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琥珀色の風
作:徳次郎



◆第32話◆


 学園祭初日。
 身体にムチ打つ思いで何時もより大分早い時間に学校へ来た優子は、届いていた食材を受け取って教室に入り、今日のチェックを済ませると校舎の外を眺める。
 校舎の端にある正門から入ってくる生徒の姿が、なんだか虫の大群のように大勢見えた。
 何時もは自分が誰かに見られているのかと思うと、何だかその光景に優越感が湧く。
「おはよう」
 教室の戸を開けて入って来たのは美菜と一葉だった。
 今日は体育館で直接朝礼の後3時まで解散になるので、教室へ来るのは模擬店係りの連中だけだ。
 一葉はカバンから大き目の化粧ポーチを取り出して、テーブルに置く。
 今日明日は、いくら化粧してもお咎めがない。
「あたし、優子にいいもの作って来たよ」
 美菜が近くのテーブルに荷物を置くと、笑顔でカバンを開けた。
 ゴソゴソと彼女の取り出したモノに、優子は軽い衝撃を受ける。
 ――なっ、何……それ……
 美菜がカバンから取り出したのは、カチュウシャに三角の生地が肉厚で二つ着いたモノだった。
 そう、それは世間ではネコ耳と呼ぶ。洋服に合わせたのか、クロネコ風だ。
 昨日みんなで頭につけるレースのカチュウシャは作った。
 白い清楚な、いかにもメイドが着けるやつだ。
 優子も自分のを作っている。
「優子は責任者だからさ、何かみんなと違うしるしがあった方がいいかと思って」
 美菜はのほほ〜んと、いかにも平和な笑みを浮かべる。
 ――な、なんで責任者の印がネコ耳なのよ。ネームプレートとかでいいじゃん。腕章とかでもいいじゃん。ていうか、別にそんなの無くていいじゃん。
「ああ、なるほど。シャアザクの角みたいなものね」
 一葉が言った。
 ――何でよ! 例えがおかしいだろ。あれは士官の印だよ。それが何でネコ耳になっちゃうわけ? どういう発想なんだよ、それ。
 ていうか、あたしらの世代でその例えはおかしいっつーの!
「で、でもさ。これって、なんか恥ずかしくない?」
 優子は苦笑することしかできない。
「何いってるの? だいたいメイド服着ること自体恥ずかしいんだから、別に今更変わんないじゃん」
 一葉がそう言って、美菜の手から奪ったネコ耳カチューシャを、優子の頭に取り付ける。
「ああ、似合うじゃん」
 ――なら、あんたが着けろっての。
「じゃあ……一葉に譲ってあげるよ。これ」
「だってぇ、あたし責任者じゃないじゃん」
 ――んなの知るか。だからどうしてネコ耳で責任者を識別する必要があるのよ。それが無くても誰も困らないでしょ。
「でも優子、思った以上に似合ってるよ。カワイイし。うん。夜中までかかって作った甲斐あったよ」
 美菜の長閑な微笑みに、何だか優子も気が抜ける。
 ――いや…そこまでして作ってくれなくても……ていうか前から思ってたけど、美菜の笑顔ってちょっと卑怯だわ……


 学園祭が始まると校内外はうろつく生徒で校舎内外は終始賑やかになる。
 体育館ではベタな演劇公演やバンドコンクールも行われて異常な盛り上がりを見せ、映像研究会はチープな自作の映画などで微妙な人気をとっていた。
 模擬店の出し物は何処もそれなりの入り具合で、本番は日曜日の一般客をターゲットにしているので、それ自体は仕方がない。
 ましてや、優子にしてみればメイド服姿など同じ学校の連中にはできるだけ見られたくないとうのが本心だ。
「なんかさ、みんなんでここにいなくてもよくない?」
 不意に鈴香は言った。
 優子のクラスのメイド喫茶はポツリポツリとお客がくるものの、たいしたものではない。そこに5人のメイドがいるのだ。
 優子と一葉、そして美菜と鈴香、由香だ。
 自他共に吟味した容姿の結果、自然に彼女達にメイドが決まったのだが、もちろん優子は責任者という事で例外だ。
 とはいえ、優子もそれなりの容姿でなかったら、裏方にまわされていたはずだろう。
 本当は全員分のメイド服を作る予定だったが、生地が足りなかったし時間も無かった。
 特に一番ウエストの太い娘は、最初に除外されたほどだ。
 午前中はマンツーマンで対応してもいいほど、みんなが手持ち無沙汰になっている。
 しかし、当然のように形だけのメイド喫茶。
 そんな気の利いた対応など思いつかないというか、だれもやりたくないのが本音だ。
 だいたい来るお客といったら、同じ学校のはずなのに妙に馴染みのない連中だったりする。
 他にも裏方のみの娘が3人ほどいるが、はっきり言ってやることが無い。
「そうだね、手分けして遊んで来てもいいんじゃない?」
 優子が仕方なく言うと、結局手分けして遊んでくる事が決まった。
 そもそもこの場を一番抜け出したいと思っているのは優子自身だった。
 こんなネコ耳なんて着けてるのがあまりにも情けない。
 しかしせっかく作ってくれた美菜の手前、せめて今日は着けなくいいんじゃない。とも言えないのだ。
「じゃあ、あたし出かけてくる」
 最初に手を上げたのは鈴香だった。
 ――チッ、先越された……でも、あたしは出かけ難くない? 一応責任者だし。
 鈴香やみちるの他全部で4人が最初に抜ける事になって、早速教室を出て行った。
「大丈夫かな」
 一葉が少し不安げに言う。
「何が?」
「あの娘たち、ちゃんと戻って来るんでしょうね」
 一葉の言葉に優子も思わず不安が広がる。
「大丈夫でしょ。校内にはいるんだしさ」
 美菜の言葉に優子は胸を撫で下ろすが、とりあえずこの店が繁盛しない事を密かに願っていたのは言うまでもない。








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