振り込め詐欺撃退~ほぼ実話
『……このように、オレオレ詐欺に引っかかる親、祖父母世代は非常に多く……』
一人暮らしのアパートでそんなテレビのニュースを見ながら、私こと田中恵梨は実家の祖父母を心配していた。
両親は共働きだから心配はしていない。携帯にオレオレ詐欺はできないだろうし、銀行が閉まる夜中に電話は来ない。
問題は一日家にいる祖父母だ。心配だから明日の休みをつかって、よく言い聞かせておかないと。
◇◇◇
「よく来たねえ、恵梨ちゃんの好きなお菓子はいつもあるから、たんと食べていきなさい」
味覚なんてとっくに変わったのに、祖父母から小学生の時に好きって言っていたお菓子を出されて、ちょっぴり複雑な気持ちになりつつ頬張る。完食して歓迎ムードもおさまったころに本題を切り出そうとする。
「あのさ、最近、新手の詐欺がすごいでしょ? 今のうちに合言葉とか作って……」
と話しかけたところで横の黒電話が鳴った。一番近くにいた祖母がとっさに取る。
私はふと思った。まさかこれがオレオレ詐欺だったら……ないか。孫がいるのに詐欺とかバカすぎる。そう思って暢気に電話をする祖母を見ていた。
「はいもしもし! ………………」
祖母は真顔で電話を耳に押し当てている。何も不自然なことではない。大方、一方的に話すのが大好きな親戚のAさんあたりだろう。
「じいちゃん、じいちゃん!」
と、しばらく電話を聞いていた祖母は、突然祖父と交代した。Aさんじゃなくて、時々あるお役所からの電話だったのだろうか、長々とこういう用件だから代わってくれと事務的な会話のすえ、世帯主の祖父に最終的に行くのはよくある。
「………………」
祖父もだんまりだった。これも不自然ではない。祖父はもともと喋るのが好きではないのだから。
「……ん」
交代して数十秒で、祖父は祖母に受話器を押し付けた。これにはさすがの私にも疑念がおこる。誰? 何やってるの?
「なんだいじーちゃんったら! はいもしもし!」
再び祖母に受話器は渡った。が、
「もしもし? もしもし? ……切れちった」
私の胸にとある不安がうずまく。電話も上手くできないとか、祖父母、ボケちゃったんじゃあるまいな? もしくは耳が遠くなった? その考えを否定してほしくて二人に問いただす。
「今のどちらさんからだったの?」
「分かんね」
「知らね」
……耳が遠くなったのでなければ頭だ。やべえ、ボケってしまいには下の世話までするようだし、誰かが会社辞めなきゃならないかも……。最悪の事態に勝手に怯えている私に、祖父母は可愛く小首を傾げて言った。
「だって、オレオレオレオレ言ってて名乗らないんだもんなあ」
それ以来、我が家に振り込め詐欺はかかってこなかった。
詐欺の人は必死にオレオレ言ってたんだろうな……。