俺、的中する
大破したカイザーゴーレムの残骸が砂煙に紛れながら消えていく。
跡には大量の鉱石だけが残された。
まだ一同がポカンとする中。
「ガーハッハッハッハ! こりゃあ愉快痛快なことをやるもんだ!」
おっさんが大笑いし始めた。
めんどくさいので何が起きたのかいちいち解説したりはしなかったのだが、この男はすぐに気づいたらしく、いたく満足げに俺の背中をバンバンと叩いた。
いてーよ。
自分が熊みたいなものであることを理解してほしい。
「こいつァ一本取られたぜ。見た目と違って大胆なことしやがる」
「見た目は余計だ」
俺は素っ気ない相槌を返したが、それでも十分とばかりに歯を覗かせるおっさん。
それから、討伐隊全員を見渡して告げる。
「見てのとおりだ、俺たちの勝利だぜ! あのゴーレム・グレバンダニカ・ティランティをわずか二日で撃破した! ギルドの歴史に刻まれるべき快挙だ! 大いに喜ぼうじゃねェか!」
おっさんが勝鬨を上げると皆が片手を振りかざした。傭兵の集まりではあるが、それなりに結束力は固かったようで各々ハイタッチを交わしている。
ただイェルグはまだトサカにきているらしく、不機嫌な面をぶら下げている。
しかしそれもおっさんが「よくやってくれた」と肩に手を置いて功をねぎらうと、あっという間に態度を軟化させた。よく気の回る奴だ。そりゃリーダーに推されるわな。
戦利品である二十四個の石はその状態でシェアされたりはせず、一旦鑑定に回された。
売却額を均等に割って配るらしい。
それが公平性ってやつだ、と討伐隊のまとめ役であるおっさんは説明した。
ここでレア物を引いてしまおうものなら俺は泣くに泣けない状況になるのだが、幸か不幸か普通の宝石しかなく、俺は分け前として8160Gを受け取った。
奴隷は分母に含まれないので三人分の働きでこの額と考えたら少々寂しい。
まあそんなのは瑣末な問題だろう。ここにいる連中一人一人に達成報酬として六万Gを支払っている俺がそんな小さなことを気にかけるのはアホくさい。
重要なのは事業を再開できるという、その一点だ。
人足を遠ざけていたカイザーゴーレムが消滅したことで、宝石鉱山は翌日からまた復興を見せ始めた。
夕方俺が向かった時には既に多くの冒険者たちが鑑定結果に一喜一憂していた。
もちろん、俺が運営するチームシラサワの連中も大挙して押し寄せている。
今日派遣した人数は過去最多の九十八人。ソロ十六人、パーティー二十三組という、もはや一大勢力と呼んでしまっていいほどの大部隊である。
集めに集めた石の数は総計百五十個。
「まったく手で持てる気がしねぇな」
仕方ないので小型の荷車をレンタルし、それに皮袋を積みこんで運ぶ。
「なんだこの数は……」
鑑定士のおっさんも量の凄まじさに若干引いていた。
「大変だとは思うが、なんとか頑張ってくれ」
「仕事だからやりはするが……二時間はかかるぞ?」
「そのくらいは待つさ」
時間はどうでもいい。これでスカだった時の喪失感のほうが俺にとっては恐ろしい。
だからって鑑定に回さないわけにもいかないからな。覚悟を決め、リセット不可の百五十連ガチャという底なし沼に飛びこむ。
クズ、クズ、『スピネル』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。
クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『サファイア』、クズ、クズ。
クズ、クズ、クズ、『ペリドット』、『ヒスイ』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。
連続であったか。幸先としては悪くない。
クズ、『ダイヤモンド』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。
クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『ローズクォーツ』、クズ、クズ、クズ、クズ。
『ラピスラズリ』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。
まあこんなすぐに出るとは思っちゃいない。
鑑定を続行。
クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『ソーダライト』、クズ、クズ、クズ。
クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『ブルートルマリン』、クズ。
クズ、クズ、『ジェット』、クズ、クズ、『トパーズ』、クズ、クズ、クズ、クズ。
どれも見慣れた宝石だ。
俺がお目にかかりたいのはこいつらじゃない。
クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『ルビー』。
クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『ジルコニア』、クズ、クズ、クズ。
クズ、クズ、『アメジスト』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。
容赦ないクズの嵐に心が折れそうになってきた。
もう残り三十個なんだが。
クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『エメラルド』、クズ、クズ、クズ、クズ。
クズ、クズ、クズ、クズ、『治癒のアレキサンドライト』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。
クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『セレスタイト』、クズ、クズ。
「ん?」
ストップ。
「なんか今、変なのが混じってなかったか?」
三十四番の袋から出てきた宝石には他とは異なり接頭語が与えられている。
「そいつがレア宝石だ。見たところ、自然治癒力を著しく向上させる働きがあるようだな。詳しい話は宝石細工の職人に聞いたほうがいいだろう。アクセサリーになってからでないと実際の性能は分からんからな」
おっさんから渡された鑑定書には、紛れもなく『希少品』という記述がなされていた。
「お、おお……ってことは、ついに入手できたのか……」
薄汚れた原石が早くも輝いて見えてくる。
それ以外を買い取ってもらいながら、俺は改めて喜びを噛み締めようとするが、不思議と達成感よりも脱力感が上回っていた。
通算で五百個は鑑定したはずだが、ようやくか……。
イヤッホウとガッツポーズを決めたい気持ちもなくはないものの、それ以上にガチャという深淵から解放されたことに対する安堵のほうが強い。
実感を得られるのは、おっさんが言うように装飾として身につけてからになるか。
ひとまずの説明を聞いた限りだと、傷の治りが早くなりそうな感じがする。欲を言えばそもそも無傷なのがベストだが悪くはない。すぐにでも恩恵にあずかりたいところだ。
とはいえ、時刻を確認するまでもなくとっくに夜を迎えてしまっている。
加工作業は明日だな。