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琥珀色の風
作:徳次郎



◆第62話◆


 小走りに国道へ出て、後は普通の歩調で歩きながら息を整える。息切れさせて彼と会うのはみっともないと思った。
 普通に歩いているはずなのに、早い鼓動が収まらない。
 ――ヤバイ。めちゃくちゃドキドキする。
 優子は歩きながら、何度も深く息を吸った。
 駅前の国道まで来て横断歩道を渡ればもうロータリーだ。その向こうに公園が在る。
 水銀灯に照らされた公園に佇む人影が既に見えていた。
 優子は忍の影を見て、久しぶりに緊張した。
 横断歩道の信号が青に変わると、優子は思わず小走りに駆け出しす。
 ロータリーを横切って公園の入り口まで来ると、彼女の息使いに気付いた忍が振り返って軽く手を上げる。
 優子は白い息を吐きながら自然に笑みを零した。
「そんなに急いでこなくても大丈夫だったのに」
 彼女を見て忍が笑う。
 ――だって、待ってるのが見えたらつい急いじゃうじゃん。


 石畳の敷かれた公園の四方には木製のベンチが幾つも置かれている。
 そのひとつに二人は腰掛けた。
 肩と方の間には、やっぱり微妙な距離。
「これ、プレゼント」
 忍が紙袋からそれを取り出して優子に差し出す。
 彼女が異性からプレゼントを貰うのはコレが初めてだ。しかも、相手は高森忍。
 心の準備はしていたが、胸の鼓動は再び跳ね上がる。
「あ、ありがとう……別に、よかったのに……」
「そんなわけにはいかないだろ。でも、危なく知らないまま通り過ぎるところだったよ」
 ――や、やっぱり知らなかったのか? じゃあ、一葉が?
「だ、誰かに訊いた?」
 忍は鼻の頭を人差し指で軽く撫でると
「安西がさ……メールで教えてくれたよ」
「あ、安西が?」
「ああ……でも、コレで貸し借り無しだ。って言ってたけど。何?」
「えっ? 貸し借り?」
 ――あれか? 学校裏サイトの時の一件か?
 優子はわざと首を傾げて笑った「さぁ……な、何かな?」


 ベンチに座って何分過ぎただろうか……
 二人はポツポツ話をしては短い沈黙の繰り返しだ。忍も少しだけ何時ものリズムでないような、そんな感じは優子にも判った。
 ――ど、どうしよう……何だか何時もと違う雰囲気……これって、何だろう。
 身体がわけも無く火照っていた。
 冷たい夜の空気に微かに香る忍の爽やかな匂いに、優子は何時もより何故か敏感に反応した。
 電車が到着して、駅から人波が流れ出るのを背中で感じながら会話を続けるが、優子自身も何かを待っている。
 ――な、なに……あたし何を待ってるの? これ以上何を期待するのさ。
「そろそろ帰ったほうがいいかな?」
 忍がそう言って立ち上がった。
「う、うん。そうだね。勉強しなきゃ」
 優子もはにかんで立ち上がる。
「寒くないか?」
 忍は自分が首に巻いた赤いフリースのマフラーを取ると、優子の首に巻いた。
 ――よかったあ、マフラー巻いてくるの忘れて。
「あ、ありがとう……」
 二人は静かに歩き出した。
 駅から出て来た人の波は消え、穂のかに街路灯の明かりだけが辺りを照らし出す。
 本屋の隣のレンタルショップの明かりだけが煌々と街の灯を残していた。
「今度また、映画行く?」
 横断歩道を渡りながら忍が訊く。
「うん。いいよ」
「じゃあ、試験が終わったら」
「うん」
「少し先だけど、クリスマスはどうする?」
 ――どうするって? 何? 何するの……?
「う、うん。どうしよっか……」
「何処か行く?」
「う、うん。いいよ」
 ――クリスマスって、普通何処行くの?
 優子は唾を呑み込んだ。
「じゃあさ、考えておいて」
「えっ? あたしが?」
「たまにはいいだろ。優子の行きたい所へ行こうよ」
 ――そ、そんなの判んないよ……やっぱあれ? ディズニーリゾートか? それともお台場?
「判った。じゃあ考えておくね」
 歩きながらの方が少し話し易かった。が、しかしその分時間は早く過ぎてゆく。
 もう何時もの別れ道まで来ていた。
「マフラー有難う」
 優子がそう言いながら自分の首に手を掛けると
「ああ、いいって。これはお前にやるよ」
 忍は優子の手をそっと押さえた。
 彼の冷たい指が優子の手を刺激して、低アンペアの電流のようにそれが全身に行き渡る。
 その瞬間、彼の唇は優子の唇を捕らえた。
 フレンチな一瞬のキス。
 しかし、優子はあまり驚かなかった。何処かでこんな瞬間を待っていたのかもしれない。
 鼻の奥にツンと広がる微かな甘い香りは、高森忍の唇の匂い……
 伏せた視線を上げて、忍を見つめると
「あ、ありがとう」
 忍は何時もの笑顔を優子に注いで
「じゃあ、また明日な」
 そう言いながら少し後ろへ下がると、優子が手を振るのを確認してから踵を返して歩き出した。
 ――はぁ……緊張した……
 優子は自分も向きを変えてから、深く息を吐いた。
 静寂した清らかな空気の中で、心の真ん中がジンと熱くなった。









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