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琥珀色の風
作:徳次郎



◆第19話◆


 翌日の学校。
 優子は一葉と里香と一緒に教室の隅で雑談をしていた。
 優子が気軽に話せるのは、この二人くらいだ。
 他のクラスメイトも女子とはひと通り片言の会話を交わした事はあるが、何となく仲良くなれない。
 一葉や里香は、他の女子とも仲がよくて、特に一葉は社交的な性格もあって同性の間では人気が高い。
 ただ、男子に対してもけっこうズケズケと言葉を発するタイプだから、中には敬遠する異性もいるようだ。
 優子は彼女達と小さな笑い声を上げながら、対角状の片隅で他の男子と戯れる忍の姿を視界に納めていた。
 日を追う毎に、いや彼と二人の会話を交わす度に忍への興味が増してゆく。
 確かに自分をどう思っているかも気にはなるが、それ以上に彼がいったいどういう環境で生活しているどんな人間なのか。
 そんな事が気になるのだ。
 それは、ある意味高森忍をもっと知りたいという欲求に他ならないのだろうが。
 それでも優子は自分から忍に話しかける事はできない。
 この内向的な性格が、急に変わるようならとっくの昔に変わっているだろう。
 優子にとっては、再び忍が声をかけてくる時、あるいは偶然二人きりで会う時を待つしかないのだ。


 * * *


 金曜日の放課後、優子は図書室で古い書籍の整理をしていた。
 本来図書委員の仕事なのだが、担任教師が図書委員の顧問で、人手が足りないと言うので借り出されたのだ。
 珍しくそこには舟越の姿もあった。
 作業は単調だがなかなかはかどらなかった。そもそも図書委員の仕事であるにも関わらず、肝心の彼ら彼女らはお喋りに夢中で大して手が動いていない。
 不要な古い本を処分する為に紙紐で束ねて結わえるのだが、優子がもう10束も作っているのに、連中はまだ2〜3束しか結わえていないのだ。
 ――ったく、何であたしがこんな事しなくちゃいけないのよ。もう。
 近くにいる舟越は、話す相手がいない為雑談には加わっていないものの、何だかボケッとして手が遅い。
 しかも結わえるのが下手で、彼が結わえた書籍の束は持ち上げたらいかにもほつれそうだ。
 優子は気になりながらも、横目で見るだけで特に注意はしない。
 ――関係ないよ。あたしは自分の仕事だけちゃんとやってればいいんだ。舟越の面倒まで見れるかっての。だいたいコイツって、何考えてるのか全然判んないしさ。
「優子は高森と付き合ってるのか?」
 ぼそりと声がして、優子は思わず顔を上げる。
 ――な、何? 誰? 何処から声が?
 一瞬、その声が何処からしたのか解らなくて、彼女は戸惑いながら図書室を見渡す。
「俺、見たぜ」
 次の声で、その声が直ぐ隣にいる舟越が発しているのだと気付き、振り返った。
 ――びっくりしたなぁ、もう。何処から声出してんのよ、コイツ。腹話術でもやったら上手く行くんじゃないの?
「み、見たって、何をよ」
 優子は怪訝そうに舟越を見た。しかし、彼は優子を見てはいなかった。
 いかにもとかしていない髪の毛。頬とおでこにやたらと湧き出たニキビ。
優子はめったに見ない、というか別に見たくもない彼の横顔を仕方なく見つめる。
「この前の振り替えの休みさ」
「それが、どうしたの?」
 ――ナニ、こいつ。ていうか、あたしに話してるならこっち向けよ。
「渋谷にいたろ。高森忍とさ。俺、見たんだ」
「あ、あんたも渋谷にいたの?」
 ――なんでこう、おかしな連中にばっかり見られるんだろう……
「ああ、マツキヨにいたら、駆け足で高森が入ってきて、そのまま直ぐに出て行ったから後つけたんだ」
 ――なんで後つけんのよ。ていうか、マツキヨであんたは何してたわけ?
「だ、だからどうしたってのよ……」
 優子は少しだけ開き直っていた。もちろん、相手が舟越だからでもある。
「……安西には気をつけた方がいいよ……」
 彼は、視線を下げたまま言った。優子の顔は一度も見ていない。
「どうして?」
「俺、中学の時、あいつらと同じ塾だったんだ……」
 ――へえ……て、答がおかしいだろ。安西に気をつける理由になってないじゃん。あんたが何処の塾にいたかなんて、はっきり言ってどうでもいいんだよ。
「そ、それが何の関係があるのよ」
「高森と安西は付き合ってたし、安西はアイツに未練タラタラだから、逆恨みされるかも……」
「あの二人が付き合ってたのって、本当だったんだ……でも、どうして別れたの?」
「安西が妊娠したのさ」
 優子はその言葉が聞き違いであって欲しいと思った。聞きなれない言葉が頭の中をグルグルと取り巻いた。
 ――に、に、に、に、ニンシンって、あの妊娠? 安西ひとみが? 中学生の時に? それって、た、た、た、た、た、た……
「それって、た、た、た、た、た……」
「高森とじゃないよ」
 ――???――どういう事? だって二人は付き合ってたんでしょ?
「だって、付き合ってたんじゃないの?」
「俺も詳しくは知らないんだけど、高森の子供じゃなかったのは確かだよ」
「彼女が浮気したって事?」
 ――ち、中学生が浮気相手の子供を?
「さあね、判んないけど……でも、安西はまだ高森の事を好きだと思うよ」
「だから同じ高校へ来たの?」
「それは違うと思うよ。通っていた私立にいられなくて転校したのは確かだけど、この学校に来たのは偶然じゃない」
「そ、そうなんだ……」
 ――何だかよく喋るわね。こんなに喋った舟越なんて初めて見るわ。何だか気味が悪いんだけど。
 優子は手元の書籍にかけた紐を力強く引っ張ると
「どうしてそんな事、あたしに言うの?」
「べ、別に……何となく……」
 ――げっ、な、何赤くなってんのコイツ。何照れてんのよ。キモイんだよ。
 優子は小さなため息をつくと、舟越の手元を見て
「あんたさ、もっと両側からちゃんと引っ張らないと結びが緩くなっちゃうでしょ、ほら」
 そう言って、書籍の結わえ方を結局教えてやった。








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