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異形人外恋愛系

終末ロボット天国



 はい、どうも。
 前世記憶持ちモブ女子地味子です。

 ここは資源枯渇寸前の遠い未来の世界。
 残り少ない恵みを求めて争い、地球の寿命をマッハで縮めてくれた馬鹿共の子孫が生きています。
 現在、当然のことながら人間の数は激減し、しかし残存資源が少ないので人口を増やすことを制限したい政府が結婚や出産にべらぼうな税金をかけている状況です。
 そんな税金の額は、中規模企業の常務以上の立場の者なら何とか一人養えるかなというぐらいのもの、とだけ言っておきましょう。
 地球の寿命が来る前に人類の方が滅びそうなことやってるなぁとは思いますが、自業自得感があるので個人的には滅亡していっこうに構わない派です。

 そんな現状でも一時の快楽に溺れ無計画かつ無責任に赤子を産み捨てる糞は皆無ではなく、私はそんな脳の足りない母から生まれ捨てられた孤児でした。
 さすがに生まれてしまった者を殺すというのはあまりに非人道的だということで、そういった孤児はまぁ何とかギリギリ死なないのではないか程度の援助を受けながら孤児院で生きることができるようになっています。
 人権はギリギリあるような無いような感じです。
 ちなみに前世日本にあった国民の三大義務のうち子女に教育を受けさせる義務さんは瀕死状態となっています。
 最低限が前世の小学校低学年レベルまでに下がってしまっているのです。
 それ以上の教育を求めるならば、これまた高いお金を払って私立学校に通うしかありません。
 私は近場のボロくて小さな図書館に通って自主学習しましたが、基本的に満足に漢字も読めないまま義務教育が終了してしまうので、他の人間が私の真似をしようとしても難しいでしょう。

 まぁ、そんなことは、今の私にとってどうでもいいのです。
 重要なのは、この世界には人間の代わりのようにロボット達が存在している、ということ。
 人数比でいうと人間が1でロボが9ぐらいですかね?
 むしろ、ここはロボット王国だけど人間も少しいるよという勢いですね。
 なぜか急激に発展したらしいロボット技術により、彼らは人間と同等の知能を持ち、より高度化された小型自家発電装置のおかげで限りある資源を消費することもなく活動できています。
 見た目は、それこそ人間と見分けのつかない美男美女タイプから、役割に特化したロボロボしいタイプまで、サイズもあわせて様々です。
 要はターミ○ーターとか、変形するタイプは少ないけどトラン○フォーマーとか、R2-○2とか、そんな多種多様な無機物生命体が闊歩している世界だということです。

 これをっ!
 最高と言わずしてっ!
 何とする!!

 えぇ、えぇ。
 白状しますと私、前世オタクでした。
 そして、末期のロボ萌えでした。

 で、何がどう最高って……彼らが人間と同等の思考回路を有してくれているおかげでですね?
 人類を増やすわけにいかない政府がトチ狂ってくれたおかげでですね?
 結っ婚っできるんですよッ!!
 人間同士だと税金がかかりすぎて難しいけれど、ロボと結婚するならむしろ支援金が出るんです!
 少しでも人を増やしたくない政府マジやってくれた!
 生活圏内これだけロボに囲まれているにも係らず、未だに無機物と結婚なんて頭おかしいみたいな風潮があるのは知っていますが、私には本当最高としか言いようのない環境ですよ。

 ありがとう、荒廃した未来!
 ありがとう、ロボ開発者!
 ありがとう、前世の記憶!

 ってことでね、私も本日で20歳の成人を向かえましたのでね、新法律で定められていた結婚制限の解除ってことで、早速ロボット婚活センター来ましたよ、来ちゃいましたよっ。
 うおーっ、ロボ婚っ、ロボ婚っ!
 がんばれロボ婚!
 別に恋愛結婚目指して町でナンパかましても良かったのかもしれないけれど、まぁ、ここに登録されてるロボと違って結婚希望じゃなかったりすることもあるから、それなら相手の時間を無駄に奪っちゃうよりは最初から結婚したい者同士で面接できる方がお互い良いのかなと愚考した次第です、ウェーイ。

 ちょっとテンションおかしいのは大目に見て下さい。
 本当に私、ロボが好きなんです。大好きなんです。
 個人的には人間と見分けのつかないタイプより、役割特化の無骨ロボタイプ希望で特に4足とか逆間接とか大好物なんだけれど、気が合うようなら別に何でもいいというか、ロボならもういっそ何でもいいから早く結婚させろください貢ぎたいお世話したいデロデロに甘やかしたい、それで「おい、俺にも少しは働かせろよ。ジッとしすぎて錆びちまうぜ」とか言われたい、あああヤバイ妄想だけで悶え死ぬヤバイ最高ロボ最高。

 などと考えている間にも専用カウンターに到着しました。
 受付は女子トイレのマークのような円錐の上に球体が乗ったような量産型事務処理ロボが担当しているようです。

『いらっしゃいませ、政府直営結婚相談所マシン・ブライダルへようこそ。
 お客様、本日はどのようなご用件でしょうか』

 告げられると同時に、目の前に半透明のモニターが現れます。
 あぁ、前世のオタク諸君、我が同士達よ、我々の思い描いた未来は今ここに存在しているぞ……。
 などという相手も意味も無い語りかけは置いておいて、私はモニターの新規登録の欄へと指をのばしました。
 ブンっという音と共に画面が矢印へと切り替わり、受付のロボからこことは別の椅子のある『データ登録コーナー』と看板の下がっているブースへ移動することを促されます。
 初回の入力には時間がかかるでしょうから、当然といえば当然のことなのかもしれません。

 他に人もいないようなので適当に空いている席に着けば、国民カードの提示を求められます。
 これは政府から全国民に発行されているもので、このカードの中には住所氏名誕生日職業他様々なデータが収められており、多くの場面で身分証として使われる大事なものです。
 画面にかざせば、すでに基礎データ部分の入力された登録画面が表示されます。
 ひとまずカードを収納し、改めて入力画面を読み込みました。
 空欄になっているのは、己の趣味や希望するロボの細かなタイプなど、データからは読み取れなかった部分のようです。
 あと、基礎データの中で見せたくない部分は非表示や曖昧表示にすることができます。
 年齢や住所、勤め先や収入などは、よほど豪胆か無知か、とにかく無用心な人でなければ大体隠しますね。
 さすがに名前は非表示にできません。

 ちなみに、意外かもしれませんが、結婚に関して、ロボ側にもきちんと拒否権があります。
 彼らにも当然好みというものがあり、こちらが気に入っても相手から断られるということもあるのです。
 なので、情報の入力は真剣に正確にかつ相手に引かれない程度の内容に収まるよう行わなければなりません。
 どんな性格のどんな立場のどういった結婚観のロボを求めるかによって、入力する内容は大きく変わるでしょう。
 もちろん、後々の自分の首を絞めないよう、嘘の無い範囲でということではありますが……。
 とにかく、勝負はもうすでにここから始まっているのです。



~~~~~~~~~~



 結局、私が希望したのは、修復不能な部位故障により本来の役割が果たせなくなった者、です。
 普段本当に事務的な発言しかしないことで有名な受付ロボさんから『えっ?』をいただいたのは世界広しと言えど私だけかもしれません。
 そのうえ、何度も『本当にこちらの条件でよろしいのですか?』と確認されたのだから、レア度にも拍車がかかります。
 ただ、役割特化型ロボットにはストイックな者が多く、勤めを果たせなくなった時点で自らスクラップ場に足を運ぶなんてことも珍しくありませんから、そういった意味で相手が見つからないかもしれないなぁとは考えていました。
 まぁ、不可と言わず確認してくるぐらいだから、条件に合う方も何体かはいらっしゃるのでしょう。
 問題は、その少ない数の中で私と結婚して旦那様になってくれる御方が存在するか否かという点ですが、いなかったらいなかったでその時は諦めてまた別の条件で探せば良い話です。
 支援金が出るとはいえ、ロボ婚希望者は未だに少ないという話ですし、買い放題の市場なので根気強く粘ればいつかは結婚できるはず……だと、信じます。

 と、いうことで早速ですが、これまた別ブースで面会希望者の一覧を拝見させていただいております。
 ふむふむ。
 元VIP専用ガードマンロボに、元ドリル型掘削ロボ、元風景専用カメラロボに、元海洋調査ロボ、元ポストマンロボなどなど……。
 おぉぉ、意外といるものですね!
 うわぁうわぁうわぁ、誰から会いましょうかコレ、見た目だけでも充分みんな魅力的ですよウハァしゅごいよぉシャングリラかなそれともユートピアかなここはハァァン。

 無表情にデータを眺めながら心の中で身悶えしていると、フッと背後を誰かが横切ります。
 足音からいって人間ではなくロボットのようだったので、私は思わず振り返ってその誰かを確認していました。
 浮浪者のような薄汚れたみすぼらしい外套に身を包んだそのロボットは、外套からチラリと覗く自らの装甲も同じくサビや泥でボロボロにして、清掃ロボにどこもかしこもピカピカに磨かれた最新鋭の施設の中にあって、いかにも場違いな様相を呈しています。
 私は、彼から目が離せませんでした。
 と、同時に私の指は面会候補者一覧から1体のロボットを選択していました。



~~~~~~~~~~



「あ、やっぱり……」

 浮浪者じみたロボットがお見合い室へ現れた時、私は反射的にそう呟いてしまいました。
 かなり小声だったのですが、強化された彼の聴覚にはしっかりと届いていたようで、怪訝な様子で首を傾げられてしまいます。
 けれど、尋ねるつもりはないようで、彼は外套を外すこともしないまま向かいのソファにドッカリと腰を下ろしました。
 間違いなく、先ほど待合ホールで見かけたロボットです。
 彼は元VIP専用ガードマンロボで、個体名はアーク。
 面会データに記されていた型番から知るに、戦闘用ロボットとしては中期に開発されたメガロマニア社ナイツシリーズのもので、最新鋭の武装系ロボに総合能力値で劣っているものの蓄積された経験によってはそれらを圧倒することが可能な機体も存在する、という話を聞いたことがあります。

 強度ももちろんあるけれど、どちらかといえばスピード重視のタイプで、パッと見のシルエットイメージだとカマキリ怪人のお尻部分のないバージョンといった風でしょうか。
 逆三角に近い形の丸みのある頭とスラッと細い胴体、ついでに長い手足、ですね。
 色はシルバー、視界カメラは真っ黒のゴーグルのようなもので覆われて視線を追えないようになっており、口は無いけれど声を発する機能は内蔵されています。
 ボディの装甲は段々と重なるようなデザインになっていて蛇の腹のようにも見え、膝下まである長い腕は人間のものと近い形をしており、状況に合わせて武器の持ち替えが可能です。
 背面には細いサブアームが三対収納されていて、一対はレーザービーム、一対は4指の……個人的にクレーンゲームを思い出す形のハンドアーム、残り一対は各機体の好みで装備が変わるそうですが、中距離武器を着けている者が多いように認識しています。
 細すぎて嫉妬しそうな腰にはベルトが巻かれ、これまた各機体の好みで剣や銃などが下げられます。
 立体起動の可能な太腿部分が太めの足はくの字に曲がっていますが、私の好きな逆間接ではありません。
 どんな場所でも動けるように、前方に2本、後方に1本のびる3つ指の足裏は、吸盤やマグネット、スパイクやカギ爪タイプなど瞬時に切り替えが可能となっています。

 どれだけ錆びていようと汚れていようと、手先足先しか見えなかろうと、私は一目で彼の正体を看破しました。
 伊達にロボオタやってませんからね。

 彼のようなVIP専用なんて機体は、ロボット界カーストで相当な上位にあったはずです。
 だから、役割を果たせなくなることで、こうしていかにも落ちぶれて自棄な様子でいることに疑問はないのですが……それならそれで壊れた時点でスクラップ工場に直行していそうなもののような気がしますし、わざわざ結婚相談所に登録して、そのくせ身なりに一切気を使っていない要は結婚するつもりのなさそうな態度っていうのは、一体どういう事情があってのことなのでしょう。
 こんなワケありムードをプンプンさせられたら、無駄に妄想が滾ってしまうじゃないですか。

 というか、座ってから彼、一言もしゃべりませんね。
 しかも、顔すら地面に向けて、こちらを見ようともしません。

 きちんと相談所には通うけれど、こうして希望者に面会を求められると不本意丸出しというのは本当に解せません。
 もしかして、目当てはあの受付の量産型事務処理ロボさんだったりして?
 ……いや、違いますね。
 だったら、もう少し彼女に不快感を与えないためにも身奇麗にしているものでしょう。
 とすると、彼が逆らえない誰かから命令でもされているのかもしれません。
 相手が見つからなければ、その命令者も諦めてスクラップ工場行きに同意してくれるはず、なんて思っているのかも。
 うーん、つじつまは合う気がしますが、これだと少し面白くないですね。

 こちらが黙ったままでいることを疑問に思ったのか、それとも不快に思ったのか、油汚れのこびり付いた指を僅かに揺らし、ついに彼が呟くように言葉を投げかけて来ました。
 根気勝負は私の勝ちのようですね。
 いや、別に勝負だなんて思ってもいませんでしたけど。

「どうしました、気分でも悪くされましたか。
 それとも…………データに提示されていた全身ホログラムと実物の私があまりに違うので驚きましたか」

 おおおっさすがVIP御用達というか俺様系かワイルド系かって感じの見た目に反して丁寧な言葉遣い来ましたコレこのギャップたまりませんなぁおっほ!
 そうです気分が悪いでーすって言ったら、医療班呼んでくれたりするんですか紳士ですかワッホゥ。

「……いえ、気分は大丈夫です」

 むしろ最高潮です。

「データとの差異も、問題ありません。
 ちょうど一覧から相手を探しているときに待合ホールでお見かけして、アークさんが貴方かなと、半ば確信の内に選ばせていただきましたので」
「……………………なに?」

 彼は驚くように私を見た後、腕を腿に置いて少し身を乗り出し、声を低くして言います。

「貴方は……何者ですか」

 よく分かりませんが、私の発言の何かが彼のガードマンロボ部分を刺激し警戒させてしまったようです。

「えっと、私のプロフィール、ご覧になっていただけませんでした?」
「いえ……いくら求婚を受けるつもりがなくとも、それではあまりに相手に失礼というもの。
 一通り目を通すようにはしています」

 やだクソ真面目な堅物野郎かよカワイイあと超正直かよ、もうちょい包み隠して良いのよカワイイ。
 って、やっぱり結婚するつもりないんですね、アークさん。
 それで、相手から断ってもらえるようにそんな格好しているんですか、それとも普通に自分自身のことがあまりにどうでもよくて時の経過とともに自然とそうなっちゃったんですか。
 今までの相手はその汚い格好を見て勝手に幻滅して帰っていっちゃったりして、それでいつ私が他の人と同じように言い出すか待っていたんですか、なのにいつまで経っても黙って座ってるもんだからアレレおっかしいぞぉーってなったんですか。
 うおーっアークさんカワイイぞーっ。

「でしたら、あの、そちらのデータの通り、私はしがない骨董品鑑定士で、何者ということもありませんが」
「その鑑定では我々のような商品も扱っておいでで?」
「いいえ、少なくとも私は本当に骨董品と呼ばれる……西暦が存在していた時代のものしか……」
「…………ウソではないようだ」

 あっ、脈拍とか発汗量とかで相手の虚偽発言を見破る機能は生きてるんですね。
 私はただ単に趣味でロボットを愛し敬い時に信仰し時に発情するキモオタという存在でしかありませんよ。
 で、気が付いたんですが、彼はなぜみすぼらしい姿の自分が、データ上のいかにもイケメンエリートロボなアークと同一者であると、孤児でしかも女である私が見抜けたのか、そこが引っかかっているようですね。

「あの、アークさん」
「はい」

 うん、最初はだんまり決め込んでたくせに、実は相手から話しかけられるときちんと応じてしまう系真面目ロボ男子カワイイ。

「私がアークさんをアークさんだと分かったのは、単純に私がロボットをとても好きだからです。
 それこそ、貴方の外套から出ていた手の先や足の先だけを見ておおよその機種の見当がついてしまうくらいに」
「…………これもウソではない、信じられないが本当なのですね」

 ウソは吐いていなくても、都合の悪い本当のことを黙って、更に違う意味に勘違いさせるような言い方をしている可能性について……ってことまで頭が回っていないようだけれど、こんな実直な性格でよくVIP相手が務まって……あー、いや、結局務めきれなくてココにいるんですね。
 体が壊れた理由はもっと別にあるのかもしれませんけど、実直勤勉な戦闘力特化の脳筋タイプという可能性が出てきましたよ嫌いじゃないですよ。

「えぇ、特別なお仕事についているだとか、そういった事実はありません。
 あくまで個人の趣味で、それで詳しいのです。
 結婚についても、よくある支援金目当てだとか、労働力欲しさというわけではなく、本当に、心から、ロボットの旦那様と愛し愛され、守り守られ、暖かな家庭を築きたいという想いでおります」
「………………守り……守られ、ですか」
「はい」

 おおっとぉ、どうしたどうした、この反応はなんだーっ、元ガードマンロボの何がしかのキープアウトテープ内の記憶に触れたかっ、触れちゃったのかーっ。
 それきり、アークさんはどこか迷子の子どものような雰囲気を醸し出しながら黙り込んでしまいます。
 部屋から出ていけとも言われていないし、とりあえず見守る形でいいですかね?
 間近でエリートロボ視姦できるだけですごく楽しいから何時間でもボーっとしちゃっててくださいウヘヘ。



~~~~~~~~~~



 あれから1時間ほど経った頃でしょうか。
 ぽつり、ぽつりと、さながら教会の告解室で懺悔する信徒のように、彼は自身の過去について語り始めました。
 長かったので簡単にまとめると、とんでもなく強い敵が現れて、勝つには勝てたけれど、親しかった同期の最新型ロボ1体が犠牲になってしまったのだそうです。
 本当はアークさんもコアを傷つけられて死を免れない状況だったそうですが、犠牲となったロボが最期に自らのコアをアークさんへ捧げたとかいう鼻血ものの展開があったらしく、しかし、やはり型違いなこともあり動くには動くけれどアークさんの機体には負荷が大きすぎて、彼はごく短時間しか戦闘の出来ない身、つまり欠陥品になってしまったのだとか。
 さすがにそんな体でガードマンを続けることもできず、であれば己の職務に誇りを持っていた彼としてはスクラップ工場へ足を運びたい気持ちもありつつ、けれど身の内に宿る友のコアを潰す決断もできず、毎日毎日無意味に町をフラフラしているところを元同僚に見咎められて、結婚でもすればロボ生に張り合いも生まれるだろうと半ば無理やり結婚相談所に登録させられ、ホログラム用データについても過去のものを勝手に使われ、強制されたとは言えいつまでもこのままというわけにもいかないだろうし1つの転機と考えるかと何度か見合いをしてみるも、ロボットという存在を軽視し打算的で自己中心的な女ばかりと会い続ける内に、いつしか結婚する気も失せて、しかし同僚がうるさいので形ばかりでも相談所には定期的に脚を運び、まぁ、今に至る、と、いうことらしいです。

 少しばかり時間を置いてから、なぜそれを私に語ってくれたのか問いかけてみれば、彼は「さあ……分からない、なぜだろうな……」と呟いてから沈黙してしまいます。
 ロボットが自分で自分の気持ちを理解できないって、考えてみるとスゴイことですよね。
 体が機械仕掛けというだけで、その中身は人間のものなのじゃないか、なんて疑ってしまいそうです。
 この時代の本当に優秀な人工知能は、もはや人の脳すら凌駕しているのかもしれません。

「…………もしかすると、だが」
「あっ、はい」
「似ていると、思ったのかもしれない」
「……………………それは、コアの?」
「あぁ」

 そういえば、アークさんは常に丁寧な言葉遣いをしているわけではないようです。
 過去の話をしてくれているうちに、素でしゃべってくれるようになっていました。
 とはいえ、敬語や丁寧語ではなくなったというだけで、話し方自体は育ちの良さを感じさせるというか、例えるならばファンタジー世界のイケメン騎士団長のような、絶対シモネタとか言わないんだろうなと思わせる上品さがあります。

「難解な奴でな……我々には明確な護るべき対象が存在しているというのに、同僚である私達をも当たり前のように庇ってみせる男だった。
 そんなアイツが良く言っていたんだ、『互いに互いを守り、そして守られていれば、退けられない敵などないのだ』と。
 一見して最新型武装ロボとは思えぬ非効率的な行動ばかり起こしていたが、不思議とアレの参加する護衛依頼での生還率は高かった」
「え……あの、私……私は、そんな同僚を庇うような、誰かの為に命を差し出せるような、そんな正義感の強い人間ではないです」

 話の腰を折るようで悪いかなとは思いましたが、とりあえず、博愛主義ではないのでそこは誤解のないよう先に否定しておきます。
 私が守り守られたいのはあくまで愛する夫だけです。
 っていうか、アークさんの記憶の琴線に触れたキーワードってコレだったんですね、結構ピンポイントで撃ち抜いてる感じでしたね。
 あまりその思い出の彼に似ていると思われると、本人も意識しない内に代替機扱いになっていそうな怖さがありますし、さすがにソレは許容できませんよ。

「あぁ、いや、誤解させてしまったようで申し訳ない。
 どうにも、戦闘に関すること以外は不器用で……。
 ただ、一般的な女性というものは、例えば我らの護衛対象のように、一方的に守られる立場を望むものだと思っていたので、こう、珍しく思ったのだ。
 そういった、私の中の常識とは少々離れた考え方が、似ている、と……すまない、上手く言葉にできないな」
「いえ、おっしゃりたいことは何となく」
「そうか……それなら良かった」

 小さく頷きながら、私は脳内で戦闘以外不器用ロボという彼の属性に全力で萌え萌えキュンキュンしておりました。
 気まずそうに自身の頭部を背中から伸びるサブアームのレーザー発射口辺りで掻くアークさんメチャクチャ可愛いです、ありがとうございます、ごちそうさまです。


 さて、実はそろそろ結婚相談所の営業終了時間が迫っているのですが、義理でここに通っているというアークさんがまた私と会ってくれる可能性はあるのでしょうか。
 お国の直営だから、お役所と同じで夕方17時で閉まっちゃうんですよねぇ。
 個人的には「アークさん、キミに決めた!」と今すぐ結婚を迫れる程度には気に入っているのですが……彼の真面目な性格から考えるに、今ここで結婚しましょうと言ったところで頷いてくれるとはとても思えません。

 今まで戦闘しかしてこなかった彼が全然家事なんて出来なくて、落ち込んで、そんな彼を励ましながら少しずつ教えていく妄想とか、逆に1度見ただけで私以上に器用に何でもこなすスーパーダーリンと化す妄想とか、あとは一緒に買い物に行って軽がる荷物持ってくれたり、チンピラから私の連れに何か御用ですかなんて武器をチラつかせながら庇ってくれたり、唐突に好きとか愛してるとか囁いて恥ずかしがらせたり、すでに色んなシチュエーション萌えが止まらなくてどうしようもないんですけどねぇー。
 相手があってのことですから、自分勝手に暴走するわけにはいきません。

 会ってもらえなければどうしようもないですが、できれば少しずつでも段階を進めて…………ほげッ!?
 えっ、ちょっ待っ、アっ手っ、手がっつかっ掴まれっ!?
 ええぇぇぇえ何待ってなに何でアークさんに手ぇ握られて待って何で待っぁああぁぁあらめぇぇえぇ近い近い近い待って何でそんな急にああぁ脳みそ爆発するぅぅぅううぅぅ絶対今顔真っ赤あああぁぁあーーーあぁああぁ!

「あの……」
「ひぁひぃ!?」

 ぎぃゃあああ咄嗟に変な声出たもうやだぁぁやぁだぁああぁぁああ!

「あ、いや、そのように驚かせるつもりではなく……すまない」
「らいじょぶれ大丈夫れ御座る」

 あぁあ何言ってんの私待ってロレツ回らない言葉出ないナニ何でこんな状況になってるの何でぇって言うかもう涙でてきたしもうホント私サイテーだしなんでこんな急に近くぁあぁぁぁダメ声近い顔近い関節接合部の色気ヤバイ無理ダメ無理カッコイイ機体内から微妙に聞こえる稼働音もヤバイ恥ずかしい無理ぁあぁぁぁああ!

「その、貴方さえ良ければ、今度はそちらの話を聞かせて欲しいと思って、だな。
 まだ貴方の言う愛というものについては私にはよく分からないが、ここで終わらせてしまうには惜しい縁だと感じたのだ」
「ひぃぃ会いまふ、いくらでも会わせていただかせていただきまふでしゅぅぅーーーー」



 そう広くもない室内に、無様な叫びが響き渡りました。



 その後、私達はまぁまぁ順調に逢瀬を重ね、ついに半年後、無事、結婚に到ることが出来たのでございます。
 ありがとうございます、ありがとうございます。

 ちなみに、あの時アークは突然真っ赤になって泣き出して腰を抜かすなどという奇行を見せた私に、一瞬怖がられたかなと思ったそうだけれど、無意識にも繋がれた手だけはしっかりガッチリずっと離さなかったのを見て、嫌われてるわけではないのだと安心したと同時に、初めて人間の女性のことを少し可愛いなと思ったのだそうです。

 私の体、色々と正直すぎかよ……ちくしょう……。

 アークがあのボロボロ状態から初めてメンテしてキレイになってデートに来た時も、無駄に号泣して驚かせてスミマセンでした……。
 っだって、格好良すぎて、何か、感極まっちゃったんですよっ……ホント……何て言うか……前世でロボオタやってて良かったです……ありがとうございます……。



 でも、あの、これだけは言わせて欲しい。




 不意打ち・ダメ・絶対!!






 おしまい。

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