琥珀色の風(16/95)PDFで表示縦書き表示RDF


琥珀色の風
作:徳次郎



◆第16話◆


 漫画の立ち読みに夢中になっていた優子は、ふと顔を上げて入り口のガラス戸に視線を向ける。外はすっかり暗くなっている事に気付いた。
 腕時計を見ると、もう6時を過ぎている。
 優子は本来買おうと思っていた本を手にとって歩き出す。
 コミックのコーナーは店内の奥に在って、小説や雑誌のコーナーを抜けてレジへ向う。
 するとそこには忍の姿があった。
「あれ? 五十嵐」
「あっ、い、今帰り?」
「ああ、練習再開だからな。五十嵐も今?」
「う、うん……」
 優子は反射的に手に持っている本を後ろ手に隠す。
 ――うわっ、コイツなんだか難しそうな本買ってる……あたし漫画だよ。しかもコテコテ恋愛コミック。どうしよう、今から棚に戻してくるわけにも行かないし……
 忍は袋詰めの本を受け取って
「五十嵐も何か買うんだろ。レジ空いたぜ」
「う、うん……」
 優子は出来るだけ手のひらで覆い隠すように、コミック本をレジカウンターへ置いた。
 後に忍の気配を感じながら、そそくさとお金を払って商品を受け取る。
「帰るんだろ」
 やっぱり忍は後ろで待っていた。
 ――な、なんでわざわざ待ってるわけ? これって普通な事なのか?
「うん……」
 二人は並んで書店を出たが、忍が不意に立ち止まったので優子も思わず立ち止まる。
「俺ちょっと、叔母さんの家に寄ってくからこっち回っていいか?」
 ――えっ? それって、あたしもって事なのか? 何で他に寄るところあるのにあたしを待ってるんだよ。一人で行けばいいじゃん。
 優子は一瞬返事に困って、言葉を捜した。
「急いでる?」
「う、ううん。別に……」
「用事は直ぐだから、一緒に来いよ」
 ――こ、来いよって何? それが寄り道に付き合ってもらう言い方か?
「うん、いいけど……」
 結局優子は忍と一緒に何時もとは違う通りを入った。
 自宅の通りとは随分離れた路地だったが、住宅街に沿う通りはほぼ碁盤の目になっているので、方角が一緒ならそう遠回りになるわけではない。
「直ぐ先なんだ。別に遠回りにはならないよ」
 忍はさり気なくそう言って微笑んだ。
 ――どういうつもりなの? 学校では相変わらずほとんど、いや全然話なんかしないのに、どうして外で会うと声をかけてくるわけ? もしかして、今流行りのツンデレってやつなのか?
 優子はそんな事を思いながら「別に平気よ」と笑って見せた。


「今日、安西に何か言われてたろ」
 忍は歩きながら優子をチラリと見て言った。
「えっ、どうして?」
「なんか、声かけられてたからさ」
 優子は苦笑して見せると「ちょっとね」
「俺の事、何か言ってた?」
 忍が再び優子をチラリと見る。
「何かって?」
「いや、別に」
 ――な、何よ。こっちがカマかけてやろうと思ったのに、もう。安西と付き合ってたのって本当なの?
「な、なんでさ……」
 ――なんで、あんたは教室で知らん顔なの? どうしてあたしに話しかけないの?
「何?」
「ううん、別に……」
 ――そう言えば、前に高森が教室で声をかけて来た時、あたし逃げたんだっけ。だからか? それとも、今日みたいに安西に睨まれるから? だから、教室では控えてくれてるの?
 優子はひとつ息をつくと、一端飲み込んだ言葉を思い切って再び切り出そうとした。
「あのさ……」
「ああ、ここだよ」
 しかし、それを遮るようなタイミングで忍が声を出して、優子は結局何も言い出せなかった。
「えっ、何か言った?」
「ううん。何も」
 優子はブルブルと大きく首を振って笑う。
「ちょっと待ってて、直ぐだから」
 そう言って、忍は旧家の渋い茶褐色の門を潜って、中に入って行った。
 優子は「ふうっ」と声に出して息をつく。
 忍の入って行った旧家は、庭に大きな栗の木が聳えている、木造の立派な平屋だった。
 庭の奥には石の塘路と小さな池が見える。
「こんな家、この辺にあったんだ」
 優子は独り語をつぶやいて、ふと通りを見た。
 周囲には古い住宅が多いので、古くからある住宅街なのだろう。街路灯もまだ蛍光灯の明かりで照らすタイプだ。
 しかし彼女はそこで目を留めた。
 ――な、何やってんだ、アイツ。








ネット小説ランキング>恋愛コミカル部門>「琥珀色の風」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう