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俺、発案する

 苦境にもめげずゴーレムを討伐し続ける俺とミミ。


 虚弱の呪縛とやらはかなり強力で、一度風圧で距離を取ってから重ねることで硬度自慢のゴーレムもさほど難航せず倒していけた。


 まあ手間がかかる分サクサクとはいかないけども。


「おお、素晴らしいお手並みであります!」


 戦闘要員でないホクトはすっかりさすごしゅポジションが板についてきた感があるが、表情をチラリとのぞきこんでみるとやや物足りなそうだ。


 やはりミミのように戦闘で役立てないことに複雑な想いがあるらしい。


 俺からしたら素材を詰め込んだカバンを運んでくれるだけでありがたいんだがな。


 結局、俺は四時間ほどで十七体のゴーレムを叩き割った。


 しかしこれだけやっても手元に残されたのは十七個のよく分からん石の塊のみ。


 実感もクソもない。


 唯一手応えを得られたのはブロードソードの使い勝手ぐらいだな。ゴリ押しはできなくなったが、頭をひねって戦ってる気がするから満足感は高い。


 とりあえず今日のところはこんなもんでいいか。


 疲れてきたので脱出。


 出入り口の近くにある鑑定所にて宝石か否かをチェックしてもらう。


「この数……採掘で獲得してきたのか?」


 カウンターの上にゴロゴロと並べた石をじっくりと眺めながら、顔の怖いおっさんがいぶかしげに聞いてくる。


「いや、ゴーレムをボコって取ってきた」

「ほう。だったら期待はできるか」


 ニヤリと唇を曲げるおっさん。


 ほほう、採掘よりはゴーレム産のほうが期待が持てるのか。


 まあレア中のレアはゴーレムからしか入手できないそうだしな。


「うむ、性質からして紛れもなくゴーレム由来の石だな」


 そんなことまで分かるのか。この世界の鑑定技術は相変わらず最先端をいってやがる。


「すべての鑑定が終わったぞ」

「どうだった?」

「十五個はなんの価値もないただのクズ石だ。しかしルビーとオパールの原石が一個ずつある。それぞれ七万4400Gと九万1500Gで買い取ろう」


 ええ……たったそんだけかよ。


 俺はついうっかり提示された額に不満を漏らしそうになる。


 ゴーレムは強さから逆算して、俺の見立てだと金貨三十枚くらいは落としてもおかしくない。ってことは本来五十一万Gは稼げたはずなのだが……。


「一応聞いておくけど、レア物なんかじゃないよな、これ」

「仮にそうだったらこの金額じゃ済まないな」


 ですよね。


 ということは普通に装飾品として市場に出回っているレベルだろう。イチから加工するのも面倒だし、どちらの原石も買い取ってもらった。


「毎度あり。いやいや、さすがにゴーレムを十七体も倒しただけのことはあるな。今日だけで一ヶ月分は稼いだんじゃないか? 笑いが止まらんだろう」


 金貨を積み上げるおっさんは景気のいい話をしているつもりなんだろうが、俺は到底そんな上機嫌にはなれない。


 あれだけ働いて十六万ちょっとって。


 俺は苦笑しか返せなかった。


「これだったら、同じ鉱山でもオーク狩ってた頃のほうがマシだな」


 鑑定所を出た後、そのへんにあった岩にハァと溜め息を吐きながら腰かける俺。


「お疲れのようですね。ミミにできることはありますでしょうか?」

「いや……ないな。体が疲れてるわけじゃないし」


 気遣ってもらえるのはありがたいが、今抱えている重苦しい感覚はミミの魔法でどうこうできるもんではない。


 それにしても、我ながら金銭感覚が狂ってしまってるな。確かに十六万もあれば何不自由なく一ヶ月間暮らせるんだろうが、どうしても少なく感じてしまう。


「……そういや、やけに集団で行動してるな、ここの奴らは」


 鑑定所に出入りしている冒険者は複数人同時なのがほとんど。


 討伐組はパーティーを組んで臨んでいるケースがあるだろうからともかく、採掘組までそうなのは謎である。


「それはチームを結成してっからだ」


 後ろから声をかけられる。座りこんだ俺をでかい体で覆うように顔をのぞきこんできたのは、昨日酒場……じゃない、ギルドで顔を合わせた斧のおっさんだ。


「よう兄ちゃん。ゴーレムとは戦ってみたか?」

「ああ。今がその帰りだ」

「だろうなァ。疲れた顔してるし。で、宝石は見つかったか?」

「見つけたよ。二個な。十七体も倒したんだから、そのくらいはもらわないと困るぜ」

「そんなにか! そりゃ凄ェ。Dランク四人でパーティーを組んでも、せいぜい一日に三体か四体が限度なんだがなァ。武闘派のCランクのソロでもそんくらいだ」

「ふーん」


 ということは期待値だけ考えたらそこまで利率がいいわけじゃないのか。


 冒険者が集まっているから物価も高いし、ヤンネがここで金策しなかった理由も分かるな。あいつ本人はともかく周りの女たちは戦闘力より依頼で名声高めたタイプっぽいし。


「兄ちゃん、相当やるねェ。こりゃ俺もウカウカしてられないな」


 まあ、正確には俺一人で倒したわけじゃないが。


「それよりチームってなんのことだ?」

「簡単な話さ。一人で採掘したって毎回原石を掘り当てられるわけじゃない。取得確率はゴーレム経由なら十分の一くれェだが採掘でだと百分の一にまで下がる。当たりゃあデカいが外した日は完全にオケラだ。しかもほとんどが外すんだから落差が激しすぎるだろう?」

「まあな」


 ギャンブルもいいとこだ。


「だから生活を安定させたい奴らは、チームを組んで活動するんだよ。一人では一日に二十個しか掘れなくても、五人集まりゃァ百個になるわけで、そうすりゃ理屈の上じゃ毎日一個はチームで原石を獲得できる。その売却額を山分けすんのさ」

「なるほど仕組みは分かった。だがな、こっそり隠し持つ奴がいたらどうなるんだ?」

「そこがミソでな。チームに所属している間は、個人で鑑定も売却も加工もできやしねェんだ。全部チームぐるみでないと行えない」


 だから鑑定所に束になって押しかけてきてたのか。


「知ってのとおり石ってのは鑑定してみねェことには価値があるかどうかハッキリしない。チームを抜けるまでの間、百に九十九はクズ石のものを密かに集め続けるってのは苦行もいいとこだぜ。ちょろまかすのは虚しすぎらァ」

「ああ……なんとなく分かるわ。人目を気にしつつ家にゴミ溜めこむようなもんだからな」

「それなら大人しく提出して早めに鑑定してもらったほうがいいってもんよ」


 それに他の奴と比べて採掘量が少ないと怪しまれるしな、とおっさんは続ける。


「当然、一発で大きく当てたい奴は単独で行動するがね。お前さんみたいにさ」

「ふむ」


 言うまでもなく、ゴーレム討伐をパーティーで行ってる連中も取り分は人数割りになるか。


「まあその辺に転がってるような宝石はどうでもいいんだよ。俺はレア物を求めてるんだ」


 土地探しの旅を続ける中でどんな至難が待っているか分からんからな。


 絶大な効果を持つアイテムは喉から手が出るほど欲しい。


「一応、ギルドに募集はかけてみたけどさ」

「そいつァ難しい注文をしたもんだ。ゴーレムを狩りに来る冒険者ってェのは、大概己の強さを求めてるのが多いからよォ。レア物が手に入っても自分用に使うんじゃないかな。パーティーを組んでいて独占が困難な場合は売るかも知れんがね」


 むむ、そう聞くと望みは薄そうだな。


 アホほど金を積めばいけるかも知れないが、いくらなんでも全財産の半分を超えた額になったりしたら一度に注ぎこむのは勇気がいる。


「ま、自分で拾うにしても、人から譲ってもらうにしても、気長に待つしかないわな。若いんだしゆっくりやっていきな、兄ちゃん」


 おっさんはガハハと絵に描いたような豪放磊落さで笑って、どこかへと消えていった。


 残された俺は腕を組んで静かに考えこむ。


 もちろんレア宝石の入手手段についてなわけだが、俺はこの時、とある冴えたやり方を頭に浮かべていた。


 物価も高い。金も(当社比で)稼ぎにくい。はっきり言って、俺がこの町に長居するメリットは皆無である。徒労感が半端ではない。今ある金でやりくりして速やかに目的を果たし、さっさとオサラバしたいところだ。


 必要に迫られているからだろうか、珍しく脳ミソがよく回転してくれていた。


「気長に待て、か」


 その必要はない。


 あらゆる話を総合して妙案に辿り着いた。


 これは明日にでも実行に移すっきゃない。


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