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琥珀色の風
作:徳次郎



◆第49話◆


 中間考査も終わって忍は当たり前のようにTOPをとり、やはり安西ひとみは2位。女子では1位の成績だった。
 11月に入ると校舎裏の雑草も褐色に変わって景色全体が冷涼なものに変わる。
 花壇に咲いていたコスモスも、気付けば何時の間にか枯れ草になって干乾びていた。
 優子は放課後、クラス委員の雑用で教材の用具室を片付けていた。
 それは職員室と保健室に挟まれた小部屋で、スチールの棚が幾つも並ぶだけの殺伐とした場所だ。
 窓は在るが、陽の入りが悪くて薄暗い。
 ちょっぴり環境に変化のあった優子も、クラス委員としてのこんな立場は変わらない。
「ちょっと舟越、ボケッとしないで早くそれしまってよ」
「ああ、ごめん。でもさ、この漢字表記のパネルスゴイよ。知ってた? 凸凹って正式な漢字表記だったんだね」
「はあ?」
 ――ていうか、んなの今はどうでもいいんだよ。
「じゃあ、あたしゴミ捨ててくるからね」
 優子はそう言って教材部屋を出る。
 ――なんだかなぁ。独りのほうがかえってやり易いよ。あいつなんでもかんでも興味示しちゃうし、手は遅いし全然はかどらないよ。
 優子が廊下に出ると、保健室の先に在る生徒相談室から一人の男子生徒が出て来た。
 ――うわっ、金髪だよ。あんな生徒ウチの学校にいたっけ?
 彼は室内に向って一礼していた。
 優子はこんな時の予測が足りない。
 その生徒が振り返ったら歩き出す事を予測して、少し離れてそこを通るべきだったのだ。
 しかし、彼女は彼の直ぐ後ろを通ろうとした。
「きゃっ」
「あ、っと、わりい」
 振り返りざまに歩き出そうとした生徒と優子はぶつかった。
 彼女は、抱えていたダンボールは落とさなかったものの、溢れるほどに入っていた中身が少々こぼれ落ちた。
 古い黒板消しやボロボロのジャンボ三角定規などが床に落ちて音を立てた。
「ああ、ごめん」
 ――もう、後見てから歩き出せよ。
「あ、うん……」
 男子生徒は、両手の塞がった優子の変わりに落ちたものを拾ってダンボールに入れてくれた。
「重くない? 手伝おうか?」
 ダンボール越しに微笑む男の髪が、サラサラと黄金色に揺れていた。
 ――うわっ、完全金色だよ。これはいくらなんでもヤバくない? ていうか、だから相談室だったのか?
 生徒相談室は普段、生徒の個人指導などにもよく使われるのだ。
「あ、だ、大丈夫よ。平気」
 ――あんまり関わりたくないわ。早くここから離脱しないと。
「いいからいいから、俺が持ってやるよ。何処に運ぶの?」
 彼はそう言って、優子の手からひょいとダンボール箱を奪った。
「えっ、いや……あの……」
 ――いいって言ってるのに、何でだよ、もう。何だよコイツ。
「あ、あの……焼却炉のところに……」
 ――うわ、言っちゃった。この金髪と歩くのか?
「焼却炉は? 何処?」
「あ、この先の方」
 優子はそう言いながら先に歩き出して彼を促す。
 仕方がないので、箱から著しく飛び出ているジャンボ定規とジャンボコンパスを手に取った。
 ――なんだ? どうして焼却炉判らないんだろ。きっと、ゴミ捨てなんてしたこと無いんだ。そうだ。
 優子が歩き出すと、それについて彼も歩き出しす。
「キミ、何年生?」
「えっ、えっと、二年……です」
「俺も二年なんだ。B組に明日から入るんだよ」
 ――ああ、転校生? なるほどね。でも、いきなり金髪か?
「俺、篠山雄二郎。キミ、何組?」
「あ、えっと……Cだけど」
「あ、じゃあ隣なんだね」
 雄二郎はそういって優子に笑いかける。
 ――だ、だから何? 同じクラスじゃないんだから全然関係ないし……
 優子は無意識のうちに足早になっていた。
「なあ、名前は?」
「えっ、あ、い、五十嵐……」
「ゴツイ名前だな」
 雄二郎が笑った。
 ――ほっとけ。
「ねぇ、下は、下の名前」
「ゆ、優子よ」
「そう。ゆうの字は衣偏の裕? それともにんべんの優しいって字?」
 ――そんなのどうでもいいじゃん。何であたしなんかに興味示してんだよ。ていうか、初対面でどんだけ喋るんだよ。
「や、優しいに子よ」
「ああ、そうなんだ」
 雄二郎は終始明るく笑って、相づちを打った。
 焼却炉の横には不用品置き場がある。コンクリート剥き出しの小さな建物は言い換えれば粗大ゴミ置き場だ。
 優子は鉄の扉を開けると、持っていたものを小分け用の箱へ投げ入れる。
 雄二郎は床に箱を置いて「これ、分別要らないの?」
「い、いらないと思うけど……」
 ――こいつ、意外と細かいのか? A型か?
 優子はよくここへ来るが、分別なんて考えた事もなかった。考えてみれば、金属も木製もプラスチックもごちゃごちゃに置いてある。
 小分けの箱も実際は意味がないのだ。
 しかし、業者が引き取りに来るのか、時折綺麗になくなっているので、特に問題は無いのだろう。
 焼却炉は校舎の裏側にある。
 少し離れた場所には駐輪場、そしてその向側は体育館の裏に面している。
 もっと先には学校の裏門が在る。
 優子が雄二郎と並んで校舎へ戻ろうとした時、裏門からロードワークに出たらしきバスケ部の連中が戻って来た。
 その中には忍の姿もある。
 優子は咄嗟に雄二郎と距離を置いた。
「どうしたの? 早く戻ろうぜ」
「う、うん」
 ――ていうかあんたと一緒に戻る筋合いはないし、あんたとあたしは行き場所違うでしょ。
 優子が忍を見ていると、彼も気付いたらしく小さく手を上げた。
 ――うわ、こ、こんな時ってどうするの? あたしも手え上げる?
 優子は体育館の出入り口へ向う忍に向って小さく胸の辺りに手を上げて、微笑んで見せた。
「なに? あれって、彼氏とか?」
 雄二郎は少し先からわざわざ優子の所へ戻って来て、彼女の視線の先を覗き込む。
「えっ、い、いや。別にそういうんじゃ……」
 優子はそう言って
「あ、ありがとう。助かったわ」と校舎の中へ足早に歩き出した。









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