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琥珀色の風
作:徳次郎



◆第26話◆


 翌日、模擬店を出すクラスや部の集まりがあった。
 完全なバッティングを防ぐ為の配慮だが、喫茶店、クレープ屋、カフェ等が全部で10店もある。
 メイド喫茶、メイドカフェ、萌えカフェとその中の半分はメイド系を思わせる企画だ。
 その他にも占いカフェやお絵かきカフェ。不思議カフェ? なんてモノもある。
 パソコン研究会ではネットカフェを持ち出してきた。
 学園祭に来てまでネットカフェに入り1日を潰してしまう客は、なんだか悲しい……
 模擬店などの出し物は文化部が中心で、クラス単位で出すのは全校内で6クラスのみ。
 各学年2クラスと割り振られている。
 その中でどうして優子のクラスは参加なのか? 
 答えは簡単。くじ引きで引き当ててしまったのだ。
 しかも、それを引いたのは優子本人だから、もはや文句も言えない。
 逆に責められなかったのが不思議なくらいだ。
 そんな中で、優子が少しホッとしていたのは、やはり同業種が多い事。
 当日はメイドの姿がけっこう多いから、自分たちもたいした目立ちはしないだろうと一安心した。


 学園祭までは2週間ある。
 まだ2週間もあると、誰もが楽観的だった。
 しかし、準備は進まないまま最初の土曜日まではあっと言う間に過ぎてゆく。
 優子は模擬店のメンバーに仕方なく声をかける。
「あ、あのさ、今日詳しいこと決めないとヤバくない……かな」
「ええっ、あたし今日彼氏と出かけるんだけど」
 鈴香が言った。
 ――んなの知るか。あんたも決められたメンバーなんだから少しは考えろっての。
 もちろん他のメンバーも多少はやらなければという気は在るのだが、作業は面倒というパターンだ。
「でもさ、あたし洋服なんて作れないよ」
 一葉が困惑して言う。
 彼女の指先が異常に不器用な事は、優子も知っている。
 前にデコレーションケーキを家庭科で作ったとき、彼女がスポンジに下地のクリームを塗ったら、それだけで妙に不味そうに見えた。
「あ、あたしさ、みんなの分作ろうか?」
 そう切り出したのは斉藤美菜だ。
 彼女の母親は縫製工場で働いている。小さな工場だが少量生産のデザイナーズブランドを作る隠れ工場だ。
 その影響か知らないが、美菜は洋裁が得意で手作業も早い。家にはロックミシンも在るという。
「ほ、ほんと?」
「うん。じゃあさ、こんな感じでどう?」
 美菜は携帯デジカメで撮ったサンプルの写真を見せる。
 モノトーンのシンプルなメイド服だが、エプロン部分の淵や衿と裾にレースを使っているのでいかにもそれらしい。
 美菜は自分で一着すでに作っているらしいのだ。
「いいじゃん」
 一葉が言った。
 ――ていうか、いつの間に作ってんだよ。もしかして美菜って、コスプレの趣味でもあるのか?
 優子も写真を見て、笑顔で頷いてみせる。
 みんなもそれで納得しているようだ。
 中には早く決めたくて適当に頷いている者がいるのも確かだが……
 そんな感じで美菜が衣装を担当、他の連中は週明けから教室の飾りを放課後作る事で話はまとまった。
「ねえ優子、さっそく生地買いたいんだけど。そうすれば週末でかなり造れるから」
 みんながバタバタと帰る中、美菜にそう言われた優子は彼女に付き合って、さっそく帰りに生地屋へ寄る事にした。
 バイトがあるという一葉と駅で別れて、優子は美菜と一緒に吉祥寺まで行く。
 大きな専門店があるのだ。
 店内に入ると、二人は生地コーナーヘ向った。
 黒い生地、白い生地といっても何10種類もある。
 しかし予算が少ないから選択肢は限られている。
 優子がただ眺める横で、美菜はあれこれ手触りや光が当たった時の見え具合などを丹念に吟味して選んでいた。
 買い物が終えた帰り、駅前のファーストフード店でちょっとだけお茶をする。
「ねえ、優子。最近高森があんたの事よく見てたりするけど、気付いてる?」
「えっ? そ、そうなの? ぜんぜん、気付かなかった」
 ――そ、そうなのか? あいつ、時々視線は感じるけど、やっぱり見てるんだ。あたしの気のせいじゃないんだ。
 優子はさり気ない笑顔を維持しながら、バジルポテトに手を伸ばす。
 ――ていうかあんた、そんなにしょっちゅう高森の事見てるんだ。
「高森って、安西と噂あったけど、どうなんだろうね」
 美菜がカップを手にして言った。
「ど、どうって?」
「今は全然二人で話してる事なんてないし、本当に昔付き合ってたのかな?」
「さあ、どうだろうね」
 ――いや、昔付き合ってたらしいよ。ホント。
「み、美菜も高森の事、好きなの?」
 美菜は両手でココアのカップを持って、虚ろな視線で何処か上の方を見上げると
「好きっていうかさ、あいつ見てると何かこう、カッコイイ服とか作ってあげたいなぁ。なんて」
 ――そっちかよ。ていうか、あんたの趣味って何?
「美菜って、よっぽど洋服作るの好きなんだね」
「あたし、洋裁の学校に行くんだ。そして将来コスプレ用の洋服メーカーを造れたらなぁって」
 ――そういう方向か……でも、将来の目標がちゃんとあるんだ。あんたスゴイよ。
「へえ、すごいね」
 優子は美菜に笑顔を送ると、二階の窓から見える駅周辺の雑踏に視線を移した。









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