲斐があった。こんな光景をずっと夢見ていたんだ。
彼はひどく悲しんでいた。
地上に出てから何日かが経った。
もう自分の命が長くないという悲しい事実が、朝から彼の頭を離れなかった。
最初から分かってはいたけれど、悲しかった。辛かった。土の中で我慢するより辛かった。
もっともっと、もっとこの世界で生きていたいと思ってしまった。
我慢していたときは、潔く諦めようと思っていたけれど、実際に地上の世界をこの目で見てしまった。
光を見た、音を感じた、風を受けた、空を飛んだ。この世界は楽しすぎた。
彼は再び自分に問い始めた。
あの疑問を。
やっぱり、自分の存在に意味なんか無いのだろうか……
耐えるだけ耐えて、その成果はほんの一瞬。
不公平な世の中だとしみじみ思う。
せめて、何か自分が存在した事を残せないかな。
自分に気づいてくれないかな。
彼はうるさく鳴いていた。
長い年月過ごしたすぐ近くの木で。
「あの夏は蝉がうるさかったな」
と、地上の支配者の記憶に残る事だけをただ望んで。
存在に意味が無いのならそもそも僕はいないはずだ。きっと何かあるんだ。
僕はここにいるよ、ここに。
彼は鳴き続けた。
彼は鳴き続けた。
彼は鳴き続けた。
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