闇守護業 7《緑鏡》(12/34)PDFで表示縦書き表示RDF


闇守護業 7《緑鏡》
作:祐太



第二章『微笑む鏡像』(3)


 「では少し真面目な顔で……」と、聖斗はなんとか目に力を込めて、視線をやや鋭くする。こうして見ると、本当に合わせ鏡を見ているように二人は瓜二つで。

「僕はこの度、長年研究していた植物の成長を助ける改良型新種微生物の開発に成功しました。これがそのデータが入ったディスクです。コレは大変画期的な発明でして……ヒミヤ産業の大きな進展となるでしょう」

「微生物の開発データ? そんなの欲しがるヤツがいるのかよ?」
「もちろん、ただ新種の微生物というわけではありません。この微生物は、土壌に放つことで、たとえ砂漠でも植物が生える環境にできるのですよ」
「な……! 本当でっか!?」
「なんだよ、それのドコがすごいんだ?」

 CDサイズのディスクを、聖斗はデスクの上に戻す。そして中央のデスク上にあるキーボードを素早く叩くと、奥の一番大きいディスプレーに世界地図が映った。更にマウスで一部分を拡大させ、西アジアやアラビア半島をアップにさせる。

「僕から説明しましょう。過去、この国々には砂漠地帯から湧き出る『石油』という天然資源が豊富でした。それを海外に売ることで、この地域には石油王と呼ばれる大富豪が増えたのです。しかし、限りある天然資源は、皆さんもご存じの通り約三十年前に完全に枯渇しました。よって、今この国々には資源が全く無い。……ここまではいいでしょうか?」

「あー……石油……天然資源? なぁ、コカツってなんだ??」
「兄上、あの者は脳が足りないので、気にしなくて結構です」
「ンだとっ、わかるんなら教えろよ! 変な日本語使いやがって!」
「貴様の脳の方がよほど変なんだ! 辞書を持ち歩いて生活しろ!」

 「もっと簡単な事を喋れ」だの「貴様は言葉を知らなすぎだ」だの、すぐ怒鳴り合いのケンカが始まる。ディスプレーの横に立ったまま苦笑する聖斗に代わり、責任を感じて真がハリセンの一閃で見事に二人を抑えた。

「エエ加減にせえ! 遼平も澪斗も、もっとカルシウムを摂取せんか! あんたら気が短すぎやで!」
「あのね遼平、つまりは、もうあの国々には膨大な金持ちと砂漠しか残ってないってコトなのよ」

 要約しすぎな感じもあるが、希紗が実に簡潔にまとめる。当然の常識……というか、義務教育課程で習うことなのだ。


「えっと、話を続けますね。……今この国々の富豪達が求めているのは何か。それは新たな資源です。でも、灼熱の砂漠には植物の芽も出ない。そこに目をつけた僕は、砂漠に木々を生やせる手段の開発を始めたわけです。木材は、今や過去の石油に劣らぬ需要量ですからね」

「金持ちのためのビジネスってわけかよ」
「まぁ、端的に言うとその通りですね。そして五年かけてそれに成功……一歩手前まで来たんです」
「一歩手前?」
「はい。あと少しデータに修正を加えれば、この開発は完璧に成功に至ります。ただ修正プログラムを入力しなければ、データは使い物になりませんが」
「どうして早く修正しないんですか?」
「それは……」

 ディスプレーの画像を消し、聖斗は一番真剣な顔つきになる。真達の前に人差し指を立ててみせて。



「こうでもして遅らせないと、警備員の弟に会えないじゃないですかーっ」


「「「……はあぁぁっ?」」」

 満面の笑みの兄の前で、ガクッと崩れ落ちる三人。澪斗は恥ずかしいのか、俯いてずっと眼鏡を押さえていた。

「延ばせるだけ延期して、その間を警備員である弟に護ってもらおうと思いまして。だって、そうじゃなきゃ家出した弟と再会できないんですもん」
「まさか……それでわざわざワイらのところに……?」
「はいっ! あ、そうそう、身内関係者ってことで、報酬はまけてくださいね?」
「「「……」」」

 冷酷な弟とは北極から赤道までぐらい性格の違う兄に、言葉を失う。双子は気性が似るというのは、どうやら嘘のようだ。……それに、意外とセコい。
 要するに、警備という名目で弟に会いたかっただけらしい。つまりこの人物は。

「とっても会いたかったよ〜、澪斗〜」

「……こりゃ、親バカならぬ兄バカやな……」

「なっ、真! 兄上を馬鹿呼ばわりするな! 兄上は……昔からこうなんだっ」

「……弟もバカよ、これ」

「紫牙が一人で来たがった理由はこれかよ……」

 確かにこれは他人には知られたくないかもしれない。長年明かされなかった澪斗の事実が今、明らかに。


「……ま、まぁこういう事だ。わかったら貴様らは帰れ」

「うーん、言う通り、折角の兄弟の再会に水をさすのも悪いかァ」
「でも、実際問題スパイとか来るんじゃないの? 澪斗一人で大丈夫?」
「今聞いた限りじゃ、冗談半分で警備できる代物じゃねーだろ」

 本当にこの研究が成功し、実現されれば、兆単位の金が軽く動く。そんな氷見谷の命運がかかったディスクを、この若い男は持っているのだ。

「澪斗、いいんじゃないかな、霧辺さん達にもお願いしても」
「ですが兄上っ」
「よし、決まりだな。依頼人に逆らうなよ、紫牙」

 大富豪から報酬が入る、と喜ぶ遼平を、澪斗は悔しそうに睨む。なんだか交渉が成立したようなので、「じゃあ……」と真が仕事内容について話し合おうとした時。
 ロックがかけられていなかった背後の自動ドアが、素早く開く。誰が入ってきたのかと警備員達が振り返ると、影が一瞬で突っ込んできた。

「地獄の底から復讐キーック!!」

 遼平の顔にピンポイントで、靴の裏が迫って直撃した。「んがぁっ!?」と情けない声をあげて、紺髪の頭から床に倒れ込む。仰向けに倒れた遼平の顔にまだ右足を乗せながら、腕を組んで怒っている小柄な人物が一人。

「遼! 今度ばかりは本当に怒るよ!? 死にかけたじゃないかっ」
「もう充分怒ってんじゃねーか! しょうがねぇだろっ、適材適所だったんだから!」
「ライオンに食べられる適材って何さ!? あの後キャサリンまで出てきて、僕すごく驚いたんだよっ!」
「誰だよキャサリンって!? いい加減お前足をどけろっ」

 あがく遼平の顔をもう一度強く踏んでから、純也は男の倒れた身体から降りる。部長が涙目で少年の両手を握った。

「よかったァ〜、純也生きてたんやな〜っ。枕元に立たれた日にはどうしようかと……」
「っていうか、さっきの技名はなに? なんか純くん、ネーミングセンスが段々遼平に近くなってきてない?」

 死んだと思われるのも嫌だが、全く心配されていないというのも複雑な気分になる。とりあえず勝太の言った通りの道を来て会えたわけだが……なんだか無性に疲れた。ため息を一つ吐き、純也は薄暗く寒い部屋を見渡して。


「あれ……? れ、れ……れれ、澪君が二人ー!?」

「あー、どっから話せばエエかなァ……」


 何度も目をこすって幻覚じゃないことを確認する純也に、真は頭を掻いて、微笑む澪斗の鏡像を見た。












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