闇守護業 7《緑鏡》(3/34)PDFで表示縦書き表示RDF


闇守護業 7《緑鏡》
作:祐太



PL『いつかの悪夢』(1)


依頼7《生者への鎮魂歌》セイジャヘノチンコンカ


PL『いつかの悪夢』


 垂れ流された油が、むせかえる程異臭を放つ。

 ……熱い。

 強打して痛めたらしい腕も気にせず、もう片腕で彼女の手を握っていた。全力で引いているのに、細いその手は全く動いてくれない。
「っ、くっ……」
 小さな炎が、俺の感情を弄ぶようにじわじわと迫る。

(何故こんな……っ)
 そんな思考が離れないが、今は疑問を感じている場合ではない。弱っていく彼女の手を、ありったけの力で握り締めた。

 必死に広い周囲を見渡して、一瞬だけ、闇以外のモノを目が捕らえる。
 顔が闇に支配されていてよく見えない……男だ。狼の入れ墨がされた手の甲には、銀色に光る銃。俺と目が合ったように思った時には、逃げ去っていった。
「待てっ!」
 追おうとして、自分が握っていた手を思い出す。駄目だ、ココを離れるわけには……!


「……は……やく、」

「しっかりしろ!」
 苦しそうな彼女は、聞き取りづらい微かな声で、何かを伝えようとしてくる。潤んだ瞳をこちらに向けて。

「おねがい……逃げて。はやく」

「馬鹿を言うな! 死にたいのかっ」

 彼女は、俺の腕を振り払って口を開いた。次の言葉に、ただ目を見張る。その時、驚きと、怒りと……悲しみが絡み合って幼い思考を掻き乱した。
 身体を押さえられ、後ろに引っ張られていく。その力に精一杯抵抗しながら、遠ざかっていく彼女へ腕を伸ばし、俺は溢れる感情に絶叫するしかなかった。



春菜はるなあぁぁぁぁー!!」



     ◆ ◆ ◆


 半分は自分の叫びで、目を覚ました。
 横向きになって寝ていた身体を起こすと、冬だというのに汗でシャツが濡れている。自然と鋭くなってしまう瞳で、ベッド脇の時計を確認してみれば、まだ早朝の四時。立ち上がって窓のカーテンを引くが、当然、外は暗かった。

「…………」

 汗で濡れたシャツの不快感と、それ以上の夢見の嫌悪感に、澪斗は窓に半透明に映る己の顔を睨む。その行為が何の改善策にもならない事を知っていながら、それでも自分の表情ごと闇の空を睨み続ける。

 久方ぶりの、あの悪夢。己を戒めるような、本来の姿を思い出させるような、いつかの幻。
 逃れえぬ、忘れえぬ、人殺しの宿命。



 しばらく立ち尽くしていたが、冷えてきた身体に我に返り、窓に背を向けて部屋を出ていく。


 光昇らぬ空は、あの日の男の心と同じ、絶望色。












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