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この作品は少々の性描写があります。
閲覧の際にはご注意下さい。
イミテーション
作:桜 紫緒


「うん、じゃあ明日、10時にいつもの公園ね。おやすみー」
午後9時半。恋人であるユウジとの電話を切る。
そしてあたしは化粧を直して、家を出た。

「ようマサミ、久しぶり!」
「やっほータカシ。かなり久しぶりだね!今日どーする?」
「ウチ行こうぜ!」

軽くキスを交わし、タカシの家へ向かう。

「汚いけど…まあ上がれよ。」
部屋の中には男と女の生活が混沌としている。

「彼女は帰ってこないの?」
「ああ。こないだオヤジさんが倒れたらしくて田舎に帰ってるからな。だからかなりご無沙汰なんだよ〜」
「ああ、そうなの。」
「ってな訳だから早くしよーぜ!」
あたしを激しく押し倒すタカシ。

タカシの細長い指はあたしの粘膜を掻き分けて激しく蠢き、高みへと導く。

タカシとあたしは、肉欲を貪り合うだけの、都合がいい関係。
こういう関係の男は、あたしの両手の指を折るだけでは足りないくらいいる。

「そういえば俺さぁ、彼女が帰ってきたら別れようかと思って。」
行為の後、煙草に火をつけながらタカシが言う。
「ふぅん、そうなの。なんで?」
「最近、結婚の話ばっかりしてきてさ。重いんだよ。なかなかヤらせてくれない癖に。」
「…ふ〜ん。」
「お前は彼氏と上手くいってんのか?」
「まぁね。」
「そうか。さて、もう一回しよーか。」

タカシがどんだけ頭の軽い男だろうと、私の痒いとこさえうまく引っ掻いてくれればいいのだ。

この晩、幾度も肌を重ね、気づいたらふたりして寝入っていた。


カーテンから漏れてくる日光で目が覚め、枕もとにある時計を見ると9時ちょうどを指していた。
急がないとユウジとの約束に間に合わない。
横で寝ているタカシを起こさないようにシャワーを浴び、化粧をして家を出た。

急いで、待ち合わせ場所の公園へ向かう。
「お待たせ〜!」
「よぅ!あ、マサミ、シャツのボタンかけ違えてるよ!」
「え…やだぁ…ちょっとトイレに行って直してくる!」

目の前の公衆トイレに駆け込み、シャツのボタンを直した。

「ごめんね〜!」
「マサミ、疲れてるのか?」
「そ…そうかなぁ?」
「なんか顔が疲れてるぞ。」
「そんなことはないと思うんだけど…お腹空いてるからかも〜!ねぇ、ユウジが作った鳥のから揚げ食べたい!」
「いいよ!じゃあ買い物してからうちに行こうか!」
「うんっ!」

端から見たら、あたし達は幸せそうに見えるんだろうなぁ。
実際の所…少なくともあたしの気持ちの中では歪みだらけなんだけどね。


「あっ、そのネックレスはじめて見た!どうしたの?」
あたしの首もとにめざとく気づいたユウジ。
「友達に貰ったんだ。」
「ふーん。本物のダイア?」
「ん〜ん!イミテーションなの。」
「へぇ、そうなんだ。でもわかんないもんだね。」
そう言いながら、私の首元をしげしげと覗き込む。
「イミテーションだってわからないもんでしょう。デザインもいいしね。」

これはこないだ、宝石商をやっているセフレから貰ったのだ。
くれた相手が男だということに、勘が鋭いユウジが気づかないはずがない。


買い物を済ませ、ユウジの家に着く。
ユウジはキッチンに立ち、私は居間でマンガを読んでいる。
普通のカップルなら逆なんだけどね。

本棚にあるマンガを全て読み終わる頃、
ユウジがから揚げを持ってやってきた。
「おまたせ〜!」
深めのお皿にトマトやレタスなどの生野菜サラダを敷き、その上にからりと揚がったから揚げが乗っている。
「おぉ!美味しそうっ!」
「飯よそるから待ってろよ。」


「いただきます!…ん〜っ!やっぱりユウジのから揚げは美味しいね!ユウジはいい旦那さんになれるよ〜!」
「おう!家事は任せとけ☆結婚したらさ、俺が休みの日には飯作ってやるよ!」
「え…?結婚って…あたしと?」

ユウジを傷つける一言を、ぽろりと口から出してしまう。

それに対して、
「な〜んちって!結婚なんてまだ早いよなっ!俺ってばすげぇアホなこと言ったな!ハハハ!」
と言いながら、明るく笑うユウジ。
その眼は少し、悲しげに見えた。


食後、ふたりでテレビを見ていると、ユウジはあたしを抱きしめた。
「ん?シャンプー変えたの?」
「うん、まぁね。」
「そっか、いい匂い。」

そのまま押し倒されそうになる。
「ちょっと待って!今日はいっぱい汗かいちゃったからシャワー浴びたい!お風呂貸して!」
昨日から下着を変えてないから、かなり汚れてるはずだ。
それを見られるのはさすがに恥ずかしい。

「え…あ、そっか。わかった、行ってきな。」
ユウジは、こんな時にもあたしの言うとおりにしてくれる。


お風呂から上がり、タオル一枚で出てくると、あたしのバッグに入っていたはずの携帯が、何故かテーブルの上に置いてあった。
「おかえりー」
ユウジは何事もなかったかのように笑顔だ。
髪の匂いがいつもと違う訳も、いきなりお風呂に入りたがった訳も気づいているかもしれない。

ユウジの前戯は、今日も優しい。
文字通りの“愛撫”である。
痒い所を撫でられたら、もっと痒くなる。
あぁ、じれったい…

「マサミはここが気持ちいいんだ…」
「んっ…フミヤぁ…もうおかしくなっちゃう〜!」
「マサミはエッチな子だな…可愛いよ」
そうそう、この感じ。
暖かい肌で包み込まれるより、熱い肌をぶつけ合う方が好きなの!

目を覚ますと、そこにいたのはフミヤではなく、ユウジだった。
「ん…?ユウキ、起きてたの?」
「うん…。あのさ、フミヤって誰?」
「フミヤ…?」
「さっき寝言で言ってたからさ。」
「あ…ごめん。誰だろう。知り合いにフミヤなんていないしなぁ。」
「そうか!もしかして藤井フミヤの夢でも見てたんじゃないか?あはは!」
「そうかもね!なんで藤井フミヤなのかわからないけど!」

実の所、フミヤという知り合いが一人いる。
あたしの元カレなんだけどね。
彼とは体の相性がすごく合い、煮え切らないセックスの後は必ずと言っていい程夢に出てくるのだ。

フミヤとの関係はいまだに続いている。
心はもうとうになく、体だけの関係なんだけどね。
最後に会ったのは一昨日で、メール履歴や着歴にフミヤの名前が残っている。
ユウジがさっきあたしの携帯を見たのなら、フミヤが誰なのか知っているはずなのに…
これはユウジの、足りない優しさ。
ユウジは心の底で、奔放なあたしを独占したがっていることはわかっている。
素直じゃないユウジは、それを決して言おうとしない。
ユウジひとりじゃあたしの底なき寂しさを埋められないってことを知っているのかもしれないけどさ。


「じゃあね。」
駅前でユウジと別れた後、誰もいない駅のトイレに向う。
個室に入り、大きなため息を吐く。
恋人と一晩過ごしただけで、どうしてこんなに疲れるんだろう…
自分がこんなに疲れてしまうなら、いっそのこと幕を引いてしまおうか。
そんなことをぼんやりと考えていた。

〜*〜

「ねぇ、ユウジ。話しがあるんだけど。」
一週間後の夜、別れを決意したあたしは、ユウジをいつもの公園に呼び出した。

「話って…なに?」
生唾を飲み込むユウジは、これから何を言われるのか察している筈だ。
前回会った日から一週間、電話やメールの回数をかなり減らしていたから。


「別れよう。」
「やっぱり…」
「そう。気づいていたよね。ユウジは勘がいいからね。」
「そうだ、俺は勘がいい。だから気づきたくないことにも気づいてしまった。だけど俺はマサミを愛してるから我慢してきたんだ!」
「そう…あたしにはそれが重かったの。」
「…え?」
「君はいつもあたしのやりたいようにやらせてくれた。だけど、私のしたことに怒ったり、自分の意見を言ってくれたことはあった?」
「…」
「まぁそんなことはいいとして…」
「わかった。マサミがそういうなら別れてもいい。ただ最後に一つだけ聞いてくれ!ただ、俺はマサミを本当に本当に愛している。それだけは忘れないでいて欲しい。」
「“造りものの愛”と“本物の愛”の違いって何?」
「…」

ユウジは黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙の後、
「今までありがとね。バイバイ」
とあたしがユウジに背を向ける。

「俺はマサミが戻ってくるの待ってるから…。」
ユウジはあたしの背中に、こんな言葉を弱々しく投げかけた。

「待ってるのは勝手だけど、期待はしないでね。」
と言い、その場を後にした。

きっとユウジもあたしとおんなじ、ただの寂しがり屋なんだと思う。
ユウジはいつも“俺はお前を愛してるから…”と言い訳して、認めたがらないけど。
宝石も愛も、イミテーションと本物の違いがわからないうちは、イミテーションで充分なのだ。
それに気づいて、“愛してる”なんて言葉を易々と口にしなくなれば、またユウジの元へ戻ってもいいかなぁ…


帰り電車の中で、ドアにもたれかかり、窓に映る自分を眺める。
“恋人をフる”という行為に最後のエネルギーを使い果たして疲れ切った顔とは裏腹に、イミテーションのダイアが皓々と光っていた。


この作品は、中村中の“汚れた下着”を私なりに解釈して小説にしたもので、事実上の処女作です。
拙いものですが、読んで下さりありがとうございました!













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