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俺、掘削する

 翌日、俺がギルドに掲示した依頼は『希少宝石募集 要相談』といった内容だ。


 モノによって価格が変わってくるので報酬は浮動にしてある。


 次いでいつもの三人で防具屋に向かったのだが……。


「こりゃすげーわ」


 文句なしのラインナップだ。


 衣服から重鎧にいたるまで、広い店内を埋め尽くすほどにギッチリと並べられている。需要が分かっているからこその品揃えだな。


 価格帯も様々だが、中でも銀色の輝きを放つ防具類が目につく。


「この鎧、結構な額してるけど……もしかして」

「お客さん、鋭いねぇ。そいつはレアメタルを十パーセントほど含んだ上物さ。量産品の中ではトップクラスの性能だね」

「ほう」


 光銀鉱なる土属性の魔力を宿したレアメタルが用いられているとのこと。


 ただレアメタルといっても比較的ありふれた素材であり、純度百パーセントの鉄よりもやや硬度に優れるという程度のものらしい。


 だからこそ安定した生産ラインに乗せられるのだろう。


「っても、並の防具より良質なのは間違いないか」


 けれど、それらよりも俺の目を奪っている代物がある。


 店の片隅に吊られたカーキ色のレザーコート。


 一点限りで十三万7000Gの値段がつけられている。鎧よりも更に上だ。


 丈の長いそれは、金属パーツが随所にあしらわれており、見た目も中々格好がいい。


「あれはなんだ?」

「以前に交易で仕入れた品でね、カトブレパスの革を使ったコートだ。あらゆるタイプの衝撃に対して十分な防御力があるし、石化にも耐性がつく。値段相応の性能なことは保証するよ」

「にしては売れ残ってるな」


 というか、埃被ってるし。


「そりゃあね、いくら高性能でも所詮は服のカテゴリーでの話だからだよ。似たような丈夫さでも光銀鉱の鎧のほうが安いんだから客はそっちを選ぶってもんだ。石化の呪縛を使ってくる魔物もこの辺りにはいないしさ」

「でも軽いんだよな?」

「それはもちろん」

「なるほど。そいつは非常に俺向きだな。これを買っていくぜ」


 俺は迷わず購入を決意した。


 値段さえ無視すれば曲がりなりにもレアメタル製である鎧クラスの防御性能が得られるっていうんなら、買わない理由はない。


 一括払いしてその場で装備。


 姿見で確認する。


 うむ、スタイリッシュだ。


 背中の剣にロングコート。完璧な組み合わせだな。


「よし、じゃあ今までアウターとして着ていたベストはミミに……」

「そいつは無理だよ、男性ものじゃないか」


 は?


「男専用の防具は女は装備できない。常識だろ?」

「んなアホな。サイズが多少でかいくらいで着られないはずが」

「いや、ダメ」


 この世界の謎のルールにより、ベストをミミに装備させることはできなかった。


 どうにも腑に落ちないがそういう仕組みになっているらしい。


「くっ……だったら新しいローブを買っていくか……」

 

 しかしローブはどれも同じようなもので、今羽織っている植物繊維のものより明確に上と言い切れる一品は見当たらなかった。


「うーむ」


 仕方ない。どうせミミは後衛だし、防御面は後回しにするしかないか。


 とりあえずホクト用のプレートメイルを買って、防具屋を去る。


 その足で宝石鉱山へと向かった。


「うおお、なんて賑わいだ……圧倒されるな」


 町を出て一時間ほど歩いた先にあるそこは、既に多くの冒険者が集まっていた。ツルハシを相棒に続々と坑道の中へと踏み入っていく。


 坑道、といっても人の手が入りまくっているからか、まるで現実世界のトンネルのようだし、当然のように灯りも確保されている。


 入口前には宝石の鑑定所が併設されている。


 見た感じ、買取も行っているようだ。


「よっしゃ、俺たちもいっちょ挑戦するか」


 銀の鎧に身を包んだホクトと、杖を掲げたミミが同時に「おー」と手を上げた。


 いざ坑道へ。


 各所にランプが設置されているから暗さは欠片もない。


 道幅も広いし天井も高いな。


「活気がありますなぁ。まさに鉱夫たちの戦場といったところでありましょうか」


 ホクトが思わずそう感心して呟くくらい、大量の冒険者たちが岩壁に向けて一心不乱にツルハシを振っていた。


「俺はまったく興味ないけどな……あいつらも汗水垂らしてよくやるよ」


 採掘なんてめんどくさい作業はやる気がしない。


 ゴーレムを倒して手っ取り早く宝石をいただくとしよう。


 依頼を出すついでにもらった宝石鉱山の地図を眺めてみる。


 手前側は採掘専用のエリアであり、魔物はほとんど発生しない。奥に行けば行くほどゴーレムの出現率が上がっていくそうなので、俺はガンガン進んでいった。


「人が減ってきましたね」

「そうだな」


 手前の採掘場には多くの人々が群がっていたが、半ばを過ぎた頃には少数になっていた。


 戦闘で宝石を稼ごうとしているのはこれだけということか。やはりゴーレム相手は一筋縄ではいかないらしい。


 ところで、現在の俺の装備はブロードソードのままだ。


 土属性のツヴァイハンダーだと、全身が岩石で構成されているというゴーレムには効きにくいかも知れない。純粋な威力では劣ってもブロードソードのほうがマシなのではなかろうか。


 まあこれは俺の意見ではなくミミのアイディアなのだが。


 とはいえ俺としてもこの剣は戦闘で扱ってみたかった。風を起こす追加効果には応用力がある。練習がてらに振るってみるのも悪くない。


「……おっ」


 異変を察知して足を止める。


「早速お出ましか」


 いくつもの立方体で組み立てられたような外見の、灰褐色の石像。


 ゆっくりとだが動いている……あれがゴーレムだな。


 体高は二メートルちょっとか。イメージしてたよりは小さいな。


 慎重に接近。


 剣を抜き、対峙する。


 この睨み合った状態の緊張感が……。


「……いや、動けよ」


 まったくしかけてこない。こっちから先に斬りかかっても構わないってことか?


「それじゃ遠慮なく」


 なにかしらアクションしないことには始まらない。俺はブロードソードの緑の刃を思いっきり叩きこんでやる。


「うおりゃ! ……って、痛ぁっ!?」


 右手が電流でも走ったかのように痺れる。剣と石との激しい衝突による反動が原因だと理解するまで数秒かかった。


 かてーよ、馬鹿。


 これはあれか。フィーの洞窟で見かけたゼリーの逆パターンか。


 もっとも一切通じていないわけでもなさそうで、ゴーレムの表面にはヒビが走っている。さすがはレアメタルの破壊力といったところか。


 そんなことを考えている間に、ゴーレムは恐ろしくでかい手を握りしめると、俺に向けて拳打を放ってきた。


 回避できるような技量は俺にはない。モロに命中する……が。


「……全然効いてねぇな」


 まったくの無事だった。怪我はもちろんのこと痛みすらほとんどない。ベストよりも防護範囲が広いおかげか、明らかに受けているダメージが少ない。


 なんなら剣をぶつけた時のほうが痛かったな。


「だがまあ、倒れる心配がないってんなら安心して挑めるな」


 さて、どうこのデカブツを料理するか。


 さっき推考したように、多分こいつは物理に対して頑丈な代わりに魔法には弱いはず。


 しかしブロードソードが起こす風にはほとんど威力がない。


 となると。


「ミミ、連繋していくぞ」

「はい。シュウト様の指示に従います」


 焦ることはない。こっちには優秀な魔法使いであるミミがいる。


 まず俺は向かってくるゴーレムに向けて切っ先を突きつけ、旋風を浴びせる。猛烈な勢いの風に吹き飛ばされたゴーレムは鉱山の岩壁に叩きつけられ、一時的に意識を飛ばした。


 本来剣が持てる役割はここまでなのだが、逃げるための時間稼ぎ、ではなく、追い討ちのチャンスとして活用する。


「今だ! 魔法で追撃してくれ!」

「分かりました……パラライズ!」


 杖をかざしたミミによる遠距離攻撃が飛ぶ。


 魔力によって生成された光の糸がゴーレムの肉体に巻きついた。


 ミミが習得している『初級呪術』は、属性などは一切存在しない代わりに呪縛効果がある、らしい。ミミから聞いた話なので詳しくはよく知らない。


 うまくいけばダメージだけでなく敵に不利益を与えることができるそうだが……。


「……これ、成功してるよな?」


 糸から逃れた後もゴーレムは動きがギクシャクとした不自然なものになっている。


「ええと、麻痺の呪縛にかかっていると思います……他の魔法も試してみましょうか?」

「おう、任せた」

「では……フラジリティ!」


 今度は真っ黒な煙が尾を引くように杖先から放たれた。


 黒煙がゴーレムを包む。


 にしても、近接していないと完全にデクの坊だな、この魔物は。


「先ほどの魔法には虚弱の呪縛をかける効果があります。きっと今なら、シュウト様が剣で攻撃しても大丈夫だと思います!」


 やってみるか。


「でりゃあっ!」


 再接近し、剣を振りかぶった。


 相手は麻痺しているから反撃をくらう心配もない。存分に刀身をぶつける。


 手に痺れは……伝わってこない! 衝撃はすべてゴーレムへと流れ、その肉体があたかも砂であるかのように粉微塵になって崩れ去っていく。


 ゴーレムは瓦解し、おぼろな煙へと姿を変えた。


「よくやってくれたぜ、ミミ」


 俺は勝利の立役者であるミミとハイタッチを交わす。


 ミミはいつにも増してぽけっとした表情を浮かべていた。魔法がもたらす効力に自分自身でも驚いているようだ。


「ミミはとてもとてもドキドキしています。攻撃魔法を使ったのは、初めてですから」

「その割には上出来だったけどな。状況に合わせて使い分けてたし」


 これが才能ってやつなのか。


 加えてレア素材の杖とアクセサリーで補強しているからな。呪縛効果だけじゃなく実ダメージも相当稼いでいたことだろう。


「……だが……」


 ゴーレムの討伐に成功したというのに、俺はその結果をイマイチ喜べずにいる。


 それもそのはずで、ゴーレムが落としたのは昨日説明を受けたとおり石の塊だけ。


 金貨は影も形もない。


 スキルが発動しないから人目を気にせずに戦えるのはいいのだが……が……。


「すげーモチベーション下がるわ……」


 ドロップアイテムにしたって、宝石なのかクズ石なのか現段階では区別できないし。


 成果が実感できないとは、なんて過酷なシチュエーションなんだ。


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