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俺、設立する

 その日、俺はミミとホクトを宿に残して、一人ギルドのラウンジで優雅にモーニングコーヒー……ではなく、迎え酒をあおっていた。


 運ばれてきた未確認肉の香草焼きを肴に、朝っぱらから飲むワインもオツなものである。


 午前中だから客も少ない。


 そんな俺のゆるりとした朝の静かな時間を、慌しい足音がぶち壊した。


「シュウトさん、少々お時間いいですか?」


 ブロンドヘアーを振り乱した落ち着かない様子で、張り紙を握ったヒメリがテーブル席にまでやってくる。


「おい。それ俺が受付のスペースに貼っておいてもらったのに剥がすなよ」

「ちゃんと許可はいただきましたよ。それよりです」


 張り紙をバンバン叩きながら質問してくるヒメリ。


「なんですか、この『財団法人・チームシラサワ』というのは?」

「書いてあるとおりだけど」

「いえ、そういう話ではなくてですね……」

「業務内容まで説明しないとダメか? それも一緒に書いてあるじゃん。分かりやすく言うとだな、採掘みたいにゴーレム討伐でもチーム制度を導入したわけよ。一昨日思いついて昨日準備したからな、かなりの急ピッチだぜ」

「だから組織の仕組みについて尋ねてるんじゃないですよ! どうしてこんなものを作ったのかということです」


 成り行きか。そんなの簡単な理由なんだが。


「レアな宝石が欲しかったんだよ。でも買取だと難しそうだったからな。その分の金を別の方法で運用することにした」

「だから財団ですか。資本金があるからってまた派手な真似をしますねぇ」

「そう褒めるなよ」


 まったく褒めてませんよ、ヒメリが冷ややかに言ったが、心にゆとりのある俺は気にも留めなかった。


「……それで、何人がチームシラサワに登録したんですか」

「今日は四十五人を派遣している。ソロ登録が七人、パーティー登録が十組で三十八人だ。ま、初日だからこんなもんだろ」

「随分な大所帯ですね。本当にうまく回るんですか?」

「ちゃんと規律は用意してあるさ。まあ見てなって」


 そうヒメリに答えた俺は、ワインの瓶を空にしてから宿に戻り、余裕を持って二度寝した。



 夕方、俺は宝石鉱山へと出発する。


 重役出勤気分を味わいながら向かった鉱山前には、既に作業を終えたチームのメンツが何人か戻ってきていた。


「シュウトさん、待ってたよ」

「おう。それじゃ、集めていくから順番に並んでくれ」


 俺の号令で冒険者たちが列をなしていく。


 班の人数に違いはあるが、共通してゴーレムから得た石を詰めた皮袋を担いでいる。


 袋は俺が支給したものであり、表面に番号が記されている。


 登録時に割り振った番号と同じ数字だ。


 こうすることで石を取得した日付をごまかしたり、非ゴーレム産のものを納入する不届き者がいた際に瞬時に見分けることができる。


「よし、確かに受け取ったぜ」


 中身を確認しつつ、袋ごと石を回収する俺。


 まずは日当として2000Gを渡す。


 これはソロ登録だろうとパーティー登録だろうと同じ額だ。人数ごとに出していたら架空のパーティーを用意する奴が現れかねないからな。


 また、石の納品量にもよらない。


 固定給みたいなものである。


 当たり前だが、ゼロの奴は納品すらできないので日当を受け取ることはできない。サボりには厳しくいかせてもらう。


 それから歩合給として、石一個につき7000Gを支払う。


「四個だから……お前には二万8000Gだな」

「へへっ、毎度あり」

「こっちこそありがたいぜ」


 その後、俺はサインを記入させた。


 チームを組んでいるという扱いなので個人では鑑定不可能。このルールは石を勝手に管理されることを防げもするが、当然俺にも適用されるので、鑑定所のおっさんのところに持っていく前に全員から許可を取る必要がある。


「いや助かったよ。これだけ安定した稼ぎになるんなら、ゴーレムを狩るのも悪くないねぇ」


 感謝を述べながら納品を済ませた冒険者たちは去っていく。


 つまりはそういうことだ。


 誰しもがゴーレムを大量に狩れるわけではない。パーティーを組んでようやく三個か四個、よくて五個しか石を獲得できないのだとしたら、外れるリスクを天秤にかけて、コツコツ採掘をしたほうがマシと考えてもおかしくはない。


 ゴーレムを狩りに来る奴の大半は自己強化が目的というのも、そういった事情ゆえだろう。


 だから俺は、ハズレかアタリか分からない状態の石を一個あたりの期待値に近い金額で引き取ることにした。


 安定志向の冒険者が乗ってくるのは想像に難くない。


 手に入るのはひとつの班につきたったの数個。


 だが塵も積もれば山となる……集めに集めた石の総数は、八十個に至った。


 全部まとめて鑑定所に持ちこむ。まとめて、とはいっても、どれが誰の納品物か分かるように袋ごとにである。


 ではこれより、八十連ガチャを開始する。



 クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『トルマリン』、クズ、クズ、クズ。


 クズ、クズ、『ガーネット』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。


 クズ、クズ、クズ、クズ、『トパーズ』、クズ、クズ、クズ、『サファイア』、クズ。


 クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『ダイヤモンド』、クズ、クズ、クズ。


 クズ、クズ、クズ、『アイオライト』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。


 クズ、『トパーズ』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。


 クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ、『ヘリオライト』、クズ、クズ。


 クズ、クズ、クズ、クズ、『アクアマリン』、クズ、クズ、クズ、クズ、クズ。



 鑑定の結果、宝石の原石と判明したのは九個。


 しかし、どうやら希少品、いわゆるSSRは含まれていないらしい。……スカか。


 ガッカリしながらもクズ石をその場で廃棄し、すべての原石を買い取ってもらう。


 合計査定額は七十一万2800G。


 石の買取総額である五十六万Gを超えているので、差額分は一旦プールしておく。


 売却金額を記した受取証明書を切ってもらい、帰還。


「おかえりなさいませ。ウェルカムドリンクはいかがですかな」

「うむ、一杯もらおうか。だがその前に、こいつを貼っといてくれ」


 ギルドのダンディズム溢れるおっさんに頼み、鑑定所の書類をチームシラサワの張り紙の隣に掲示しておいてもらう。


 収支を発表することで透明性をアピール。基本だな。


 買取と売却によって生じた差額は次回以降に持ち越しになり、レア物を取ってきた奴にすべて渡すことにしてある。仮にマイナスになればその日の分は加算しない。


 日当の支払いや差額の補填を行っている分俺が金銭的に得することは絶対にない。逆に言えば参加者が全面的に得をするため、不満の声が上がることもない。


 完璧な資産運用だな。


 まあ今日はスカに終わったのだが、明日からのお楽しみとするか。


 晩飯のパンと魚の燻製を買って宿にに戻る。


「お疲れさまでした、シュウト様」


 ドアを開けるや否や、早速ミミが一礼する。


「いかがでしたか?」

「ダーメだ。ハズレ。まあいきなり一日目からうまくいくとか、そんな甘くはないわな」


 それより飯にしよう、と俺は切り出したのだが。


「いえ、ちょっと」


 ホクトが遠慮がちにする。


「どうした?」

「一人で考え事をしたい気分なので、自分は屋上で食べてくるであります」

「そうか」

「……少し長引くかも知れませぬので、ご理解をいただければ幸いであります」


 燻製を挟んだパンを片手に部屋を出るホクト。


 前の町にいた時からそうだったが、ホクトは数日おきに二時間ほど席を外すようになっている。


 俺とミミのオトナの関係を知っているからだろう。


 せっかく気遣いをしてもらえたんだから、無碍にするのもよくない。決して俺の性欲がこみ上げてきているだとか、そういうのでは、まあ、本音を申すと、あるんではありますけども。


「ミミ、リフレッシュをかけてくれ」

「今ですか?」

「鉱山帰りで汚いからな」


 コートを脱ぎながらだった俺の発言の意図を読み取ったらしく、ミミは恥じらいをかすかにのぞかせつつも母性に満ちた笑みをたたえて、浄化作用のある魔法を唱える。


 俺はテーブル上の食事をほったらかしにして、頬を染めたミミをベッドに押し倒した。


 ミミは魔法の才能がBとしたら抱き心地はSSSくらいはあるからな。


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