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琥珀色の風
作:徳次郎



◆第29話◆


 少年は自分がみんなに好かれる人間になれば、母親は戻って来ると信じていた。
 学年でトップの成績を取ったのは小学3年生の時だ。
 その後はずっとトップを取り続けた。
 5年生の時には副会長、6年生の時には生徒会長にぶっちぎりで当選した。
 しかし、母親は戻って来てはくれなかった。
 中学二年の時に、父親は再婚して、本当の母親には二度と会え無い事を知った。

 新しい母親はいい人だった。
 しかし、彼女は父親の妻あって自分の母親ではないと思った。
 それは、彼女がもたらす雰囲気からも何となく感じた。

 父親は仕事が忙しかった為に、自分の息子の面倒は見なかった。
 母親がいない間はずっと家政婦がいた。
 給料の要らない家政婦。
 それが今の、母親と言う肩書きの女性だ。

 習慣と言うものは恐ろしい。
 もう誰からも好かれる人間になっても仕方がないと知りながら、他の自分が見つからない。
 自分はいったいどんな子供だったのかなんて忘れてしまった。
 いや、物心ついた時にはもう、人に好かれようと努力していたのだ。
 だからきっと、今の自分が本当の自分で、それ以外には何もないのかもしれない。
 ……俺の内側って、空っぽなのかな……


 * * *


 裏路地とはいえ、そこは店舗が軒を連ねて度々人が交差する。
 少し入り組んではいるが、表参道に抜ける事ができるのだ。
 コツコツと石畳を打つヒールの音が通り過ぎていった。
 鈴香は再びフフッと笑い声をあげると
「優子じゃあ、内緒にもしたいよね」
 ――なっ、どういう意味よそれ。どうしてあたしと付き合うのは内緒にしたいのさ。内緒にしたいのはこっちだよ。へんなとばっちり受けるのはあたしなんだから。
 ていうか、付き合ってなんかないんだってば。
「そんな事はないけど、優子が周りに知れるのは嫌かと思ってさ」
 忍は鈴香に向って言った。
「確かに沢山妬まれそうだもんね。あたしもショックだけど」
 鈴香はそう言って直ぐ
「じゃあ、とりあえず頑張ってね」
 二人と二人は路地で場所を入れ替わるようにすれ違う。
 鈴香の隣にいたひょろ長い彼氏は、最後まで一言も声を発しない。
「あ、あ、あのね、鈴香……」
「判ってるよ、内緒にしておいてあげる。こんど何かおごれよ」
 鈴香はそう言って優子に笑顔を送って立ち去った。
 彼女はある意味、何処かで優子を馬鹿にしていた。
 暗いというか存在が薄くて、クラス委員のくせにいてもいなくてもクラスは変わらないし、普段からそんなに親しくしていたわけでもない。
 嫌いなわけではないが、まったく目立たない彼女を何処かで見下していた。
 しかし、忍と二人で歩く彼女の姿を見て、素直に女として認めたのだ。
 どういう経緯があったとしても、自分で見た光景は真実なのだ。
 優子は忍と二人で出かける間柄なのだ。
「そういうんじゃ……」
 ――そういうんじゃないんだよ。ていうか、そう見えて当たり前なのか?
 優子が困惑して忍を見上げると、彼はいたって平然と鈴香に軽く手を振っていた。
 少しカーブした路地の先に鈴香の後ろ姿がまだ見えたが、優子と忍は歩き出した。
 こうして見ると、高森忍は校内で人気の在るのは確かだが、誰もが自分の彼氏にしたいと思っているわけではないのだ。
 ある者は憧れの眼差しで、ある者は知り合い、又は友達で在る事で満足している。
 確かに出来れば付き合ってみたい男なのかもしれないが、校内生活を楽しくする為のアイテムなのかもしれない。
 鈴香のように、他に彼氏のいる女子が「高森好き」と公言する様は、まさしくそうなのだ。
 しかし、中には安西のように本気で忍を好きな女子がいるのは確かで、優子は何時そんな連中から目の仇にされるかわからない。
 そんな中、優子の心は迷っていた。
 忍の心が判らないから……
 自分をどう思っているのか明確に判らないまま何となく時間だけが過ぎてゆく。
 自分が彼をどれだけ好きなのかも判らないし、本当に好きかも判らない。
 そんなものは形や量がはっきりと示されるものではないから、もしかしたら永遠に判らないままかもしれない。
 ――みんなは、何を基準に好きな度合いを測るんだろう……どうなったら好きだって証になるのかしら……









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