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俺、利用する

 おい待て。


 どんどん外堀が埋まっていくんだが。


 ホクトがそばにまで来る。


「自分は主殿の役に立ちたいであります。自分のように馬車馬のごとく働くしか能がない者には、他に主殿のためにできることはありませぬ。どうか大役を担わせていただきたいであります!」


 どうやらホクトは俺への貢献度の低さに引け目を感じていたらしい。


 魔法によって戦闘をサポートできるミミと違って、荷物持ちしかやらせていないからな。


「いいね、これなら君の足労にもならないだろう。それならルールも厳格化しないとダメだな。お互いにパートナーを一人ずつつける、ということでいいかな?」

「いや俺はまだ受けるとは言ってないんだが」


 まあそう焦るなよ、と。


「まず第一にお前の出した条件っていうのが不信だ。蝶を捕まえるったって、当日じゃなくても前もって捕まえておいたらいいだけじゃねぇか。それにめったに見ることのできない珍しい魔物なら、偽物持ってきてもバレないだろ」

「ギルドの職員に鑑定してもらえばいいよ。彼らは魔物に関する知識のエキスパートだ。ヒスト・ラクシャリアが本物であるか、捕まえた日付がいつか、きっちり導き出してくれるはずさ」


 そういやレアメタルといい筆跡といい、この世界の鑑定技術はやたら精度が高かったな。


「でもさ、自分で言うのもなんだが、冒険者ギルドは俺よりだぜ」

「僕はギルドマスターの中立性を信じるよ」


 ムカつくくらいに清々しく答えるヤンネ。


 その潔さにまた観衆が沸いた。


 これはまずい。なにがまずいって、ここまで来て断ったら俺の敵前逃亡になる。結局のところ尻尾巻いて町を去るのと同じことになるからな、このままだと。


 追いかけてきたであろうリクたちの不安げな姿が見える。


 受けないのが最悪の結果か。


 この町の冒険者は長らくゴミのような扱いだったと聞いている。


 せっかくゴミが燃えてきたところなんだし、その火を絶やすのはダメだよな。


「分かったよ。俺が一肌脱げばいいんだろ」


 俺を支持する人間が息を吹き返す声が、一斉に沸き起こった。



「シュウト様、本当によろしかったのですか?」

「仕方ないじゃん。俺がうんって頷かないとどうしようもない空気だったじゃねぇか」

「自分は燃えております! 主殿の名誉のために全力を尽くすであります!」

「お前のやる気で完全に退路断たれたんだけどな……今更だからいいけど」


 広場での騒動が静まった後、俺はギルドに戻ってラウンジで管を巻いていた。


 日時はインターバルを置いて五日後の朝六時に決まった。


 他に定められたルールとしては回復アイテムの持ちこみ可、相互干渉の禁止、など。


 要するにタイムアタックレースみたいなもんだ。


「がんばってください、シュウトさん」

「私、精一杯応援します!」

「シュウトさんの男気に俺たちも勇気づけられたッス!」


 Eランクの冒険者たちが束になって声援を送ってくるが、別に責任だとか男らしさだとかそういうことを考えて受けたわけじゃない。


 こいつらを裏切るのが忍びないからという、言っちゃなんだが自己満足だ。


 俺は別に弱者の味方ではない。元々社会的弱者だったからこそ似たような弱者に同情してるだけに過ぎない。客観的に見ると完全にツンデレの思考なのだが、ここの連中にシンパシーを抱いてしまってるんだからしょうがないだろう。


「俺に構う暇があったら仕事してこいよ。リクはもう鉱山まで行ってんだぞ、ちょっとは見習え」


 と言って、俺は働きに行くよう促した。


 まあでもやるからには勝たないと意味がない。なんのためにこいつらの世話を焼いてやったんだってことになるからな。


 ホクトのコンプレックスもなんとかしてやりたいところだし。


 皆が出発したのを見届けてから、受付まで歩み寄る。


「おっさん、なんとかかんとかっていう蝶の情報を教えてくれ」


 まずはそこから知らないことには始まらない。


「ヒスト・ラクシャリアか? 分類上は魔物扱いだが、観賞用として有名なラクシャリア種の中でも山岳地帯に生息するといわれている個体で、しかも特に希少な……」

「いやそういう情報を聞きたいんじゃなくてだな」


 俺はペットショップに来ているわけではない。


「外見的特徴とかか?」

「それ。そういうのだ」

「俺も直接目にしたわけじゃないから伝聞でしか知らないが、通常の蝶よりも一回り大きく、鮮やかな青紫の翅を持つといわれている」


 それだけ聞いたら日本の国蝶みたいだな。


 よって今後微妙にもじってビッグムラサキと呼ぶことにする。


「実物は貴族くらいしか見たことがないから、どれほどのものかは分からんがな」

「見たことないのに鑑定はできるんだな」

「そりゃあな。でないと要注意指定の魔物の素材が持ちこまれたときに審査できないだろ」


 ふむ、確かに。


 以前の町で素材を持ち帰る都度、一発でどの魔物のものか見破られたことを思い出す。


「ってことはおっさんが鑑定役を務めてくれるんだな。ヤンネもギルドマスターがどうこう言ってたし」

「ああ。アセルで適任なのは俺くらいだろう」

「どうせなら俺に肩入れしてくれたりは……」

「それはいくらシュウトとはいえ聞けない頼みだな。冒険者ギルドの責任を負っている以上、冒険者に対しては公正な立場であることが求められる」


 だろうな。でなければヤンネ軍団が押しかけてきた時に「俺の門下生がかわいいからお前らはアウト」って依頼から弾くこともできたろうし。


 それにしてもヤンネという男は爽やかなくせに妙に不気味だ。取り巻きにしても商業組合にしても、そして挑戦を受けることになった俺にしても、本人の意図どおりなのかは知らないが世論を先導する力がある。


 あれがカリスマ性ってやつなのか。


「蝶の出現条件みたいなのは分かってるのか?」

「目撃情報に寄れば時間帯は関係ないらしい。だが、残りは未明だ。出現場所が頂上付近ということだけは判明しているが……」

「げ、よりによっててっぺんかよ」


 もっと低空を飛べよな。


「捕まえさえしなければルール破りにはならないから、下調べに行ってみるのもいいだろう」

「山頂まで行く時点で相当な手間だしな……」


 いくらホクトに背負ってもらったとしても、場所移動こみで往復十六時間はきつい。丸々一日をそれだけに費やすことになる。


 これは人員を雇うか。資金は大量にあるし。


 ただ地元の冒険者はまだ山道で活動できるほど鍛えられてないし、Cランクをアテにするにしても遠征中の奴しかいない。つまりはヤンネの一派なわけで。


「あいつら金で動いてくれるかな……」


 無理だな。愛しのヤンネ様に操を捧げるだろう。


 ……ん? 待てよ。


「いたじゃねーか。ちょうどいい第三者が」


 俺は無性に愉快な気分になってしまった。


 精々こきつかってやるか。


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