闇守護業 7《緑鏡》(8/34)PDFで表示縦書き表示RDF


闇守護業 7《緑鏡》
作:祐太



第一章『迷宮の探索』(4)


 煙草をくわえながら草をかき分け、遼平が進んでいく。途中で木の上にチンパンジー、沼にワニ、砂地にエリマキトカゲなど……熱帯地方でサバイバルをしているような気分を否応なく存分に味わされた。

「熱いよ〜」
「少し休憩するか……」

 僅かに開けた場所で、五人は休む。どうして自分達がこんな所にいるのか忘れかけた頃、遼平が吸い終わった煙草を投げ捨てた。

「ダメだよ遼、ポイ捨てしちゃ」
「いいだろ、いい加減こんなトコ腹が立ってきたんだよ」
「でも火事になったりしたら……」
「はっ、そうなったら見渡しがよくなるかもなぁ」

 冗談混じりで遼平がにやついた時、何か唸るような低音の音がした。その方向へ、五人はゆっくりと顔を向ける。

「……何やろ、今ワイの中で、超特大緊急警報発令中ー……」
「奇遇だね、僕もだよー……」

 ぎこちなく立ち上がり、じっと草むらの方から目を離さない。ふと、二つの点が光ったと思うと――。


「ガアァァアアァ!!」


「で……っ、」


 飛び出してきて、五人の前で怒り狂う獣……額のところに遼平が投げ捨てた煙草が乗っかっている、百獣の王――ライオン!


「出たァァ――――っ!!」


 一斉に警備員達は走り出す。もちろん、その後ろをライオンが追ってくる!
「蒼波っ、土下座して謝ってこい!」
「謝る前に普通に喰われるだろうがっ」
「その間に俺は逃げる」
「てっめぇー!」

 こんな非常事態も賑やかな中野区支部。罵声は続く……。

「きゃ〜っ、私は美味しくないです〜! 食べるなら他の人でっ!」

「えっ、僕も小さいから食べごたえないよっ!」

「緑色の頭したヤツは美味いらしいぞっ」

「貴様どこの基準だ!」

「嫌ァァァ! こんな所で痛く死にたくないぃ〜! ユリリ〜ンっっ!」

 無我夢中で、必死に全力疾走。本来ライオンは持久走が苦手なはずだが……猛スピードを緩めることなく咆吼しながら駆けてくる。

「ココって熱帯だよねっ? なんでライオンがいるのさ!?」
「そんな、ワイに訊かれても……」
「こうなったら遼平! 第二ラウンドはVSライオンで!」
「また俺かよ!? 今度は紫牙でいけよ!」
「何を言う、貴様が野生担当だろうっ!」
「いつそんなのが決まったんだー!?」

 段々ライオンとの距離は縮まっていく。高い温度に体力を奪われているのも要因の一つだが、裏の人間を追いつめるほどライオンの体力は尋常ではない。

「キャー! 来てる来てるぅ〜っ!」
 先頭を走る一番逃げ足の速い希紗が、振り返ってライオンとの間隔を目測する。その後ろを真と澪斗、更に背後に遼平と純也がいる。

「遼平っ、会話の余地はあるか!?」
「あるわけねぇだろ! さっきから『裂く! 殺す! 喰う!』としか聞こえねぇよ!」
「うわァ〜、もうどうすんねん! 何でもエエから誰か状況を打破できんかっ?」
「真!」
「澪斗!?」

 横を走る澪斗が、真剣な顔で自分の右手に持ったモノを指差し、真に手渡す。



「四つ葉のクローバー」



「あァ、そうそうコレを持ってると幸せになれ……って、なれるかどアホぉ! 幸せになる前に確実に八つ裂きじゃあ!! こんなんドコから持ってきたァ!?」

「いや、先程草をむしっていて発見した」
「真君っ、そんな軽快なノリツッコミをしてる場合じゃないよ!」

 どうしてこの五人は放っておくとすぐコントが始まるのか。日本国内でライオンに追われる、という前代未聞の生死の狭間にいる警備員達は、状況をきちんとわかっていないのか天然か、言い争いを繰り広げるばかりでどんどん体力を消耗していく。


「純也っ! 俺は一つ手段を思いついた!」

「えっ、本当!?」
 天井の赤外線ライトに照らされて光輝を放つ髪をなびかせながら、純也が遼平を見上げる。遼平は確信の顔で、「あぁ」と頷いた。

「俺の記憶によれば、動物は光り物を追う習性があるっ」
「え……いや、それはたぶんカラスとかだと……」
「……純也、俺はお前を信じる!」
「ちょっ、待って! 光り物ってまさか……っ」

 とてつもなく嫌な予感が走った純也を、掴んで抱き上げる。……そして。



「行ってこい! 純也あぁぁーっ!!」


「えっ……えええええぇぇー!?」


 くるっと振り返り、思いっきり振りかぶって純也を後ろへ投げ飛ばす! 「うわああぁぁぁ〜……!」と、段々悲鳴が遠ざかっていく……ライオンがそれを目で追い、百八十度向きを変えて純也の飛んでいった方へ駆けていった。


「……よし!」
「えぇーっ!? いや、『よし!』やないやろ! 純也がっ、純也がっ!」


『――――こうして、中野区支部の平和は保たれた。仲間達は、少年の犠牲はきっと忘れまいと心に誓うのであった……』


「勝手に変なナレーション入れるなァ! なにエエ話で終わらそうとしてんねん遼平っ!」

 純也の飛ばされていった方向を指しながら、真が一気にまくし立てる。少年が飛んでいった上方を、希紗が手を額に当てながら見やった。

「何てゆーか……遼平、人でなしよね」
「今頃気付いたのか希紗。俺はこいつと出会った三秒後から知っていたぞ」
「あァっ、純也が……純也がァァ〜……」
「お前ら、いつまでも過ぎたコトを気にしてんじゃねえよ。人間、ポジティブにいこうぜ?」
「あんたはちっとでも過去を振り返れ! そして全国の前向きな方々に泣いて詫びろ! ソレはポジティブとは言わんっ!」

 遼平の胸倉を掴んで、真はそのまま激しく揺する。あんまりだ……ここまで薄幸の少年を、真はドラマでさえ見たことがない。意思に反して犠牲にされた上、数秒後には忘れ去られようとしているのだから。


「あっ、ねぇ、出口発見〜!」

「お、ラッキーだな」

「行くぞ、真」

「純也ァ……頼むから祟らへんでくれェェ……」

 目の端にうっすらと涙を浮かべて、真は三人についていく。入ってきたものと同じ両扉が、熱帯林に隠れるようにやはり不自然に取り付けられていた。












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