星の下で愛を誓う。(7/17)縦書き表示RDF


ここからは視点がごちゃごちゃ。
ちゃんとわけてますが、わかりにくかったらすいません。。
星の下で愛を誓う。
作:詠城カンナ



第三部/宇宙を心 第一章/まばたき



宇宙を心
――――――――――――


とてもそこしれない、予測不能

君も宇宙も

ブラックホール

宇宙を心






******





〜まばたき〜



まばたきすれば。








え……?
保志?

保志の悲しい笑顔が頭のなかをめぐってゆく。
そんな顔を見たかったわけじゃないのに。
微笑を浮かべて、「そっかあ」なんて言ってほしくなかった。
他の応えを期待していたわけじゃない。
(だけど……だけど、それではあまりに悲しすぎる)


藍はベンチに座り込み、立ち上がる力もなく、脱力しきっていた。
必死で働くことを忘れた頭を動かし、考えようとする。
しかし、藍の思考回路はのろく、なかなか言うことをきかなかった。
(どうすればいいの?どうしたらいいの?保志は記憶を取り戻したんだ。だからきっと・・・・・・)

意識してしまうだろう。
そして、理解してしまった。
保志は、気がついてしまったのだ。
もしも、そのことを彼が負い目に感じてしまうのならば、今すぐにでも彼のもとに行かなくてはならない。

(負い目に感じる必要はない。だって、保志はなにも悪くないもの・・・・・・)

彼から目を離してはならない。
彼が生きていることを負い目に感じたならば、きっと少女に呑まれてしまうだろう。
彼の背後にいつもいる、小さな幼い、女の子に。




***




彼女の名前は百乃モモノ
黒髪のきれいな、かわいらしい女の子だった。


悲劇がくるまでは。


百乃は保志と仲が良かった。
いつも一緒だった。
なのに。
交通事故で、百乃は命をおとした。
それも、保志の目の前で。


どちらが死んでもおかしくない状況だった。
ただ、百乃のほうが車に近かった。
それだけだ。


衝撃で、保志は後ろへ飛ばされ、命は助かった。

少しの差だ。
大きな差だ。

雨の日の悲劇。

だから。
保志はショックでそのときの記憶をなくし、雨が妙に好きになれなかったのだ。
記憶はなくても、感じるからだ。

『念』を。

切ない、悲しい、『念』を。
百乃の『念』は保志についた。


どうして保志だけが生きているの?
どうして?
生きるって?
なぜ?
あたしとあなたはちがうの?
なぜ?
憎い?
憎い!
悔しい。
あたしだって笑いたいの。
幸せになりたい。




***




保志は夕焼けをにらんだ。
きれいな夕焼けが憎らしかった。
悲しみに心を許してしまいそうになるから。
泣くことはできなかった。
そういう悲しみではないから。


なぜ、自分は生きているんだろう。
それが不思議でならなかった。
わからなかった。
生きているのに。
なのに、歓びがない。
生きていることを申し訳なく感じてしまうのだ。
大切なものを失えば、生きていても、なにもないように思われてくる。
藍によって引きずり出された記憶の糸が、長く長く伸びて、保志の喉をしめつける。


(なにをすればいいんだ・・・・・・これから、どうすればいいんだろう)
ふと、藍の言葉がよみがえってきた。
「縛られている」
ちがう、な、と保志は思った。
(縛られているんじゃない。おれが引き寄せているんだ)


保志は沈み損ねた夕日のかけらに背を向けた。
もう一度、藍に会って話がしたかった。
聞きたいことがあった。


もし、百乃が苦しんでいるならば・・・・・・。
やらなくてはならないと思った。
なにか、しなくてはならないと。
開放してやりたいと思った。
自分自身に、できることがあるならば。


今、ここにいる自分に。
存在している自分に。
生きている、自分に。

なにができるだろう?


それを、藍に聞きたかった。
しかし、ベンチにはもう、藍の姿はなかった。
肩で息をしながら、保志はきょろきょろとあたりを見回した。

(まだ、近くにいるはずだ)
あてがあるわけではなかった。
確信があるわけでもなかった。
ただ、走った。
それしかできなかった。

聞きたいことがたくさんあった。
言わなければならないと思った。
だから、走った。
ほかにはなにもないから。


ただ、藍の姿を捜す。



「藍!!!」
見つけた……!
ついに見つけた。
保志は、自分の数メートル先にいる、風になびく髪を無造作にかく少女を見つけた。
小柄で、しゃれっけのない後ろ姿だ。
その自然な姿が、ほかの人間とはちがう『特別』をかもしだしているようだった。
保志の目には、彼女以外うつらなかった。
目が離れなかった。


(なぁ、藍――)
保志は知らず知らずに心のなかで呼び掛けていた。
(おれ、なにができるかな……あいつのために……百乃のために――)

もうすこしだ。
藍に手がとどく。
そのときだった。


――ビビーッッ!!!



目の前がまっしろになった。
赤信号が目の端にうつる。
藍の姿が薄くなる。



「あ……い――」



あれ?
声が出ない。
うまく歩けない。


藍。
おれ、生きてていいのかな。



藍が振り向いた。
それが、その顏が白に包まれていく。
消えてほしくなかった。
ずっとそばにいてほしかった。


(藍、消えないで)
しかし、振り向いた藍の表情を見て、保志は愕然とした。
藍が、泣いている――。
それも、こちらを見て。


「保志!!!」
そして、目の前がまっしろになった。
意識を手放す瞬間、保志は笑い声を聞いたように思った。


(消えるのは、おれ?)



まばたきをする。
目を閉じると見える。
まぶたの裏にいる、きみに出会える。


ほら、ね。



***







同い年くらいの、髪の長い少女が、目の前にすっと立ちはだかったような気がした。

「あなたは――」
『百乃だよ』
少女は無表情でそう言った。
『あたしが生きていれば、こんな姿だったんだ……時間が止まらなければ、保志みたいに生きていられたら……』
少女はそこで、うすら笑いを浮かべた。
『別にあたしじゃなくてもよかったんだよね?保志でもよかったんだよね……』
藍は百乃の不気味に美しい顏をにらんだ。
『あなたもそう思うでしょ?』
透き通る声。
暗く、鋭いまなざし。
長い漆黒の髪が、恐ろしいほど彼女をひきたてる。
その笑顔は、有無を言わせないものだった。


しかし、藍は震えながらも彼女をにらみつづけた。
百乃は面食らったようすで、しばし藍を見つめていたが、やがて含み笑った。
『どうでもいいか。でもね、保志がいけないんだよ。生きてることを粗末にするから』
「どういう意味?」
ふふっと百乃は笑うと、すうっと消えはじめた。
『もう手遅れだからね』
「待ちなさいよ!」


藍は叫んだが、それは虚しく空へ木霊した。



***




目が覚めると、消毒のにおいがした。
まばたきしているうちに、なぜか涙が込みあげてきた。
頭の整理より早く、感情が働いてしまったらしい。


「保志……」

力なく呼んでみた。
藍が保志と別れ、家への帰路へついたとき。
呼ばれた気がして振り返ると、耳をつんざく急ブレーキの音がした。
そして、少年が横断歩道でぐったりと倒れているのが目に入った。


「……保志!!!」


だれかなんてすぐにわかった。
思わず叫んでいた。
それから――ぐらりと足元がおぼつかなくなり、あとはわからなくなった。
保志に駆け寄ろうとした。


しかし、できなかった。
阻まれた。

――百乃に。


(あれは、夢?)
夢でもなんでも、百乃は言ったのだ。

――もう手遅れだからね。

(どういうこと?百乃がわたしになにか言いたかったの?まさか、保志は……)

保志は?


藍は勢いよく起き上がった。
ここがどこかもわかっていなかった。
なぜ自分がここにいるのかも考えなかった。

ただ、保志が心配だ。
それだけだ。

ここは――?



「病院だよ」
千佳子だった。
手に花束を抱え、ベッドのわきに立っていた。
容姿淡麗な彼女は、にっこりと笑い、花束を花瓶へ入れはじめた。

「なにがあったか覚えてる?藍、倒れたんだよ」
「……倒れた?」
こくんと頷くと、千佳子は静かな口調で言った。
「よほどショックだったんだね。そりゃあ、そうよね。びっくりしちゃうよ」
目にかかる髪を手ではらいのけ、すっかりきれいに入れられた花瓶を誇らしげに見やり、千佳子はつづけた。
「目の前で人が事故に合うなんてね……それも、知人だもんね」
藍は汗をかいた手をぎゅっと握りしめた。


「まぁ、でも命に別状はないって言うし、よかったよね」
「ぁ……」
肩の力が抜けた。
涙がぽろぽろこぼれてきた。
安堵感が津波のように押し寄せてくる。

(よかった……保志は生きているんだ)
千佳子が頭をやさしくなでた。
「久坂くん、大事なんでしょ?」


――大事なんでしょ?


(大事だよ。なによりも大事だよ。なんでだろう……?)
藍は泣きながら、何度も深く頷いた。
千佳子は微笑を浮かべた。
それから、一枚のメモを手渡した。

「――これは?」
藍はわけもわからず問うた。
メモは丁寧に四角に折られている。
千佳子は渋ったが、すぐに言った。

「久坂くんから」
「保志から?!」
「うん。嵩太くんから頼むって言われて……」
(嵩太って保志の友達の……保志からの伝言?)
藍は急いで四折りにされたメモを開いた。
メモには一行、こんな風に書かれていた。


『藍、大丈夫?』


「ごめん。中、見ちゃった。だけど、彼、藍がなんともないってこと知ってるのよ。ただショックで意識がなかったってだけだって、伝わってるはずよ」
千佳子は小首をひねった。
「なのに、どうしてわざわざメモなんかで聞くんだろう?」
藍はじっと『大丈夫』の文字を見つめた。
これはきっと、保志なりの気遣いなのかもしれない。
彼は不器用なのだ。


「……書く言葉がなかったのよ。千佳子、ありがとう」
「いえいえ」
きれいに整った顏をした少女は、そろそろおいとまするわ、と言って部屋を出ていった。

藍はしばし遠くを見つめていたが、やがてメモを握りしめたまま布団をかぶった。
















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