俺、昇進する
激動の時から数日。
風の噂で聞いた話だと、エリザは莫大な額の保釈金と資産家である父親の威光であっさり釈放されたらしい。
いつの時代もカネとコネは最強だな。
とはいえしばらくは監視が付けられるので、この町で大人しくするしかないらしいが。
溶かされてしまったツヴァイハンダーも魔法屋で最高料金のリペアをかけてもらったことで、元通りの美麗なフォルムと輝きを取り戻した。金属の質に応じた価格だったので目玉が飛び出るほど高かったものの、これからも頼らせてもらうとしよう。
で、俺はといえば。
「おめでとう、シュウト。いや、よくぞやったと言うべきかな」
斡旋所の受付に立つおっさんが感慨深い表情を浮かべている。
盗賊ギルドの解体という大役を果たしたおかげで俺の名声は一気に高まった。
更に、どうやら洞窟の中で俺が倒したゼリー状の魔物は要注意指定を受けていたらしく、確か正式名称はアブババババ・ビバババとかそんな感じの発音だったと思うが、とにかくそいつの撃破も実績に加えられている。
結果……。
「今日からお前はCランク冒険者だ。成し遂げたな、シュウト!」
おっさんが手をパチパチと打つと、斡旋所内にいた面々からもまばらな拍手が起こった。
「いや、そんな人から祝われるようなことじゃないと思うんだけど」
「なにを言ってるんだ。ギルドに登録して一ヶ月ちょっとでCランクだなんて、異例のスピード出世だぞ。このギルドでも過去に一度か二度あったかどうか……」
記憶を漁り始めるおっさんだったが、俺が知りたいのはそんなことじゃない。
「それより、これで通行証を発行してもらえるようになったんだよな?」
「ああ、そうだな。……シュウト、もう行くつもりなのか?」
「準備ができたらな」
旅、といってもこの世界じゃバスや新幹線でひとっとびというわけにはいかず、ひたすら歩き続けることになるのだろう。
アホほど疲れるだろうが俺には楽園となる屋敷を買う夢がある。
そのためには土地を比較できなければならない。ジキのように世界を回ってみないとな。幸い俺はあいつと違って軍資金に困ることはない体質だし。
それに、通行証の権利を得た今、名声稼ぎに躍起になる必要もなくなった。
これはありがたい。ようやく資金繰りに全力を注ぐことができる。
「そうか。いやしかし、最初にお前のことを見かけた時は、ここまでやってくれるとは微塵も思わなかったなぁ。というか、今でも見えないしな」
「うるせーよ。とりあえず、買い物もしなくちゃいけねぇから、明日一日はオフにするぜ。明後日通行証を受け取りに来るよ」
そう伝言を残して俺は家路についた。
ミミに帰宅を報告。
「おかえりなさいませ。本日は、ランクの確認だったそうですけど……」
「ああ、上がってたよ。Cランクだ。これでどこにも行けるようになったぜ」
俺がそう吉報を届けるとミミは「おめでとうございます」と微笑んだ。山羊の角もどことなく万歳しているように見えてくる。
「それでは、明日はお買い物ですね。支度をしませんと」
「買い物っていっても、ある程度の食料と飲み物と、あとはテントの予備くらいしかないけどな。風呂や洗濯はミミの魔法でまかなえるし、そんなにいらないよ。地図も斡旋所でもらえるしさ」
やることもないので、ベッドに横たわる。
しかしまあ、今回はこたえた。
あれだけヒメリに先を急ぐなとか偉そうに言っておきながら、俺自身が功を焦って窮地に陥ってるんだからな。反省せねば。
ランクも上がったことだし、今後は自分のペースで金を稼ごう。他の地方に移れば普通に金持ちとしてふるまえるから、スキルバレ以外の行動制限も緩くなるしな。
できることならまとめて稼げればそりゃ最高だが。
「シュウト様」
ベッドの隅に腰かけるミミ。
「ミミたちが持っていく荷物は少なくとも、道中で獲得したものを積むだけの装置は必要だと思います。荷車や荷馬車を買われてはいかがですか?」
「あー、それもそうだな」
アイテムにしろ金にしろ、運搬し続けるならそれを載せるための土台がないとな。金は特にこれから増え続けることが予測されるし、装備品にしてもそうだ。
しかしそれだけの荷物を俺とミミで牽引するのはきつい。
どうせ買うなら荷馬車がいいか。
エリザとの一件以降も細々と金策に出かけていたおかげで、我が家の貯蓄も三百万G以上まで膨らんでいるし、少しくらいなら贅沢できる。これから得られるものの大きさを考えれば安い投資だろう。
「でも馬とか飼育できないし、まともに扱うノウハウも持ってないんだけど」
一瞬で根本的な問題にぶつかる。
うーむ、これはあれしかないな。
馬ではなく、馬の獣人を買おう。