最終章/呼応
*星がきえても愛がのこる*
〜呼応〜
あわせて、共に。
「あーあ。いやだな」
少女は愚痴をこぼした。
明日はテストだというのに、今夜は家でパーティーをしようというのだ。
あきれるほか、なにものでもなかった。
「なにがそんなに不満なの?」
少女の母親はおかしそうに言った。
「だって、お父さんの友達、自慢ばっかりするんだよ。それも、いっつもおんなじ自慢!」
「まあ、なんて?」
「おれさまは、甲子園にいったことがあるんだぞーって」
ふふっと含み笑いを浮かべ、母親は娘をなだめた。
「だって、本当のことですもの」
「それにね、いっつもおれの奥さんは美人だろ!ってうるさいんだけど」
「それも、本当のことですもの」
「そりゃぁ、たしかに千佳子さんは美人だよ?だけど、嵩太はちょっとうるさくて」
「こら、嵩太なんて呼び捨てしちゃだめでしょ」
少女はぷんとふくれっ面をつくった。
「あした、テストなの。なのに、あいつの野球話に耳を貸していられないの!」
「あいつ?」
母親はにやにやしながら尋ねた。
「あいつよ!」
「もしかして、昴くんのこと?」
「そうよ!ニヤニヤしないで」
「昴くんて、千佳子と嵩太の息子の、昴くんのこと?」
「そうよ!なんでそんな風に言うの!――ニヤニヤしないで!」
「あら、あら」
「とにかく、あたしはいやなの!」
すると、娘の不満な声を聞きつけ、父親が口をはさんだ。
「だけど、今日は結婚記念日なんだぞ?」
少女は出現した父親を見つめた。
なにか言いたそうにしたが、口を閉じた。
「・・・・・・わかった。じゃあ、時間になったら呼んで。部屋にいるから」
父親は満足そうに笑うと、母親と一緒にパーティーの仕度にとりかかった。
その途中で、ささやくように、
「あいつ、昴のことが好きなのか?」
と妻に尋ねる声が聞こえてきた。
少女は思いっきり音をたてて部屋のドアを閉めた。
(まったく・・・・・・結婚記念日に友人招いてパーティー?それも、娘のテスト前夜に!)
少女はしばらくイライラしながら勉強していたが、階下からのおいしそうな夕食のにおいで、とうとう手につかなくなった。
(それに、あたしは昴のことなんか好きじゃないもん!)
少女はベッドにごろんと横になった。
本当に勉強が手につかない。
そうこうしているうちに、騒がしい物音が聞こえてきた。
うとうとしてきた目をこすり、少女は起き上がった。
やがて、玄関から声がした。
「おーい!保志!藍!」
「おじゃましますー」
「こんばんは」
少女はそろそろ呼ばれるだろうと観念し、そのままにしていたノートを閉じて、つけっぱなしだったスタンドの電気を消した。
そのころには、少女もすっかり機嫌をよくし、パーティーをめいっぱい楽しもうと思っていた。
耳をそばだて、名前を呼ばれるのを待った。
会話が聞こえてくる。
「久しぶりだな、さ、入れよ」
「おう、これ、酒な!」
「ありがとう、きてくれて」
「ううん。楽しみにしてたんだから」
みんな楽しそうにおしゃべりしている。
ちっとも少女のことなんて気にしていないみたいだ。
少女はイライラしてきた。
(なんでだれもあたしのことを聞かないのよ!ばか――)
と、そのとき、ひとりの声が響いた。
「あれ、あいつは?」
それでやっと気がついたのか、大人たちは笑った。
「二階だよ、昴くん、悪いけど、呼んできてくれる?」
「いいっスよ」
どきりとした。
だけど、気がつかないふりをしよう。
ここまでの会話も。
階段を登る足音も。
そして、この心臓のどきどきも。
やがて、ドアの外から声がした。
しかし、少女は名前を呼ばれる前にドアにぴったり張りついていた。
今の自分の表情を、このうれしさでゆるんだ表情を、どうにかしなくては。
そんな少女の気持ちもおかまいなしに、少年の声がした。
少女を呼ぶ、声が。
(今日は、いいか。素直になっても――結婚記念日なんだし。パーティーやるんだし)
「夕榎、飯だぞ、飯」
「わかってる、今行くよ!」
*終わり*
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