俺、参戦する
チームシラサワの営業を始めてから四日が経過した。
依然として超貴重な宝石は見つかっていない。
ただ登録人数だけは増え続けていた。これはどんどん溜まっていく差額に惹かれて、一発のデカさを重視する層までも宝クジ感覚で集まってきているのだと思われる。
まあ人手が増えればガチャを回すチャンスも増えるので、俺としてはありがたい話だ。
あと、俺自身が働かなくていいのも最高。
しかし五日目を迎えたこの日……。
「参加希望者ゼロ!? なんでだ?」
午前九時頃にギルドを訪れた俺は、おっさんからその数字を聞かされて愕然とした。
けど、ラウンジに詰めかけている人数を見ればそれも納得だ。まだ朝だというのに妙に多い。探索に出向いている冒険者自体がかなり少ないことが一目瞭然である。
「このところ、ゴーレムの駆除数が爆発的に増えてますからねぇ」
そりゃあ、俺が差し金を送り続けてるからな。
「例年よりゴーレム・グレバンダニカ・ティランティの出現時期が早まっているようです。おかげで宝石鉱山に向かう冒険者は激減していますよ」
「なんだそいつは?」
慣例として尋ねはしたものの、聞いた数秒後に忘れてしまうような名前からしてどうせレアモンスターなのは分かり切っている。
「ゴーレムを一定の数だけ倒すと現れるという、いわば、ゴーレムたちのボスのような存在です」
なら呼び方はキングゴーレムでいいか。
……いや、ありきたりすぎるな。俺のセンスが疑われる。
ここはカイザーゴーレムとしよう。
「姿を見せるのはおよそ三ヶ月に一度の周期なのですが、今回は若干間隔が短い。本来であれば二週間ほど後に出現が予見されていたのですがね」
ってことは、俺のチームは四日で半月分のゴーレムを狩っているんだな。
それだけやってもレア物に辿り着けなかったというのか……。
「じゃあなんだ、そいつがいなくならないことには鉱山ではロクに活動できないってことか」
「左様でございます。とはいえ一日で倒しきるのは少々厳しい。極めて頑丈な魔物ですからね。志願者を募って討伐隊を結成し、少しずつダメージを蓄積させながら……そうですね、撃破に一週間は要するでしょうか」
「はあ。そんなに日数かかるのかよ」
待ってらんねー。
「討伐隊って大体何人くらいになんの?」
「完全志願制ですからね。それほど多くはありません。対応に当たっていただくのは、いつもだと五、六人のパーティーでしょうか」
「ふむ」
おっさんに見せてもらった依頼一覧には、なるほどギルド名義によるボスの討伐要請が一人あたりの報酬二万G、かつ募集人数無制限で出されている。
受注者名簿にある氏名はイェルグ、ガードナー、ヒメリ……ってヒメリかよ。相変わらず強敵の好きな奴だな。
現時点ではまだこの三人しか集まっていない。
名誉は相当得られるだろうが、手間と危険度の割には安価だから仕方ないか。多分だがボランティアみたいなもんなんだろう。
本来は。
「おっさん」
「いかがなさいました?」
「この依頼破棄してくれ。俺が新しく出すわ。報酬六万で」
ギルド全体がざわついた。
「このくらい出せば日頃『我関せず』を貫いてる奴らでも腰を浮かすだろ」
「よろしいのですか? 個人の利益になる依頼ではありませんが」
「さっさと終わらせて宝石探しをやりたいからな。あまり時間は無駄にしたくねぇ」
そう答え終えると同時に「ガッハッハ」と聞き覚えのある笑い声が二階から響いた。
大柄な体をのしのし揺らして声の主が階段を下りてくる。
あのガタイのいいおっさんか。
「こいつァ面白い奴がいたもんだ。ギルドじゃなくて自分で討伐隊を結成するとはな。一目見た時から他の男とは空気が違うとは思ってはいたが」
「俺は行かないぞ。しんどいし。出資するだけだ」
「甘ェな兄ちゃん。一日で十七体もゴーレムを狩れて、討伐隊までポケットマネーで作れる冒険者なんてそうそういねェ。これだけの実力者がご隠居なんざ世論が許してくれないよ」
おっさんのいうことはもっともで、発案者である俺を実働部隊のリーダーとして推す声が上がり始めている。
「それに親玉の出現が早まった原因は兄ちゃんにあるからなァ。その落とし前もつけないと皆納得しねェぜ」
「む、そりゃそうだが……」
痛いところを突いてきやがる。
先日起こしたチームについては既に大多数に知れ渡っているだろうしな。
結果として引き起こしてしまった事態を無視すれば、非関係者からは疎まれ、参加者からは信用を失う。
「……おっさん、ちょっといいか?」
俺はギルドマスターのほうに質問を飛ばす。
「ゴーレムのボスってことは、こいつも金は落とさないってことでいいんだよな」
「そのとおりです。未鑑定の石を多めにドロップするだけですね」
だったらスキルもバレないか。
「分かった。俺も行ってやるよ。そっちのほうが早く片付くだろうしさ」
「そうこなくちゃな! グワッハッハ!」
おっさんは俺の背中を体育会系のノリと筋力でバシバシ叩く。
「行くとは言ったが、リーダーは嫌だぞ。俺は的確に指示とか送れるようなタイプじゃないからな」
責任とかもあまり負いたくないし。
「ならば、今回もガードナーさんに率いてもらうとしよう」
別のどこかから朗々とした声が上がった。
長身で槍を携えたそいつは、イェルグと名乗った。さっきリストにあった名前だな。
「誰だよ、ガードナーって」
「んあ? 俺のことだが」
目の前のおっさんがのんきそうに言った。
あんたかよ。
「ガードナーさんはこの町に残っている唯一のBランク冒険者だ。討伐隊には毎回参加してもらっている」
思い返してみると、その名前も載ってたな。
にしても、Bランクって。そんな凄腕だったのか。俺はてっきりただの酔っ払いだとばかり。
「彼が信頼に値する人物であることを、シュウト……だったか、お前にも保障しよう」
「そっか。なら頼りにさせてもらうか」
「無論、私も討伐隊に加入する。破棄された依頼の時点で記名していたからな」
イェルグは迷いなく隊員リストに名を連ねた。
その後も続々と手が上がった。
報酬を三倍にしたおかげで志願者数は大幅に増加している。
その数、合計十六人。
これに俺と俺の奴隷も加わるから、もはやパーティーというより一個小隊だ。
「いや私もいますからね。忘れないでください」
……ヒメリも追加。
そういや事前申請していた最後の一人だったな、こいつ。
「本当はギルドの正規部隊で挑みたかったのですが……仕方ありませんね。幸いリーダーはシュウトさんではないみたいですし、上下関係が生まれないのは好都合です」
「どうでもいいことを気にすんなよな……」
とにかく、これで全員のようだ。
「えー、ってことは……冒険者が俺を含めて十八人に、ミミとホクトで……二十人か」
報酬の支払いだけで百万オーバーとは、さすがの俺も震えてくる。
「ガッハッハ、空前絶後の大部隊だ! こりゃあ一段と面白くなってきたぜ。もしかしたら三日もかからないかもなァ」
三日ですらなげーよ。できることなら、一日で終わらせてやりたいんだが。
ただしあくまで個人的な希望に過ぎないので口には出さないでおく。
「さあさあ、役者は整った。これより目指すは魑魅魍魎の待ち受ける死地。ひとつこの町のために暴れてやろうじゃねェか、お前らァッ!」
おっさんがそう胴間声で吠えて斧を高々とかかげると、俺とヒメリ、それからミミとホクトを除いた地元の面々は「オー!」と士気を昂揚させて応じる。
これが統率力ってやつなのか。
何度も討伐隊のリーダーをやってるという話も頷けるな。
そのおっさんによる先導の下、俺たちは宝石鉱山へと向かった。